『ワルグシュタットの戦い』-1
平地を埋め尽くす軍勢。東に陣を張るのが公太子連合軍であり、西に首都ミュットフルトの城壁を背に陣を張るのがクリューガー公の軍である。
数だけでいえば公太子軍が3千、クリューガー公軍が5千。守勢有利の法則もあり、また一朝一夕でそろえることのできない騎兵の数も公の軍隊が勝っていた。
その軍隊を馬の上から見下ろす、連合軍総参謀のイェルド=ルーマン。いつもの商人姿ではなく、きちんとした鎧をまとっている。
彼女は確信していた。自分の作戦通りに連合軍が動けば、必ず勝てると。
そのそばには連合軍の一角を担うゼーバルト辺境伯軍の指揮官ハルトウィン=ゼーバルトが控える。そして、この連合軍の総大将である公太子ラディム=フォン=クリューガーの姿も。
全体的な陣が前としては右翼と左翼が極端に突出した陣形である。敵軍を包囲殲滅する構えを見せた陣構えであった。そして中央部にはやや下がり、ゼーバルトの秘密兵器『魔弾』を搭載した魔法銃兵部隊百名と、公太子配下の通常の銃歩兵部隊が二百名が備えていた。この指揮を執るのが、自ら前線に立つカレル=カレル=クバーセクであった。軍装は相変わらず女性のものであったが、れっきとした少年である。片目の眼帯をいやに気にするように、銃とそれを交互に触っていた。
「敵の陣は理にかなったものですね。我々が中央部をへこませた分、そこに主力のクリューガー騎兵部隊を集中配置しています。中央突破を果たしたのち、反転し我が軍の左翼と右翼を迂回包囲して正面のクリューガー公歩兵本体と挟み撃ちにする策でしょう。なかなか、公にも軍事を知った人材があると見えます。ただし――」
イェルドはほくそ笑みながら、言葉を続ける。
「こちらにはそれ以上の軍事的能力を持った参謀がいる、ということはわからないようですね」
イェルドの転生前は伝説的な参謀長、ヴィンフリート=モルゲンシュテルンである。それが本当であればこの戦いの帰趨はすでに決まっているようなものであろう。
両陣の間の空白地帯。埃煙が舞う。ゆっくりとクリューガー公の左右翼が前進を開始する。
一切の外交交渉は存在しなかった。この平原で決戦を行うことはすでに、規定事実になっていたようである。
揺れる、公爵の軍旗。倍近い鎧の音がはるか平原を超えて響き渡る。
そして中央からの砂煙り。おびただしい数の蹄の音が大地を揺るがす。その数、千を超える騎兵の部隊が公太子連合軍の中央部を目指して突進してきたのだ。
その先頭で馬をめぐらすのは若き騎士の姿――ローベルト=スヴェラーク少将。クリューガー公爵の軍団で騎兵参与を務めている人物である。
この度の戦いの計画をめぐらした人物である。その内容はイェルドが予想したものとほぼ同じであった。
脆弱な中央部を強力な騎兵部隊により打ち破り、反転して左翼右翼を包囲する。
成功すれば、ダイナミックかつ一番効果的な作戦案である。
無人の野に自らを放ったとき、ローベルトは勝利を確信していた。
時に四月一二日、朝方の出来事である。
ここに、『ワルグシュタットの戦い』が幕を開けることとなる――




