森の襲撃者
中央街道を行く部隊。先日のミュっとフルトへの進軍とは違い、兵士たちの出で立ちも鮮やかである。何本ものクリューガー家の紋章旗がはためき、楽隊も伴っていた。
それもそのはず、これは帝国首都オスト=ペシュトへ『公爵位』の正式な世襲を嘆願するための公式な使節団であった。ラディム公太子自ら、帝国身分制議会へ嘆願を行うためであった。アロイジウス公爵の生前退位願いとクリューガー公爵家当主の印璽を携え、そして何より先程の戦いの結果はすでに帝国首都にも届いているだろうから。
隊列の中程を行くラディム公太子。その隣にはカレルの姿が、寄り添うように後を付く。護衛役兼副使、というのが彼の仕事であった。本来ならばレムケ卿あたりがその役に適任であったが、戦後処理がまだ手に追える状態ではない。そこで、カレルの抜擢となったのだ。
「副使殿――クバーセク殿」
人懐っこくラディムがカレルの名を呼ぶ。年の差は四、五歳くらいだろうか。だが身長は同じくらいに見えた。
「何か」
目も合わせず馬を進めながら、そう答えるカレル。
「いや、クバーセク殿にはいつも女性の軍服をまとっておられたのに、今日は男性のものであるのはなにか意味が」
「意味は――色々あります。命令とあればお話いたしますが」
「いや、それには及ばない」
それ以降無言になるカレル。ラディムにも状況はわかっていた。公的な副使に異装は好ましくないという判断であろう。
では逆に――なぜ通常、カレルは常に女性の格好をしているのか――という疑問が浮かび上がる。正直、見た目はほぼ少女の姿である。しかし、相手を油断させるためという理由でもなさそうだ。先日見た鬼神の如きカレルの活躍は、いまだにラディムの目に焼き付いている。
一度だけラディムはハルトウィンに、カレルの女装の意味を聞いたことがあった。ハルトウィンも少し困ったような顔をして、首を振ったのを覚えていた。
一隊は森の中の街道に至る。道が少し細くなり、隊列もやや渋滞した。
なにやら風をきる音が響き渡る。
それに即座に反応するカレル。
あっという間に地面に馬ごと引き倒されるラディム。
そして、カレルは右手を大きく上げ短銃から弾丸を放つ。
「賊だ!皇太子殿下をお守りせよ!」
その命令に、カレルの周辺の兵士たちがラディムの周りを取り囲む。小型の盾で守りを固めながら。
その盾が激しい金属音を上げる。いくつもの弓が木々の中から発射されてきたのだ。
盾の隙間から、ボウガンで応戦を試みる兵士たち。しかし、相手の場所がなかなかつかめない。数は多くないようだが、多方向から狙撃を試みているようだった。
「後、三〇いや二〇秒持ちこたえさせろよ」
両手に『魔弾』を乗せ、目を閉じ詠唱をするカレル。ゆっくりと『魔弾』から光の煙が沸き立つ。
その姿を地面にひれ伏しながらじっと見るラディム。
帝国首都オスト=ペシュトまで後、三〇カロの道のり途上の出来事であった――




