ようこそ、喫茶『時の休息』へ
ここは『時の休息』と言う小さな喫茶店。
お客様は多種多様で、皆様いつも疲れきった状態で、ご来店して来てた。そんな喫茶店の店内は、壁と天井は星々が散りばめられ輝いており、床は焦げ茶色の木目の床だ。その小さな空間には、小さなテーブル席が1つとカウンター席が数席、そして店内の一番奥には、160弁の巨大なディスクオルゴールが、カノン等数種類の曲を、耳心地の良い音色を奏で、店内を包み込んでた。
そんな店内で私は、時折懐中時計を取り出し時間を確認していた。そして何度目かの確認を終え、懐中時計を締まったその時、チリーンと鈴の音と共に、入口がゆっくりと開かれ1人の長耳の女性が入ってきた。女性は、金色のロングヘアでスレンダーな体型、そして目尻が長くきれた綺麗なライトブルーの瞳に長い睫毛に色白と、まるで彫刻品の様な整った顔立ちをしていた。
「いらっしゃいませ」
「なっ、なんだ? ここはどこだ?」
女性は店内をキョロキョロと不思議そうに見渡し、私の事を怪しむ様に、それでいてどこか不安そうな顔を向け、鈴を転がすような声で聞いてきた。
「ここは喫茶『時の休息』です。 よろしければ、こちらのお席におすわりください」
「し、しかし今手持ちが……」
「ご安心ください。 当店は、初回の方にサービスをしていますので。 ほらノルン早く来てお客様を案内して差しあげなさい」
私がそう言うと、カウンターの裏からひょっこりと、1人の小さな女の子が顔を出してきた。栗毛のポニーテールに、大きな黒い瞳に幼子特有の柔らかそうで丸みのある可愛らしい顔立ちをしていた。
「はーい♪ さぁお姉ちゃんこっち座って♪」
「え?あっ! わ、わかったからそんなに引っ張らないでくれ」
ノルンは女性を見ると、にぱっと眩い笑みこぼしカウンターから嬉しそうに出てきて、女性の手を掴み太陽のように明るく、楽しそうな声で案内し始めた。女性も、あまりにも無邪気な子供のノルンに、戸惑いながらも席まで案内されてた。
「お姉ちゃんすぐお水持ってくるからね♪」
そう言って、席まで案内したノルンは、水差しに入った小さな草が浮いてる水をグラスに注ぎ、零さないようにそっとトレーに乗せてゆっくりと歩き、真剣な表情で持ってきた。
「ふぅー。 はい、お姉ちゃん♪」
「あ、ありがとう……んっ!? こ、これはミント?」
無事零さずに持ってこれた事にホッとしたのか、ノルンは一息つき、グラスを女性に渡した。女性はそれを、不安げに受け取り、なにか覚悟を決めグラスの水を口に含んだ。その瞬間、女性は驚きノルンに草の正体を確認してた。
「そうだよ♪ ミントの清涼感があって良いでしょ♪」
「ああ、まさかミントを水に入れるとは、想像もしてなかったよ」
「えへへ♪ 私もマスターに初めて貰った時、ビックリしすぎて吹いちゃったよ♪」
「そ、そうなのか。ん? 2人は親子では無いのか?」
「へ?……そ、そうだよ? な、なんでそんなこと聞くのかな?」
「いや、父親の事をマスターと言ったり、この水も最初は知らなかったみたいだからな」
ノルンは、何処か慌てていて、視線が左右に泳いでおり、返事も何処か、たどたどしく感じる話し方だった。そして、泳いでた視線で必死にサインを送りながら私の方を見ていた。
「あはは、ノルンが勘違いする様な事を言って申し訳ありません。 なにせ、お店では父と子ではなく、あくまでマスターとウェイトレスの関係と教育してたので」
「え? あ、ああそうだったのか。 私こそ変な事を聞いてすまなかった。」
「いえいえ、あっ! 自己紹介がまだでしたね。 私は当喫茶店のマスターをしておりますクロと言います。 そして、ウェイトレスのノルンです」
私はそう言って右手を胸元に当て、軽く会釈した。私を見た女性も、慌てて座ったまま頭を軽く会釈し、自己紹介をしてきた。
「クロにノルンでいいんだな? 私はエルフの里に住んでるフィーユだ」
「はい、フィーユさんですね。 それでは早速なのですが、フィーユさんは食べれない物とかありますか?」
