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巡察使、到着する

 ごつごつとした丸太の城門がゆっくりと開く。空いた扉から、数名の鎧を着た騎士が入場する。先頭には軽装の貴族らしき人物。眼鏡をかけた、中年の痩せた男性である。しげしげと周りを見ながら馬を進める。

「さすがは辺境柏領というだけのことはある。埃っぽい」

 吐き捨てるようにそうつぶやく男性。

 城の庭には数名の兵が出迎えていた。正面には同じく鎧をまとったカレルの姿。

「これは巡察使どの。到着は明日と聞き及んでおりましたが」

「旅程のはかが良くてな。早く来られては、何か不都合でもありますかな」

 馬上からそう頭ごなしに、答える男性。カレルは無表情のまま、男性の馬を誘導する。

 巡察使――オストリーバ帝国内にあって、各荘園をめぐりその状況を調べる権限を持つ役職。かつて、皇帝権力の強い時代には『王の目、王の耳』とも呼ばれていた。皇帝は巡察使からの報告により、不正をした領主を罰し、世の政治を正したのである。

 しかし、帝国が多くの領邦に分裂した今、その役職は別な意味を持っていた。それは――堂々と敵対する荘園をスパイすることのできる役職という――


 リーグニッツ城の大広間。大きなテーブルの上に白いテーブルクロスがかけられている。その上には巡察使をもてなす料理が並べられていた。

「ゼーバルト辺境伯殿には、お元気であられるようで何より」

 巡察使がワインのグラスを傾けながらそうつぶやく。ゼ―バルト辺境伯、つまりハルトウィンは静かに礼をする。巡察使――ユストゥス=ケーグルはハルトウィンより格下の子爵の位の領土を持たない宮廷貴族であるが、何せよ『巡察』を行われる身の上である。儀礼上の形式というものであった。

「こう、帝都に長くおりますと辺境の空気や食べ物もなかなか、珍しく......ゼ―バルト伯もそろそろ帝都にお戻りになられてはどうかな?」

 巡察使、ユストゥスがテーブルの上にグラスを置きながら、そう問いかける。

 すっと、封蝋された羊皮紙をハルトウィンに差し出す。

「皇帝陛下からのお慈悲です。ゼ―バルト伯には領地を経営する手腕にかけている。無辜の領民を苦しめ、帝国の公益を私とすることはなはだしい......領地は没収となりますが、伯には帝都オスト=ペシュトに邸宅と扶持をつかわすとの、ありがたいお言葉です。なぁに女一人、召使が数人暮らすにはもったいないくらいの......」

「捨扶持というわけだな」

 ぺらぺらとまくし立てるユストゥスにさすがにたまりかね、ハルトウィンは言葉を挟む。

「皇帝陛下のご命令なら服するのは当然だが、そうではあるまい」

 その言葉に、ユストゥスは今までにない表情を浮かべる。封蝋を外し、羊皮紙を広げるハルトウィン。

「『ゼ―バルト辺境伯領は監察が終了するまで、隣国クリューガー公国にその統治を任せるものとする』。これか、巡察使どのの真の目的は」

 テーブルの上の燭台の炎が揺れる。その炎は二人を焦がすように照らしていた――

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