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賢者の贈り物

 帝国首都オスト=ペシュトは政治都市である。純粋な意味での商業はさほど盛んではない。しかし、そこには各地から貴族が別邸を設けまた各地のいろいろな珍しい産物も税として運び込まれていた。

 帝都の中心的な商業街である『マルクト=ペシュト』にはそのような状況を反映して、帝国各地の珍しい商品やら産物が露店にもあふれていた。喧騒、というよりはどこまでも上品で高級さが感じられる商店街である。あちらこちらに馬を繋ぐ金具が壁にあるのも、購入者が主に貴族であることをうかがわせた。

 その中を行く、二人の影。一人は少年に近い。

 フードをかぶった一人はラディム=フォン=クリューガー、先日クリューガー公爵を継いだばかりの少年であった。

 もう一人は女性の鳴りをしている。「彼」はゼ―バルト家家宰カレル=クバーセク。若いながらも辺境伯家の家老ともいうべき存在であった。男性ではあるが、普段は女装を常としていた。

「すごい品物ですね」

 さすがのラディムも目を奪われる。活気や安さでは領地のハレンスブルクに及びもしないが、その商品――宝飾品や衣類などの種類の多さ、品質そして値段も明らかに格上のものであった。

 公爵位を無事にいただき、皇帝にも謁見できた次の日二人は帝都の見物に興じていた。

 あまり気乗りのしないカレルであったが、ラディムが望む以上同行しなければ護衛としての役目を果たすことができない。

『公太子殿の身、よろしく頼む』

 カレルにとって、ハルトウィンの命令は絶対であった。

 ふ、と目に入るドレス。落ち着いた色ではあるが凝り方が尋常ではない。どうやら西の国の産物らしい。じっと見つめるカレル。大きさ、寸法、意匠などを眼帯をつけていない左目でじっと見定める。

「カレル殿、その服が欲しいのですか?」

 はっとするカレル。ラディムの存在を忘れていた。

「いえ」

 瞬時に気のない風をカレルは装う。値段を見るラディム。なかなかに――というかべらぼうに高い。ちょっとした邸宅なら一軒立てられるほどの金額であった。ラディムはカレルの顔を見やる。無表情を装ってはいるが、明らかに隠し事をしている顔であった。

 うん、と頷くとラディムはその衣装を売っている商人の方に歩み寄る。

 最初はいぶかしげであった商人が、ラディムの身分を知ると突然に姿勢が低くなる。

 そしてにこにこしながら袋を下げてカレルに近づくラディム。

「帝都での仕事に対する報酬です。まだ、爵位を受けたばかりの身ゆえ、これでとりあえず――」

 袋の中には先ほどのドレスが丁寧にたたまれていた。

「――受け取れるわけが」

「そのサイズは」

 ラディムは言葉をさえぎる。

「あなたにはいささか大きすぎますね。そう――『おねえさま』くらいにぴったりするような。恩に感じる必要はないですよ。これは報酬ですから」

 カレルは動揺する。自分の気持ちをラディムに読まれていたことに。

『このドレスを――ハルトウィン様に差し上げたい』

 その考えを。

 ぎゅっと袋を抱きしめるカレル。ラディムはカレルを促す。

「さあ、はやく公邸に帰りましょう。明日にはもどらなければならないですからね。わが都、ミュットフルトに」

 カレルの手を引くラディム。

 帝都の陽はようやく傾こうとしていた――

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