そう言うと、フィーユは考え込んでしまった。私はてっきり動物性の食べ物は、ダメとか言われると思ってただけに、その行動に驚いてしまった。
「あれ? お姉ちゃんエルフさんなら、野菜や果物とかしか食べないんじゃ?」
「ん? ……そ、そうだな。 すまぬがクロよ、野菜や果物系以外は全て食べれないという事で頼む」
「わかりました。 それではそれでなにか1品と飲み物はどうしますか?」
「そうだな……それなら、せっかくこのミント水を頂いた事だし、ミントティーとかあれば頂こう」
「わかりました。 それでは、少しお待ちください」
私はそう言って、カウンターの下に置いてる箱の蓋を取り、黄色とオレンジ色のペーストが入った入れ物を取り出した。
そして白いクリームが入った入れ物も取り出した。
クリームを見たフィーユは、慌てて私に話しかけてきた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 動物性は駄目だと言ったはずだが? それなのに今取りだしたそれは、生クリームでは無いのか?」
「いえ、これはホイップクリームと言うものでして、植物性のクリームになります」
「そ、そんな食材があるのか……す、すまぬ疑ってしまって」
「いえいえ。 初めて見るんでしたら、勘違いしても仕方ないですから」
私はそう言って、小さめのボウルを2つ使って、それぞれにホイップクリームをいれ、その後ペーストを片方にオレンジ色を、もう片方に黄色のペーストを、それぞれ入れ優しく馴染ませるように混ぜ合わせた。これは一旦このまま置いとき、別の作業を始めた。
少し大きめのボウルに、小麦粉と豆から作った白い液体、そして山芋をすりおろした物を、ダマができないように混ぜ合わせた液体を、熱したフライパンでゆっくりと焼き上げていった。
そう私は、パンケーキを作ることにしたのだ。
焼き上がるにつれ、店内はパンケーキの焼ける良い匂いが、オルゴールの奏でる音色と共に広がってた。
「ん? なんか凄く良い香りがしてきたのだが?」
「はい。 動物性を一切使ってない、パンケーキを作ってますので、もう少しお待ちください」
私はそう言って、水差しに入ってるミント水を鍋に入れ、温め始めた。その間にティーポットに新鮮なミントを入れておく。
ちょうどパンケーキが焼き終えたタイミングで、ミント水も温まり、温まったミント水をティーポットに全て注ぎ、暫くそのままにして置いとく。
そして、焼きあがったパンケーキ平皿の真ん中に2枚置き、平皿の右上にオレンジ色ペーストクリームを、左上に黄色のペーストクリームをそれぞれ添え少量のベリーソースを平皿の下側に、曲線を描く様にサッと添え、カットしたストロベリーやブルーベリー等の果実を少し散らし、パンケーキの上から粉砂糖を軽く振るいかけ、ミントを添えて完成。
ちょうど時間的にミントティーも良い感じになっており、小さなツボに入った蜂蜜と一緒に、フィーユの所へ持っていった。
「お待たせしました。 秋野菜のクリームのパンケーキと、ミントティーです。 ミントティーは、お好みで蜂蜜を入れてお飲みください」
そう言って私は、説明しながらフィーユの前に置いていった。フィーユは、それを見て驚きビックリした表情で、置かれたパンケーキを見つめていた。
「こ、これ全て野菜や果物とかでできてるのか?は、始めてみる料理だな……」
「はい、生クリームの代わりにホイップクリームを牛乳の代わりに豆乳と言う、豆から作れるミルクを代用してます。 そして卵の代わりに、山芋をすりおろした物を使いました」
「す、すごいな……そ、それでは早速いただこう」
そう言ってフィーユは、初めて見るパンケーキに恐る恐るといった感じで、ナイフとフォークを使い1口サイズにカットし、その上にオレンジ色のクリームを乗せ口に運んだ。ゆっくりと咀嚼をし始めたフィーユは、いきなり目を大きく見開き、何度もパンケーキと私に視線を向け、口の中のパンケーキを飲み込み、少し早口で話してきた。
「な、なんなんだこれは! このパンケーキという物は凄くフワフワだし、このオレンジ色のクリームは……カボチャなのか?
