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カレルとの夜

 ミュットフルト城は都市の城壁の中にある。昨今の傾向として、市民により城壁の外に追いやられた領主も多いと聞く。その点ではクリューガー公爵はうまくやっていたほうなのだろう。

 城はいくつもの階層からなり、さらに水平的にもいくつかの砦に分かれていた。

「正直、ここに籠もられていたらどうしようもなかったな」

 書類をたぐりながらそうつぶやく、ハルトウィン。この度の戦功により城の砦を一つ与えられることとなった。

 とりあえず、危急の問題は方がついたように思われた。

 クリューガー公の脅威はワルグシュタットの戦いの勝利で消滅し、またハルトウィンにいろいろな意味で心酔してるラディム公太子の権力掌握によりしばらくの安息の日々は約束されたかに見えた。

「やることは多いですね」

 カレルが書類を両手で抱えながら忙しそうに部屋を歩き回る。色々しなければならないことが多すぎた。レムケ卿に内政の戦後処理を任せたとはいえ、軍事的な戦後処理は主にハルトウィンの担当となる部分が多かった。

 そして今後の問題ーー切り札とも言える『魔弾』を白日のもとに晒した以上、何かしらの対応が必要となるだろう。そのあたりはイェルドとの相談ということになるだろうが、まずは現状をきちんと把握する必要があった。

 消耗した軍事物資、摩耗した兵器。全く人的損害も皆無とは言えない。その補充をどうするのか。財政的な方針は。

 もっともそれはハルトウィンのもっとも得意とするところである。正直最近の戦にはうんざりしていたのが事実が。転生前の政治家のときに信念としていたことがある。それは『内政は有用な生産であり、戦争は無用な消費である』という信念だ。防衛は必要である。しかし、それを超えていざ戦争となった際に失われる取り返しのつかない様々なリソースに思いを致すと、憂鬱にもなってしまう。

「皇太子殿下とは」

 カレルが目を合わせることなく、ハルトウィンにそう尋ねる。

「今後どのような関係を構築されるおつもりですか」

 ハルトウィンの手が止まる。

「どうーーとは?」

 ため息をもらしながら、カレルは返答する。

「このまま傀儡として公爵位を継いでもらうのはよろしいでしょう。しかし彼とていつまでもそれに甘んじるとも思えません。ハルトウィン様は今後どのような関係を御所望で」

「カレル」

 ハルトウィンは立ち上がり、カレルに近づく。

「私にも理想はある。皇太子殿下には私の理想であるところの『立憲君主』になっていただきたいと思っている。そのためには――カレル、お前の力が必要だ。今も、これからも。私が一番大事に思っているのはお前だ。だからこそ――そういう事を言わないでほしいな」

 カレルはじっと、ハルトウィンの目を見つめる。

 そっとカレルの額に手を当てるハルトウィン。

 二人は久しぶりにその夜を語り明かすこととなった――

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