戦後処理
二度目の入城。しかしハレンスブルクの時とは規模も、状況も違っていた。
なんといっても、首都ミュットフルトへの入城である。この首都を支配していた全当主クリューガー公アロイジウスはもはやいない。降伏開城の取り決めに従い、ラディムらが入城する前に裏門から僅かな護衛のものと身内とともにいずこにかへと落ち延びていった。
「......表情がかたいな」
ハルトウィンが思わず口にする。いつもどおりラディム公太子とは距離をおいて後半での入城である。ここしばらくでは珍しく家宰のカレルを脇に伴いながら。
「やむを得ないでしょうね。ここはアロイジウス殿のお膝元。昨日までの主君を追い出してすぐ、公太子とはいえ新たな主君とすぐ認めるのは抵抗があるのかと」
カレルは目も合わせずにそう分析する。うむ、とハルトウィンはうなずく。そういえば最近、カレルとあまり話をしていない。すこし話す必要があるかななどと思いながら馬を進める。
豪壮な町の中にそびえる城。リーグニッツのハルトウィンのそれとは比べ物にならない。僅かな軍勢でも本気で立てこもれば、かなり手を焼いたかもしれない。このときばかりはクリューガー公アロイジウスのあっけなさ、もとい潔さに感謝すべきであったろう。
城門が重々しく開き、両側には元衛兵たちが居並ぶ。武器は持っておらず敬礼のみで新たな主に忠誠を表していた。
馬を降り、階段を登り大広間へと至る二人。
慌ただしく元の主人一家が退去したせいか、それなりに荒れてはいたが思ったほどではない。レムカ卿が二人の存在に気づき、うやうやしく公太子のもとへ案内をしてくれる。
公座の間。ハレンスブルク以来の連合軍の諸将が居並ぶ。その正面の公座には鎧を脱ぎ、公太子の礼装に身を包んだラディムが腰をおろしていた。
無意識にハルトウィンが腰を落とし、頭を下げる。カレルも同じく。
「辺境伯、卿は臣下ではない。むしろこの度の戦いの最も信頼に足る同盟者であり、功労者である。どうか楽に」
ラディムの言葉にそのままの体勢のまま、ハルトウィンは答える。美しい銀の髪が床に広がりながら。
「爵位からも、また今回の戦いの総大将とも言える公太子殿下への礼節として当然かと」
まわりの諸将の目がハルトウィンに釘付けとなる。戦い終われば、結束していた人の絆など当てにはならない。なるべく無欲無害を装おうとするハルトウィンであった。
その後、論功行賞が始まる。
イェルドやハルトウィンはその勲功の大きさに対して、さしたる報奨を与えられなかった。
それで良い、と二人は思う。恐れられてはいけない。あくまでも二人は客将である。ゆっくりと、確実にクリューガーの権益に食い込んでいけば良いのだ。
さしあたって、ミュットフルト城の一角にとりあえず住むことや辺境伯の兵士を駐留させる権利、そして商業都市ハレンスブルクの権益の一部と、城塞都市ドレスタンの一時的な統帥権など身より実を取る報奨を与えられた。
クリューガーとの蜜月がいつまで続くのかな――イェルドは意地悪そうに、その報奨の文面を確認するのだった。