それにしてはかなり甘いじゃないか!? こんな美味しい物食べた事ないし、誰も見た事がないぞ!?」
「はい、山芋を入れることでフワフワになります。 それに、カボチャは、じっくりと熟成させたら甘味があって、お菓子にも使えるんですよ。 もちろんもう一方のサツマイモのクリームも同じことが言えますね」
「なっ!?」
驚いたフィーユは、もう片方のクリームを乗せたパンケーキを、急いで食べた。
「こ、これが……サツマイモ……あの、モッサリとし美味しくないサツマイモだと言うのか?」
「はい、コチラも種類により甘さの差はありますが、ちゃんと管理し熟成したら、凄く甘くなります」
「そ、そうなのか……私は何も知らなかったようだな……」
そう言って、そっとミントティーを飲み、一瞬驚いてたが、その顔は何処か寂しげな表情をしていた。
「お口に合わなかったですか?」
私がそう聞くと、力無く顔を左右に振ったフィーユは、ぽつりぽつりと語り始めた。
「実は、さっきノルンが言ってた事は、遠い昔のことなんだ」
そう言ったフィーユはノルンの方にそっと視線を送った。ノルンはというと……静かだと思ったら、テーブルに顔を伏せて寝ちゃってた。
「今は、里によっては動物性も食べてる新考派のエルフもいる」
「そうだったんですね」
「ただ、私の里は古くからの考えを大切にしてる旧考派でな。
そう言ったのは、禁忌とされててもし食べたのがバレたら、里を追放されるんだ」
そう言ったフィーユは、フッと苦笑して自分の耳をそっと触れた。
「なぜエルフってだけで、食べる物が決めつけられる様な決まりがあるのだろうな。 なぜ私の里だけ、そんな古い考えのままなのだろうかと、このまま他の里みたいな、柔軟な変化ができず、いつか里が無くなるのではなんて事を、何度考え悩んだ事か……」
そう言いながら俯き、静かに震えだした。私は、そんなフィーユさんにかける言葉を見つけれず、ただ名前を呼ぶことしか出来なかった。
「フィーユさん……」
「だが! 今日クロ達の店に来れて、このパンケーキとミントティーをいただけて、私は考えを改めることが出来た!」
そう言って、ガバッと顔を上げ立ち上がり、両手で私の両肩を掴んできた。私は、ただ驚く事しかできなかった。
「今のままでも、やり方だけでこんなに素敵な物が作れるのだと、食べれるのだってわかった。 それが分かっただけでも、私は今日の出会いを、神に感謝したいぐらいだ。 私は今日食べたこの感動を、里のみんなに伝えてあげたい。 そして周りとは違い、古き考えを大切にしながらも、他の里より素晴らしい里にしていきたいと、思えたのだ!本当にクロ達のおかげだ!ありがとう」
「いえ私とノルンは、訪れたお客様におもてなしをするのが、仕事ですから」
興奮してるのか、すごく早口で感謝を伝えてくるフィーユに、私はそう言って、優しく微笑んだ。
「そ、それでだな……出来ればいいのだが……」
フィーユはそう言って、申し訳なさそうに言葉を詰まらせながら話してきた。もちろん内容は分かってる。レシピとかを知りたいのだと。私は、そっと1冊のノートをフィーユの前に置いた。
「言いたい事はわかってます。 里のためにコレを使ってください。 私の手書きなので見づらかったら申し訳ありません」
「い、良いのか!?」
「はい、レシピは全て覚えてますし、また描き残せばいいだけなので」
「な、なら有難く頂いてこう。 本当に何から何まで感謝しかない」
そう言って大切そうにノートを抱きしめたフィーユは、何度も頭を下げお礼を言ってきた。
暫くして、店内のオルゴールが何周かした時、フィーユは帰ることになった。フィーユは、何度もお代を聞いてきたが、サービスだと説得し、最後まで申し訳なさそうにしてた。帰り際にフィーユは、「機会があれば里にも来てくれ」とだけ言って、頭を下げてお礼を言って帰って行った。
私は、フィーユが座ってた席を片付け、一息ついた頃にノルンが目を覚まして来た。
「あれ? お姉ちゃんは?」
「もう帰りましたよ? 全くお客様が居るのに寝てしまうとは……」
私は、やれやれと思いながらも、起きて私のところまで来たノルンの頭をそっと撫でてあげた。
「どうなったの? 無事救われた?」
ノルンは擽ったそうに撫でられてる頭を、プルプルさせながら聞いてきた。
「はい、無事旧運命の女神様の過ちを正す事が出来ましたよ」
「そっか♪ それなら良かった♪」
そう言って、にぱっと太陽の様な笑みを浮かべた運命の女神様は嬉しそうだった。
「クロノスのおかげでまた助かった人が1人増えて私は、凄く嬉しいんだよ♪」
「はいはい、それはよろしいのですが、まだまだいますので、当分はこの生活が続きますからね?」
そう……旧運命の女神が暇を紛らわす為だけにやってきた行い……それによって、狂ってしまった運命の、軌道修正が終わるまで私達……時間の神と運命の女神は、この喫茶店を続けていかなければならない。今日来店したフィーユさんもまた、運命を狂わされた1人だったのだ。彼女は……違うな、本来彼女達エルフは、動物性の食事をしないハズだったのだ。私達はその中の1人だけを助けることが出来ただけに過ぎない……
もし、フィーユさんを助けることが出来なかったら、遠い未来エルフは、完全に滅びる運命を迎えてたのだ。
そう……本来食べない物を食べた事による体の変化によって発症する病によって……
そんな事を考えながら私は、そっと懐中時計を取り出し、動かない時計を確認し、そっと閉まった。
「また、時が止まりましたので、誰か来ますよ。今度はちゃんと起きててくださいね」
「今度は、寝ないでちゃんと頑張る!」
ノルンがそう言ったのを、合図にまた扉が開かれた。
今度はいったい、どんなお客様が来られたのでしょうか。
お楽しみいただけましたでしょうか?
沢山の人に楽しんでもらえたなら長編小説としても書きたいと思うほど、設定組んでしまいました
( ゜∀゜)アハハ八八ノヽノヽノヽ
是非感想と評価よろしくお願いします!!
☆☆☆☆☆→★★★★★
なんてこともして貰えたら、今後のモチベーションにもなりとても喜びます!