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再び、ミュットフルトにて

「ハルトウィンさま、そろそろ公太子一行が帝都につくころ合いですね」

 イェルドが何枚もの書類をめくりながらそうつぶやく。さすがはクリューガー公爵首都ミュットフルトだけあって、重要な文書はすべて羊皮紙ではなく、東洋の『紙』が使われていた。植物の繊維を用いた製法らしい。

「そうだな」

 同じくハルトウィンも書類を見ながら、そっけなく答える。

 少しの沈黙。イェルドが最初にその沈黙に耐えられずに口を開く。

「ご心配はされないのですか?」

 ふうむ、と息をつくハルトウィン。書類から目を離しイェルドの方を振り向く。

「カレルもついているし。何より公太子殿下なら間違いない。あの方の君主としてのポテンシャルは――」

「宰相時代の皇帝陛下よりも上ですか」

 首をハルトウィンは振る。

「はるかに――上だ。悪いが比べるべくもない。しかも、この時代にはありえない立憲君主としての資質もお持ちだ」

「それは、あなたの希望では?もしくはあなたがそうさせているとか」

「私が何を言ったとしても、それを生かすのは結局本人の問題と能力だと思うが」

 くすっと、イェルドは笑みを漏らす。

「教えたということですね。あなたにとって『あるべき君主』の姿を」

 ハルトウィンは静かにうなずく。

「それはあなたのエゴかもしれませんね」

「公太子――ラディムは私の言うことを何でも聞くといった。私も自分の領土を発展させることが保証される限り、あの方が立派な君主になることを全面的に忠誠を尽くすつもりだ」

「当初は単なる傀儡くらいに思っていたのですが......よろしい、あなたがそうお思いなら、そうしましょう。私、イェルド=ルーマンも全面的に」

「ありがたい、参謀長。わたしはそれに対してどう報いればいいのか」

「そうですね、私も『あるべき宰相』の姿をこの中世で見てみたいですね。憲法がきちんと存在し、立法と司法がきちんと行政から分権して抑制するような、そんな行政の長としてのあなたの姿を見てみたいものですね。私は軍のトップとしてあなたに仕えたいですね」

 じっとイェルドの顔をハルトウィンは見つめる。

「それができたら、五百年は早く立憲君主制がこの国に成立することでしょうね。貴族は存在するものの、平民という存在もその力を強くして国民国家を成立させることができるでしょう。革命もなく、流血の政権争いもなく」

 うふふ、とイェルドがうそぶく。

「私が、あの時代にあなたのことを知ったのはあなたの大学生時代の論文を読んだからですよ。とても感銘を受けました。ただその時にはもう予備役の余命いくばくもない身。あなたが『宰相』としてシビリアンコントロールの事務的な最上位になるまでは生きられなかったので。この世界では大丈夫そうですね」

 ハルトウィンはようやく疑問が解ける。なぜあの伝説的な参謀長ヴィンフリート=モルゲンシュテルンが自分に忠誠を誓ってくれるのかを。

 深々と頭をハルトウィンは下げる。

 これより、ハルトウィンの道は明らかのものとなっていった。

 転生前でもかなわなかった、理想の国家づくりを目指すという道が――

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