ゼーバルト辺境伯領の現状分析
ハルトウィンは、四角い窓の外を眺める。城、と言うには規模が小さい。ちょっとした砦といったところであろうか。それでもこの城は、ゼーバルト辺境伯領最大の荘園リーグニッツの守りの要である。
窓の外には、荘園の様子が広がる。
茶色の農地と散在する狭い道。農奴たちの粗末な住居が、所々見られるだけで、これと言った建築物は見られない。荘園の外れには、生け垣のような城壁がかろうじて、外の世界との境界を主張していた。その外には、どんよりと樹林の森が広がる。この森は、オストリーバ神聖帝国の国境も兼ねている。真っ黒な世界の果てには、野蛮な異民族の影が見えるようだった。
震えをこらえるハルトウィン。
「我が荘園の現状を報告してほしい」
ハルトウィンはかたわらに控える従者に、そう命令する。直立不動の家臣は答える。華奢な体の――見た目はハルトウィンと同じく女性のように見えた。着ている軍服も、女性のものであった。
「はい。まず軍事面ですが、この荘園、リーグニッツに常駐しているのは、一四名ほどです。そのうち、七名は豪農兵士。騎士は私のみです」
明らかに男性の声。年は二〇に届かないくらいだろうか。とても整った顔立ちであったが、その顔には似合わない大きな眼帯を右目につけていた。
「武器のストックはどのくらいある?カレル」
カレルと呼ばれた従者は、即座に応答する。
「それぞれ携行武器と槍が一〇本。弓矢が僅かな数しかありません。鎧も鎖帷子が一〇枚弱程度でしょうか。騎馬は五頭ほど」
「よくそれで今までもったものだ」
ため息をつくハルトウィン。これが栄えある帝国貴族ゼートバルト辺境伯が、即座に動員できる兵力の全てであった。
正直、野盗のたぐいも手に余る程度の戦力である。いざ戦争となったときには辺境伯内の支配下にある荘園の領主たちの助力を得ることになるだろう。それもどこまで信用できるものか。
この時代、中世の世界は封建制度によって成り立っている。封建領主は自分の支配する領土すべてを直接管理できているわけではない。ゼーバルト辺境伯領は五つの荘園からなっていたが、直轄領であるリーグニッツを除けばほぼ、完全に独立した状態にあった。
(それがこの時代の常識なのだろうからな)
ハルトウィンがかつていた時代とは全く違う世界。それでも、『彼女』は生きなければならない。両親に残されたこの領地を守るためにも。そして自分に従ってくれるカレルのためにも。
ふと、上を見上げるハルトゥイン。そこには両親の肖像画がかけられていた――




