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ハルトウィンの幼少期、そして家宰カレル

 彼女、ハルトウィンがこの混乱の世界に生を受けたのは、二一年前に遡る。

 ゼーバルト辺境伯の一人娘として、リーグニッツ城の奥まった一室で父親が見守る中、無事に生まれることとなった。当然ものごころつくまでの記憶はない。爵位を持つ貴族とはいえ、それほど裕福でもない日常の生活であった。しかし、なんとなくではあるがあたたかく、とても幸せな感じがする日々であったことはおぼろげに覚えていた。

 ハルトウィンの人生の大きな岐路は、五歳の時に訪れた。

 両親の死、である。

 目の前で燃え盛る小屋。その中で両親の伯爵夫妻は炎の中に飲み込まれていく。必死にそれを消火しようとする部下たちの姿が、そして明るい炎の色が幼いハルトウィンの緑の瞳に映る。

 ――それから三日間、ハルトウィンは高熱を出し意識を失った。目が覚めるとそこには家宰の姿――年老いたクバーセクの顔があった。

 その瞬間、ハルトウィンはすべてを知ることとなる。自分のかつての記憶、つまり未来のオストリーべ帝国の帝国宰相としての記憶、そしていま現在のゼーバルト家の危機的な状況を。

 五歳にして大人以上の知能を手に入れたハルトウィンであったが、だからこそ慎重に彼女は講堂を開始する。必要以上に大人びたことをして、怪しまれては元も子もない。この世界において、あまりに秀ですぎる能力を子供が持っていると『異端』に認定され、『悪魔』として火炙りになるかもしれない。

「面倒な時代だ。中世というやつは」

 政治家でありながら、歴史にも通じていたハルトウィン。もともとは大学の教授であったほどの人物である。専門ではないにせよ。一通りの歴史はそらんじることができた。

 しかし――

 ひとつだけ、史実と違う祖国の事実があった。

 それは、『魔法術』が存在するということ。

 架空の物語としては面白い話だが、現実となるとなかなかうけいれがたいところがある。

 この世界では『魔法術』を使えるものは一つの技術職として尊敬され、また日常生活でもそして、戦争でも大きな影響を与えていた。

 とくに『魔法術』を使えるものは、『血』によるものが多いらしくゼーバルト家も過去に魔法をよくする人物が親族にいたらしい。ハルトウィン自身も、ある程度の『魔法術』を会得するに至る。

 もっとも荘園内に、ハルトウィン以上の魔法術使いがいるわけでもなかったので、城内の図書館の古めかしい魔法書による独学によるものであったが。

「ハルトウィンさま、どうなされましたか」

 過去に意識が飛んでいたハルトウィンを、従者のカレルが呼び戻す。かつて幼少の自分の面倒を見てくれた家宰クバーセクの孫である。年の頃は一九歳。二歳違いであるが、体格も小さくとても幼く見えた。そして見た目も――男性であるのに、あえて女性の格好を――

 それはハルトウィンとて同じことであったが。

 この世界では女領主はそれほど珍しいことではない。男女同権、というわけでもなく不意の事故で死にやすい世界なればこそ、女性の家督相続も広く認められていたのだ。

 男性の格好を好んでするのは、やはり前の記憶があるからであろう。到底、ドレスなどを着ることには抵抗感があった。もっともこの城には母親が残した僅かな衣類以外、大した女性ものの服などアリはしなかったが。

 一方でカレル――カレル=クバーセクがあえて女装をする意味は――それについてあまりハルトウィンは詮索しなかった。いつのころからだろうか。老クバーセクが亡くなり、本格的にハルトウィンがこの荘園の経営を始めた、一六歳くらいのときだったかもしれない。

 老クバーセクは実直な人物ではあったが、才のある人物ではなかった。ゼーバルト辺境伯領は日々、その勢力を交代し、数代前の権勢も見る影がないほどに全く落ちぶれていた。

 老クバーセクの息子夫婦はすでに鬼籍に入っていたため、一人息子のカレルがその役職を世襲することとなる。

 極めて簡略な、ハルトウィンによる騎士叙任の儀式の後に、正式にカレルはその地位を継ぐこととなる――絶対的なハルトウィンに対する忠誠とともに。

(それは全く疑っていないのだが.....)

 そっと、ハルトウィンはカレルの方をみやる。上は男性の軍服であるが、下はスカート、明らかに女性を意識した出で立ちである。顔立ちが女性的でまた髪も長いことから、知らない人は疑いなく女性だとおもこんでしまうだろう。

 趣味の問題か、いずれにせよ個人的なことにあまり介入しないのも大事という近代的なポリシーをハルトウィンは持っていた。いずれはその事情を聞きたいとも思っていたが――

「いずれにせよ」

 やるべきことは、他にいっぱいある。まずはこの荘園自体を発展させること。そのために爵位をついでから、ある程度のことはやってきたつもりであった。それを仕上げるためにも――時勢が必要であった。外からくる強力な変化の風が。

 ハルトウィンは椅子を立ち上がる。

「カレル。馬を」

 カレルは一歩退き、うやうやしく礼をする。

 吹けば飛ぶような、軍事力もさして存在しないゼーバルト辺境伯の荘園リーグニッツ。

 ハルトウィンは確かめようとしていた、この数年に渡る地味な改革の成果を――

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