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戦争への備え

 鎖帷子を着た兵士たちが、死体を片付ける。その中には先ほどまで、使者として赴いていた帝国巡察使ユストゥス=ケーグル子爵のものもあった。

 墓地の一角に葬られる五名の亡骸。その様子を、じっとハルトウィンとカレルは黙視していた。

「これから同様のことを、することになるだろう」

 ハルトウィンの言葉。女性の高い声ではあったが、その決意はどこまでも重く感じられた。

「わが領内で動員できる兵の数は、せいぜい百名程度だろう。その中から、銃歩兵を二十名ほど選抜する。先ほどの『魔弾』を装備させて。騎兵を十名。そして残りを軽歩兵で編成する」

「完全に一般の市民、農民からの徴用になりますね」

「貴族はあてにならない――傭兵もな」

 ハルトウィンの記憶。かつての大陸世界でも、市民軍の結成が近代戦の始まりの契機となった。

「無論、ただ働きというわけにはいかない。彼らには愛着のある土地を与える。無論地租はとる。ただし今までのような労働による賦役は一切廃止する。そうすれば土地に愛着もでき、戦う原動力にもなるだろう」

 すでにザハールの錬金術、『魔女の黒土』に空気から精製した肥料をまく算段はすんでいた。この春には十倍近くの大麦がなることだろう。

「政治は経済だ。もっと具体的に言えば、マクロ経済をどううまくコントールするかが政治だ。社会に活気のある時には自由放任も結構だが、不景気な時、もしくは未発展な時には積極的な財政が必要となる」

 カレルがハルトウィンに、羊皮紙を手渡す。そこにはリスト化された一覧が、カレルの丁寧な字でびっしりと記されていた。

「よろしいのですか?御父母様の......形見まで」

 目を閉じ、首を振るハルトウィン。

「いいのだ。もっとも我が家に伝わるものをすべて売り払ったとしても、大した額にもならんだろうが」

 武器を除く、ゼ―バルト家に伝わる品々――それは食器から母親のドレスに至るまで――を出入りに商人に売り払うリストであった。

 収穫があるのは次の春。その間の冬に軍事訓練を行い、クリューガー公国の侵攻に備えなければいけない。この冬が、兵士を鍛えるチャンスである。農民に過ぎない彼らを鍛えるには、それ相応のコストが必要となるだろう。そのための金策であった。

「兵士の武器、食料、給金......場合によってはけがの治療費か。軍隊というのはあるだけで負担だな。かといってないわけにもいかない。難しい存在だ」

 宰相時代。同様に軍部の専横を許してしまったために、軍部が独走し結果侵略戦争を引き起こしてしまった。なかなか難しいテーマである。軍事力のバランスというものは。

「母上のドレスは、もったいない気もするが......まあ、わが荘園が豊かになった暁には、カレル、私に恵んでくれ」

 悲しそうな顔をしているカレルにハルトウィンは気を使い、くすっと笑いかける。

 カレルは少しの間の後、大きな声で返事をする。

「はい!」

 と。元気よく。

 ハルトウィンは墓場の上の空を見つめる。

 そこに、自分のかつていた世界をまるで見つめるように――


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