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科学と魔法のコンビネーション

 こつこつと階段をのぼる三人。螺旋状の階段で、それはどこまでも伸びていくような感じがした。さきほどこの屋敷を見たときは、そんなに高い屋根とは思えなかったのだが。

「こちらの部屋へどうぞ」

 階段の突き当りの一室をすすめられるハルトウィンとカレル。ハルトウィンは目でカレルに合図を贈り、ドアの取っ手に手をかける。ゆっくりと開くドア。匂いがする。それは土の匂い。そして――春の草原の爽やかな草の匂い――

 どこまでも、目の前に草原が続くような錯覚。これもザハールの魔法による錯覚なのだろうか。狭いはずの部屋が、まるで無限の広がりを持っているようにさえ見えた。

「どうぞ、お確かめを」

 地面を手で指ししめすザハール。先程と同じように、エルトウィンは土の地面の上に膝をつく。

 先程の『魔女の土』とはちがい、一面にびっしりと低い丈の草が密生していた。剣の先で、その草を掘り返す。中から出てくる土壌は――黒い土、『魔女の土』である。

「『魔女の土』自体は、農業に決して悪い土壌ではない」

 ハルトウィンはそうつぶやく。無言でそれにザハールはうなずく。長い髪とひげを揺らしながら。

「ただ決定的に足りないものがあるのだ――それは――」

 ザハールは空を指差す。それは――『窒素』。

 ハルトウィンの転生前はこの時代よりはるか先の、近代である。ある学者は、このまま人口が増加すれば農業生産力がそれに追いつかず、とんでもない飢饉が訪れ社会が崩壊すると予言していた。

 しかしそれは人間の科学の力によって、克服することが出来た。

 空気から、最も重要な化学肥料である『窒素』を取り出すことに成功したのだ。

 ハルトウィンが帝国宰相に就任する前、とある学者がこの方法を発表し、国際的な名誉ある賞を獲得した。帝国のみではなく、全世界に大きなインパクトを与えた発明である。

 『空中窒素固定法』。そう呼ばれたその手法は、帝国の優れた工業技術に転用された。

 本来、食料自給率の低かった帝国が、大陸大戦で他国に貿易の遮断を受けつつも、戦争を継続できたのはこの技術によるところが大きい。なんと言っても同面積の農地での生産性が十倍近く、アップしたのである。

 彼が彼女、ハルトウィンとして転生したこの、中世の帝国には『科学』は存在しない。

 しかし、転生前に存在しなかった『魔法』は存在した。

 ならば――彼女は決断する。『科学』でなし得たことを『魔法』で再現してみせようと。

「私自身は、あくまでも”錬金術師”。魔法使いとしてのスキルは高いものではありません。そんな私でもようやく、実用レベルでの『窒素シュティクシュトフ』の生成に成功しました。辺境伯様にその可能性を教えていただいてから、三年近くかかってしまいましたが――」

 首を振るハルトウィン。

「いやいや、類まれな才能の錬金術師であるアルセーニエフ教授なればこその、功績だ――なれば実際に私自身の魔法術でその『窒素シュティクシュトフ』の生成を試させてほしいのだが」

 懐から、羊皮紙を取り出しザハールはそれをうやうやしくハルトウィンに手渡す。そこには古代ラテラン文字で記された詠唱――

 彼女の魔法術による『窒素シュティクシュトフ』の生成がここに、始まる――

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