長い夜の始まり
森の中の襲撃。ラディム公太子の一行を襲う、無数の矢弾。
その前に仁王立ちして、詠唱をカレルは行っていた。
後ろにラディムを隠れさせ、それをまるで覆い隠すように。
何本かの矢が、カレルの上半身をそして顔をかすめる。しかし、目を閉じたままカレルはピクリともしない。
そして――『魔弾』から放たれいた魔法の光の煙が消えた瞬間、ラディムは身をひるがえす。背に背負っていた二挺の銃を引き抜き回転する動きで『魔弾』を装填し、放つ。
一発、そして一発。
森に吸い込まれるように消えた『魔弾』。その次の瞬間、カレルは銃を放り捨て、ラディムの上に覆いかぶさった。
激しい光の球が二つ森の中に現れる。そして、少し間をおいて激しい衝撃が二人を襲う。葉や草や木の混じった嵐が二人の上を通り過ぎていく。
「ご無事ですか」
無機質なカレルの声で、ラディムは目を覚ます。どうやら気絶していたらしい。
立ち上がり、体の埃を払うカレル。ラディムが無言で頷くと、そっと右手を差し出し立ち上がるのを手伝おうとした。
右のほほに伸びる血の跡。それに気づいたラディムは腰のマントでそれをそっとふき取る。カレルはそんなラディムを不思議そうに眺めていた――
夜の帷幕。体の傷をカレルは手当てしていた。顔だけではなく、体のあちこちに傷があった。矢に毒が付されていなかったことは幸いである。最も、その程度の毒なら魔法術でなんともできる範囲であろうが。
上半身に包帯を巻き終えた、その瞬間に気配を感じ小銃を手にとっさにカレルは振り返る。
帷幕の入り口、そこには――鎧を外したラディムがたたずんでいた。
目を閉じ、そっと小銃をかたわらの簡易机の上にカレルは置く。
「入ってもよろしいかな」
無言でうなずくカレル。すっと帷幕の中に入ったラディムは、小さな椅子の上に腰を下ろす。
「いかがなされましたか、公太子殿下」
なるべく無感情を装ってカレルがそう答える。慇懃に感じられないような限界の配慮をしつつ。
「今日は申し訳なかった」
「それほどのことでも」
「そのように......全身に傷を負わせてしまい......」
「これは、わが身の未熟さゆえの手傷。どうかお気になさらず。これも任務ですから」
なかなか会話がかみ合わない。しかしラディムの方はそんなことも気にかけず、じっとカレルの方を見つめていた。
「......お茶でもお入れしましょうか。そばに適当な川もないゆえ、あまり水の質はよくないですが」
うなずく、ラディム。
「少し、クバーセク副使殿と話したいこともあるし。いやどちらかといえば私が話をしたいのは――カレルさん。おねえさまのことについて、お話をしたいな、と」
カレルの手が止まる。
それは、長い夜の始まりを予感するように――




