野営にて
「お疲れのようですね。夜具をご用意いたしますか?」
カレルの声で”私”は目を覚ます。私――それは先程までの老帝国宰相ベートワルト=フォン=コルビッツではなく、ハルトウィン=ゼーバルト女辺境伯としての”私”である。
目を開くと、カレルが心配そうな顔でこちらを見ている。なりこそ、女性だが実際には男性。ハルトウィンの一番の信頼のおける家臣であった。
ハルトウィンはどうやら椅子に身を預けたまま、転生前の夢を見ていたらしい。
あまり良くない悪夢は、この椅子があまりにも硬すぎたからなのかもしれない。
しょうがない、とハルトウィンはため息をつく。今彼らがいるのは、リーグニッツの城内ではなく、それを離れること40ファスト、街道を外れた森の中であった。
先日訪れた、巡察使のユストゥス=ケーグル子爵。帝国の権威をかさにきつつも、実際は公爵の意をくむものであることは明らかであった。落ち目の、ゼーバルト辺境伯領を併合せんとする意図である。
それを看破したハルトウィン。ユストゥスは返り討ちに合う。
しかし――彼がクリューガー公のもとに戻らなければ――結局同じことだ。ハルトウィンに消されたことが明るみとなり、領土への直接侵攻を考えるに違いない。
先手を打つしかないか――
ハルトウィンの決断。動かせる兵はせいぜい百名程度である。しかし、一冬の厳しい軍事訓練と類まれなる新軍事技術によって、運用方法によっては十分以上に、クリューガーの常備兵と戦える状況になっていた。
春一番の大麦の収穫を待ち、ハルトウィンは隠密に進軍を開始する。城門を閉じ、数名の守備兵のみを残し、あえて街道を避けてクリューガー公国領内への侵入を果たす。
兵糧がそれほど豊かなわけではない。少ない攻撃で、もっとも効果的な戦い方を考えなければならない。本来ならばそれをこそ、出陣前に決定しないといけないのだが、それだけの余裕もなかったのが事実であった。
森の中に結界を張り、兵たちを野営させる。
ここで方針を決め、クリューガー公国と一戦し、相手の戦意をくじく必要があった。
内政には優れた才能を持つハルトウィンであったが、こと軍事となると話は違う。特に純戦術的な内容になるとそれは前の世界でも、軍人の考える問題であった。
カレル、は前線指揮官としては有能であるが、作戦を考えるまでの段階にはまだ達していない。
はあ、とため息をつくハルトウィン。
とりあえずいま考えた作戦は、クリューガー公国一番の商業都市であるハレンスブルクを攻撃し、強力な武力を背景に降伏を迫り、占領の後に講和をクリューガー公に求めるというものであった。
悪くはない、しかしこれがベストかと言われると......。
ハルトウィン、いや”老帝国宰相ベートワルト”の悪癖が見え隠れする。
自分が苦手と感じることに対して、決断を欠くという癖である。あの大陸大戦ではその癖により、何度政治的判断を誤ったか。
「なにか!」
カレルの大声。腰のものに手をかけ警戒する。
二人の天幕に――予期せぬ来訪者の告げがくだる――




