公爵位、認められる
いくつもの旗が大広間にたなびく。ここは帝国の立法府たる帝国議会である。もっとも身分制議会であるから、議員はすべて帝国貴族によって成り立っていたが。
議長を務めるのは、年配の大貴族クンツェンドルフ公クラウス、御年八七歳の老人である。形式通りに定例会議は開催され、厳かにいくつもの議題が読み上げられる。
基本、この本会議に至る前に大貴族同士で根回しはすんでいる。異議がない限り、論議になることはない。
終わりごろに『クリューガー公の即位について』の議題が取り上げられる。『クリューガー公領にて、当主と公太子の内戦勃発』というニュースは議員の周知のことであった。当然その経過と結果もである。議長の机の上にはクリューガー公の印璽と、当主を引退する旨のアロイジウスの公的申請書が供えられていた。
『意義なし』
広間に響き渡る、議員たちの声。クンツェンドルフ公は大きな金の槌を机にたたきつける。きーんと金属音が響き渡る。
『議題を了承する』旨の合図である。
帝国議会別室。そこには爵位典礼大臣たるネバニック子爵がラディムと向かい合っていた。
「『本日の帝国議会の議決の結果、ラディム=フォン=クリューガーを正式にクリューガー公爵と認めるものである。帝国議会議長クンツェンドルフ公クラウス』」
小太りなネバニック男爵が震えながら高い声でそう公文書を読み上げ、慇懃にそれを両手でラディムに手渡す。それをそっと受け取るラディム。
「いやいや、おめでたいことですな。正直、議会の論議も紛糾したところもありまして。なんといっても帝国内で内戦をしたわけですからな。見ようによっては簒奪、とも見えるわけで......」
そばに控えるカレルが後ろに回した手をぎゅっと握る。状況が許せば、男爵の失礼な言動に手が出ていたかもしれない。
「大臣閣下にはいろいろお骨折りいただき、感謝に耐えない」
そういいながら、机の上にそっと小さな羊皮紙を差し出す。
クリューガー公領内で使用可能な小切手である。金額は——金貨で千枚ほどの額に見えた。
ごほんと咳ばらいをしながら、それを机の引き出しの中に放り込むネバニック男爵。そして脂ぎった手でラディムに握手を求める。
「いやいや、お若いのになかなか。そうそう、もしよろしければ皇帝陛下に会われては。本来ならば正式な即位式の時に臣下の誓いを立てることになるのですが、わたくしの力をもってすれば、本日なりとも謁見を許可できるかと。顔をうっておくにしくはないですよ」
カレルの方をすっとラディムは見つめる。
静かにうなずくカレル。ラディムはそれを確認したうえで答える。
「ぜひ。皇帝陛下にはまだお会いしたことはないゆえに、そのようにとりはかっていただけるのは望外のことだ」
結果として、さらに千枚の金貨を男爵から所望されることになったラディムであった。
その二時間後、ラディムは皇帝との謁見をすることとなる――




