意外な展開
6 意外な展開
ラディムがゆっくりと弓をとりまわす。
いつもの日課。体を鍛えるためにいつもこの時間に、この場所で狩りをしているらしい。それもすべてイェルドの情報であった。
二名の騎士が年若い主君の周りを、ゆっくりと周回する。
隙のない警護。少なくとも通常の弓矢や銃の射程距離には、誰も立ち入らせないという風である。
しかし、ハルトウィンの側には彼らの知らない『魔弾』が存在する。
魔法の結界も多分、張っているのだろうがそんなのはお構いなしである。
ハルトウィンが頷くと、銀色の長い髪が揺れる。
それを確認したカレルが、茂みの中から細長い重心の銃を構える。眼帯をかけているのは別な目で、細長い筒をのぞき込む。幾重ものガラスの組み合わせと、直前に込められた火魔法術の効果で、三人がまるで目の前に見えるように近くとらえることができた。
『私の策の肝は、ラディム=フォン=クリューガー公太子を生け捕りにするということ。彼の存在をうまく利用して、城塞都市ドレスタンを閣下の手に入れてしまうというものです。身柄さえ確保してしまえばあとは、いかようにでも......』
薄気味悪いイェルドの含み笑いに、少なからず嫌悪感を抱いたものの、悪くないとハルトウィンは決断する。うまい具合に都市を手に入れられれば、いろんな意味で今後の展開が楽になることであろう。
そのためにもまずは、護衛役の騎士を片付けなければならない。
カレルはじっとその時を待つ。
どうすれば、逃げられることなく公太子の身柄をおさえることができるのか。
しばしの沈黙。銃から魔法術の余波である、煙がたなびく。それが途切れた一瞬の後――
まず一発が公太子の馬の太ももに直撃する。暴れる馬の上からバランスを失い倒れこむ、公太子。
続けざまにもう一発。これで弾倉内の『魔弾』はすべて打ち尽くしたことになる。
たった一発の銃弾が、手前の騎士の眉間を打ち抜き、そして奥の騎士の胸を貫く。イェルドの計画を聞いてから、カレルはこの練習を寝ずに練習していた。
三人が倒れたことを確認して、ハルトウィンが馬を走らせる。すべてがうまくいっていたはずだった――
しかし、胸を打ち抜かれた騎士がゆっくりと立ち上がる。そして腰の剣を抜き、あろうことか、その剣をゆっくりと引き上げ、垂直に公太子――ラディムの上に振り下ろそうと――
剣戟。
その音に、気絶していたラディムが目を覚ます。その顔のすぐ上には騎士の剣。それを必死で支えるのは――ハルトウィンの剣であった。
「主君を殺そうとするとは――なぜに!」
とっさにハルトウィンがラディムをかばい、騎士の剣を受け止める。意外な展開ではあったが、まずは公太子には無傷でいてくれないと、今後の計画に差しさわりがあった。
「公太子殿!早く逃げよ!」
ハルトウィンの大声にも、ラディムは反応しない。何が起こっているのかもいまいち、理解できないのかもしれない。
地面に何度か騎士の剣を叩き落とす、ハルトウィン。かなりの使い手らしい。急所を外れているとはいえ、胸を『魔弾』が貫通して、なおこれまで戦えるとは。
何度か剣を合わせる。ややハルトウィンの方が押されている感じもある。
その次の瞬間、騎士の右手に鋭い弾丸が着弾する。『魔弾』ではない、カレルの放った通常の弾丸あった。貫通こそしないものの、右手の金属製の手甲に激しい震えが起きる。
それを見たハルトウィン詠唱を唱えつつ、跳ねる。ハルトウィンの剣に宿る、火魔法術の力。
そして、大上段から、騎士を袈裟に切り下す。
火魔法術によって高温に熱せられた、鋼の剣は騎士の鎧ごとその体を切り裂いた。
少しの沈黙の後、大きな金属音とともに騎士が地面に倒れこむ。
ハルトウィンの詠唱。水魔法術により剣のほてりをさますと、すっと鞘にその剣を収める。銀の髪が広がる。まるでマントのように。
それをじっと見ていたラディム。それに気づいたハルトウィンはすっと、腰を落とし挨拶をする。
「これは――クリューガー公太子殿。余計なお世話かもしれませんが、お助け申し上げました」
「そなたは――?」
無邪気なラディムの顔。思わずほっとした感情があふれ出る。
「私は――私はゼ―バルト辺境伯ハルトウィン=ゼーバルトと申します、公太子。以後お見知りおきを――」




