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オストリーバ興亡史~ある転生辺境伯の生涯  作者: 八島唯
クリューガー公国との戦い
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黄金の『鍵』

城壁の正門の外に展開する『公太子軍』。いくつもたなびく軍旗は、『クリューガーの薔薇と槍』である。その大半は最も大きな南門の当然敵の間接攻撃――守備側に火砲は存在せず、弓程度の攻撃であったが――を避けるためにある程度の距離をとっていた。逆にその空白の土地がまるで地獄の門のように、不気味に攻守両者の前に広がる形となった。

 連絡のない、自軍の到来に最初ハレンスブルク守備側は当惑していたが、その意図がどうやらこの都市の乗っ取りにあるとわかると至急、早馬を首都ミュットフルトに走らせ、四方の門を固く閉ざして籠城戦へと転換した。

「教範通りの手順ですね。守備側の隊長――ヒューブナー少佐でしたか。なかなか手堅い能力の持ち主のようですね。大帝国の戦争は天才のひらめきではなく、こういう常識のある士官をそろえることが肝要ですね」

 イェルドが敵の状況を、遠眼鏡で観察しながらそうつぶやく。遠眼鏡から立ち上る魔力の残光。魔法術も利用しての偵察らしい。

「さて、それでは早速攻略とまいりましょう。何といっても商業都市。これを灰燼に帰したり、また兵士たちが戦闘の熱に侵されて略奪などをされては今後の運営に差しさわります。お互いなるべく、被害のない方法で開城されるがよろしいでしょう」

 そういいながら、右手の指輪で水と炎の魔法術を発動させる。空中に浮かび上がる、地図と作戦の概要――イェルドの作戦が始まることとなる――


 深夜。城壁を伝い数人の男性がこっそりとハレンスブルクを抜け出す。身なりはきちんとしたもので逃亡者とも思えない。その下で数人の兵士が待ち構える。合言葉の確認の後に、丁重に彼らを誘導する。誰にもわからないようにこっそりと――自分たちの『主人』のもとへと。

「ハレンスブルク商業参事会副参事代理オットマール=ボジェクと申します。公太子殿下にはお期限麗しく」

 恭しく礼をする商人姿の男性。帷幕の中。その奥の簡易な席に座っているのは公太子ラディム=フォン=クリューガー。そしてそのそばに控えるのは、当然ハルトウィン=ゼーバルト辺境伯である。

「話したいことがあると」

 ハルトウィンがそうラディムに告げる。頬に手をやり、無言でうなずくラディム。まったくの茶番であるが、ポーズは必要である。あくまでも実権は公太子の手の中にあるというアピールが必要であった。

「われらハレンスブルクの住人は戦いを好みません。外敵というならばいざ知らず、皇太子殿下に弓引く何らの意味もなければ。願わくば、命と財産の保障をもって非武装都市として略奪や破壊の憂き目から救っていただきたく......」

「父上の」

 ラディムはことさらもったいぶりながらそうつぶやく。これもイェルドの入れ知恵であったのだが。

「クリューガー公に対する直接の恩義はないのか。立場的に我々がむしろ反逆者といえないこともないだろうが」

 いえいえ、と大きな声で否定するボジェク。

「領民にも主君を選ぶ自由はあるはずです。我々にとってクリューガー公はあまりいい主君とは言えませんでした。正当な嫡男であられる皇太子殿下がそれを正そうとするのであれば、それに従うのが領民のつとめ。何も恥じるところはございません」

 いろいろと形而上的な話を述べた後、深々と礼をして立ち去る副参事官代理のボシェク。それを見計らって、イェルドが帷幕の中に現れる。

「いかがでしたか?」

 無言で首を振るハルトウィン。それに満足そうにイェルドは頷く。

「あの男は私の知己でして。勘定はきちんとできる男です。信用していただいてよろしいかと」

「父上は......」

 悲しそうにラディムがもらす。

「父上はそんなに暴君であられせられたのか」

 ああ、とイェルドが振り向きながら説明する。

「領民、特に金銭欲の強い商人にとって税金をとる領主は誰でも悪い主君でありましょう。あまり気にせず。いずれ商人の扱い方をお教えいたしますゆえ。まずは――」

 イェルドはウィンクする。それに気づいたハルトウィンは懐からあるものを取り出す。

 銀の鎖のついた、金色の物体。

 それはこの商業都市ハレンスブルクの『北門』の唯一のカギであった――

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