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始まりは辺境の村

”淡白DEVIL”



圧倒的に厨二病くさい名前がつけれらたこの名称の集団は、せんりゅうと呼ばれる当大陸において、8つある城のひとつを占拠し文字通り「やりたい放題」やっていた。


その力の根底を支えているのは


「先行者利益」



"霊素武人"と呼ばれる人ならざる人が武力として数えられるようになる少し前の時代、まだ刀や槍を扱う者の技量や筋力こそ力とされた頃より、彼らは「次世代の力」である元素のひとつ”霊素”の扱いを学んでいた、それゆえの立場。


そんな”霊素武人”達を今もって生み出し続ける組織を「少林寺」と呼ぶ。


はじめは身内のみで競い合い、その武を高めることに喜びを見出していただけの集団。

しかしいつしか世界の武の中心となり、今や幾百もの派閥に分かれ、場合によっては抗争ともなっていた。



少林寺より派生せし"霊素武人"の時代、それが今である。


特に三大派閥と言われる


『雨組』


『狂』


『淡白DEVIL』


の力は凄まじく、トップランカーを多数抱え込む。


なおトップランカーとは、能力を数値化できる技術を有する少林寺が、帰還した武人を測定して作り出してるランキング上位者をさす。


項目は「剣」「刀」「槍」「爪」「体力」「力」「攻撃耐性」「敏捷性」「総合」の9つに分かれており、そのいずれかでトップ10に名を連ねた零素武人はトップランカーとして注目を浴びるのだ。


それもそのはずで、トップランカーの力はそれこそ桁外れと表現するに相応しく、霊素武人の能力次第ではあるが、規模としては山を砕き大地を燃やす。



そんな折「淡白DEVIL」の創業メンバーであり、当主Happyと婚姻関係にあった武人を含む2人のトップランカーの名が「淡白DEVIL」構成員名簿から突如、消えた。


スマートフォンと呼ばれる異世界の技術で常に確認できる有力派閥の構成員名簿は、派閥によっては非公開にも設定できるが、舐めプが基本の淡白DEVILは常時公開してたゆえ、じわじわ話題となり、一夜明けた今日、せんりゅう全土の噂となっていた。


トップランカーが2名も抜けたとなれば淡白DEVILの力は大幅ダウンである一方、当該のランカー2名が生存してるなら、他勢力からすれば喉から手が出るほど欲しい戦力。


その動向には霊素武人のみならず、普通の武人から、武力を持たない一般の者までが注目しはじめていた。


しかし、そんなことなど梅雨知らずな空は晴れ渡り、強い日差しに照らされている草原地帯から、この話は語られる。



「湖の北」(このきた)と呼ばれるこのあたり一体は快晴の日限定でガラガラへびやカラスの群れと呼ばれる魔物が出ることで有名だ。


駆け出しの武人では一撃でやられてしまうほどの強さを誇るくせに、この魔物は貿易の中心「洛陽」のすぐ側で確認されるゆえ、多くの霊素武人や武人にとっては最初の目標になったりトラウマになったりする。


しかし、当然、トップランカーからすればそんな魔物も雑魚でしかない。


今、5匹のガラガラヘビと2匹のカラスの群れが、まるで暇つぶしに回されるペンのごとく葬られた。



「で、離婚しちゃってよかったの?」


女武人が槍を回し、蛇を屠りながら問う。



「んー、まぁ、いいんじゃね。」


男武人は槍を構え、佇みながらさらりと答える。



「Happyさん、怒ってそう」


「しらね。大体あんな派閥でやってけねーだろ」


「それはまぁ、そだね」



そだね、と言われ相槌も返さず考え込んだ男武人は、耳の少し下で切られた短めの金髪と、紺色を基調とした最高級の鎧を携えていた。

彼こそが淡白DEVIL当主Happyとの婚姻を解消したばかりのトップランカー、とらきち。

槍の名手として知られ、総合、力、敏捷性という基礎数値4つのうち3つのランキングでトップを取り「槍」においても2位につけている現せんりゅう「最強」と名高い霊素武人でもある。


ちなみに生まれた時の性別は女性であったし、少し前まで婚姻関係にあったHappyも男性であったゆえ同性愛者というわけではないが、どこからどう見ても男にしか見えない。

かつイケメンすぎてヤバい。



そんなとらきちと行くもう1人の女武人は、肩にかかる内巻き気味の黒髪と、青を基調とした羽衣のような装備に身を包み、下半身はミニスカートとハーフズボンを足して割ったようなパンツと白いブーツで絶対領域を見せつける。

総合19位、力72位、攻撃耐性46位と一見微妙な中堅ランカーと思いきや、敏捷性は4位とトップ10以内、何より「槍」においてはせんりゅう最強のとらきちを凌ぎ圧倒的1位をとる一点突破型のトップランカーとして知られている。


女の名は、雪菜。

このせんりゅうの夢という物語に主人公が存在するとすれば、それは彼女という事になる。



「これからどーする?淡白でも潰しちゃう?」


悪く無邪気な笑みを雪菜は浮かべた。

もちろんいくらトップランカーとはいえ、城を構え数多のトップランカーや同盟派閥を抱える淡白DEVILを2人で落とすのは不可能だ。

しかし


「まー、おまえが派閥つくればそれも行けるんじゃね?俺はリーダー的なのは苦手だからな。」


雪菜、とらきちが新派閥を作れば話題となり、勝ち馬にのりたいフリーの武人や同盟派閥も最低限は集まるだろう。

無所属のトップランカーも声をかければ乗ってくるかも知れない。

ただし淡白を倒せる規模にまで発展できるかというと、リーダーシップや運、組織運営のノウハウなど不確定要素が絡んでくるゆえ確証は持てない。


ちなみに派閥の登記は洛陽に金銭を支払うことで行え、派閥が立ち上がったことは公示としてせんりゅう全土のスマートフォンに通知される。



「でも、あたしもリーダーって柄じゃないよ?」


「いや、おまえはなんか知らんけど人を好く。人気者の器ってやつだ」


「ふふーん♪じゃ、武人なんかやめて歌手になろうかな」


「歌えるんならそれもアリかもだがさすがに本業のやつらに失礼だろ」



軽口を叩き合う2人には、特に目的がない。

自分たちが今よりも弱かった頃、仲間達と金銭を出し合って立ち上げた淡白DEVILに嫌気がさして脱退した。

特にゆくあてもなく、ただただ「嫌だからやめた」2人のランカーはいわば自分探しを始めた孤児のようなもので、その強さに反比例して精神は未熟なのかも知れない。


実年齢も、雪菜が17歳、とらきちが21歳。

もう子供とは呼べない歳ではあるが、決して自身の価値観を確立した一介の大人と言える年頃にも至ってはいない。


そんな雪菜、とらきちの眼前に村が見えた。


村の名前までは知らないが、おそらくはあそこも淡白DEVILの領地にて、派閥の「好き放題」の犠牲になっている村々のひとつなのだろう。


「いずれにしても、とりあえずメシだな」


「賛成!」


村を目指す、雪菜と、とらきち。


全ては、ここから始まった。

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