同じ境遇の偉人
「まず、ハレンスブルク攻略の意図。当然ですな。商業都市にして、城壁もそれほど厚くはない。ハルトウィン様のこの――『魔弾』を有した軍ならば、あっという間に占領することは可能でしょう」
『魔弾』という言葉に、カレルが反応する。いつの間にそんな情報をイェルドは手に入れたのか。
「しかし、占領した後はどうしますか?確かに、富は手に入れられるかもしれない。それだけです。あなたの有する兵隊の数は増えることはない。しかも、いずこから情報は洩れるでしょう。その『魔弾』の秘密も。そうなれば、もうまともにクリューガー公の正規部隊と戦うことは、不可能でしょうね。いうなれば閣下の持つ二十名足らずの『魔弾』銃歩兵は、最後の切り札なのですよ。それを切ったらもはや使うことのできない」
ずばずばと核心に迫るイェルド。少女の風体から流れるようにでる演説に、さしものハルトウィンも言葉が出ない。
「ルーマン殿。ご指摘はありがたいのですが......それはあなたの領分を超えたことと思うのですが」
カレルが耐えかねて、そう間に入る。
「人払いを、ハルトウィン様」
その申し出に、少し悩んだ様子をハルトウィンは見せつつも、カレルを幕内から退出させる。
「では、お話を」
強い語気でハルトウィンがイェルドに迫る。
「ヴィンフリート=モルゲンシュテルン......」
イェルドはある名前をそらんじる。この時代の人物の名前ではない。ハルトウィンは少しの沈黙ののちにその名前の持ち主に心あたる。それは、この世界ではない、老宰相『ベートワルト=フォン=コルビッツ』だった頃の思い出。
「かつて帝国は複数の領邦国家に分裂していた。それを参謀総長として軍事力により統一したのがヴィンフリート=モルゲンシュテルン。オストリーバ帝国建国の父、とも呼ばれているらしいですな。何しろ死後のことはわからないものですから」
イェルドがすらすらとその経歴をそらんじる。間違いない。それはベートワルトの時代に何度かあったこのことのある偉大なる軍人、ヴィンフリート=モルゲンシュテルンのものである。
「ルーマン殿......あなたはなぜそのことを......」
「あなたと同じですよ。『コルビッツ』殿。何度か議事堂でお会いしたことがあるはず。お忘れであれば――悲しいですな」
19世紀も終わりを迎えようとしていた『大陸』。弱小のアリタニヤン王国すら統一を果たしていたというのに、オストリーバだけはバラバラな状態にあった。小さな領邦からなる、中世的な連邦国家。そんな中で登場したのが、オストリーバの雄ベーメニア王国であり、その国の参謀総長であった
ヴィンフリート=モルゲンシュテルンである。
彼は当時登場したばかりの鉄道を活用し、軍隊の極めて高速な機動性を確保して、隣国ロラン=メトロポリテーヌ共和国を二度も打ち倒し『オストリーバ統一帝国』の建国に多大な寄与を成し遂げた。
若き頃のベートワルトも何度かこの祖国の偉大なる軍人に出会う機会を持つことができた。とはいえ雲の上のような存在――神話的な人物にあっているようでなんとも、心もとなかった記憶しかなかったのだが。
それが今、自分の目の前にいる。見た目は少女の姿で。『イェルド=ルーマン』という商人の身を借りて――
ふうっ、とろうそくの炎が揺らぐ。何か――不思議な風が二人を包むように――




