プロローグ
血が流れる。。
血が。。
止まらないんだよ。。。
★★★★★
「ちょっとあんた」
声をかけた女は、明菜。
金髪にピアス、高校1年生にしてホステスも真っ青なガチメイク、マブしい感じの細身の女。
「。。。!?」
声をかけられた女は、夢。
黒髪長髪メガネ、真っ白い肌はノーメイク、たぶん空気になれる検定1級以上。
「あのさ、お願いがあるんだけど」
「な、なに。。?」
(なにこれカツアゲ?あるいは万引きでもさせられるのか?はっきり言って怖いんですけど)
夢は色んな意味でびびった。
(た、たしかに小学生の時は私だって明るい系女子だった。)
でもいじめにあって、不登校になった。
なんとか復学した折、さすがにヤバいと思われたのか、いじめはなくなった。
だけどもう元通りの自分にはなれず、根暗街道まっしぐら。
気づけば高校デビューにも失敗して1ヶ月半、もはや大人しく生きて行こうと決意していた。
(そんな私の目の前に、丈の短いスカートはいた、きらきら輝く女の子。)
ほんとは、こんな風に生きたかった。
こんな友達、欲しかった。
(だけど、今の私にそんな資格はない。)
それこそパシリにされたり、からかいの対象にされたり、
おもちゃ要員としての価値しかないのだ。
その事を十分にわかっている夢の警戒が全面に現れていた顔色は
「髪、切らせてくれない?」
訝しげに歪む。
★★★★★
「やっぱねー、ちゃんとすれば絶対に綺麗になると思ったんだ」
「これ。。誰?」
明菜は、ヘアメイクのプロになりたいらしい。
それゆえか、クラスの女子を見るたび、自分ならどういじくるか?という視点で見てしまうようで?
「そこへ現れたのがあんただよ、夢。輝く素材!光る原石!どうっっしても切らせてほしくてさ」
ついに我慢できなくなったんだとか。
見れば、ヘアメイクだけじゃない。
はじめてのアイシャドーにアイライナー、ビューラー、マスカラ、アイプチによる目元の盛りは明菜の家に来る直前に買ったコンタクトも相まって、まさに別物の目力を作り上げていた。
若くて水々しい素肌は化粧水を弾きながらも吸収し、ファンデーションのノリも抜群。そこに明菜が施した絶妙なチークは輪郭を際立て、ブランドもののノーズシャドーが目鼻立ちをよりくっきりとさせている。
1番の違いは、背中の半分を覆い尽くすほどだらっと伸ばしきっていた髪の毛の変化。肩にかかるくらいにまで長さと量をカットされ、美容院仕様のヘアアイロンにて、くるっと内側にカールされていた。
(かわいい。。)
(これが、私なの。。?)
「明菜、、さん?あの、ありがとう。なんていうか」
「明菜!」
「え?」
「明菜って呼んでよ、夢。それとさ、もひとつお願い聞いてくれる?」
「う、うん。こんなに綺麗にしてもらったお礼もあるし、出来ることならなんでも!」
「友達!」
「え!」
「友達になってよ、夢!」
★★★★★
「夢ー、なんかおまえイメチェンとかしちゃった?頑張っちゃったー?」
翌日、早速からかわれた。
いつも私を見下してくるカースト上位、夏絵だ。
「ね〜夢ちゃん?もしそれが可愛いと思ってるんなら思い上がりも甚だしいなー。とりあえずトイレいく?」
「いいね〜!私らで教えてあげようよ、ほんとうのメ・イ・ク」
「その前に服ひんむいて写真撮ろうぜー。ブスなりに頑張ってるし、若けりゃなんでもいいジジイは買うだろ」
「サンセイー!人数分だから5枚ほど頑張ろうねー夢ちゃん」
「ちゃんと指示通りのポーズ決めろな?なお、お楽しみはそのあとでー!」
出る杭は打たれるというやつか?
いつもは適当にスルーしてれば良い程度の軽い見下しマウントを取られるくらいだったのが、昨日の今日でこの変わりよう。
確かに明菜にやってもらったレベルには至らないが、私なりに練習しお墨付きまで貰えた努力が裏目に出た。
あまりの変化にはしゃぎすぎたことも後悔した。
しかし理性が備わっていたとして、「明日それで学校来なよ」と嬉しそうにしていた明菜の顔が脳裏に浮かぶ。
どっちにしろ、、だったか?
「あの。。私は」
「はいー!きりつー」
後ろに回っていた取り巻きに脇の下から両腕を入れられ立たされた。
やばい、なんにしてもこのまま連行されたら何されるか分かったもんじゃない。
抵抗しなきゃ、でも相手は5人、どうすれば。。
ぼすっ
瞬間、夏絵の顔に誰かのカバンがクリーンヒット。
取り巻き5人+私の視線のその先に、明菜がいた。
「な、おまえ、明菜。。?なんだよ」
「目当ての男が落ちないからって、箱から出てきたお嬢様に八つ当たりか?相変わらずだっせーな、夏絵」
「なんだと?」
「な、夏絵。。」
カースト上位の夏絵とその取り巻きだからこそ、カースト最上位の明菜の怖さはよく分かっているのだろう。
煽られて噛みつこうとする夏絵に、やばいよ、と囁いている。
「どうよ?夢?見事にそこの僻みブスの嫉妬を釣った明菜流のメイクアップは?破壊力抜群だろう」
何を言えばいいのか全く分からない。
それは夏絵も同じようで、明菜が絡んでいた事実に目を丸くする。
「ちっ。。」
無言で去って行く夏絵一行をしばらく睨んでいた明菜だが、彼女たちが定位置についた事でこちらに向けられた顔には、満遍の笑顔が咲いていた。
その瞬間のそのギャップに萌えてしまった私は、見事、彼女の虜になってしまう。
「夢!行くぞ!あたしの友達を紹介する!」
★★★★★
私の学生生活は一変した。
明菜、翔子、ゆり、未來、なかぴょん、環奈、そして私。それぞれ個性的でキャラのたった7人で、良いことも、悪いことも、なんでもやった。
欲しかった世界が広がっていた。
それまでの溝を埋めるように、私は目一杯楽しんだ。
中でも特に明菜とは波長があった。
私たちは親友になれた。
少なくとも私はそう感じていた。
「夢は可愛いし、頭もいいし、それに優しいよね。いいやつなんだよ。だから、あたしはおまえが大好きだよ。」
「明菜がさ、女の子でよかったよ。もし違ってたら私ごときは毎日ときめいて、苦しいどころの騒ぎじゃなかったよ?」
「・・・それは惜しい事をしたなぁ。バリバリにあたしの虜になって赤面する夢を見損なった。特等席が確約されてたってのに」
笑い声がこだまする。
「明菜、あの時声かけてくれて、友達になってくれてありがとう。」
ちょっと照れるけど、言える時に言っておきたい夢。
「それはこっちのセルフだな、夢。」
明菜も察し、受け止める。
そんな時間が、ずっと続くはずだった。
★★★★★
「ほんとはひとり、ってやつさ」
明菜は母子家庭ゆえの寂しさを、私にだけ打ち明けた。
「その日は家族と過ごすから、悪いな」
って、みんなの前では言ったよね?
だけどその実態は、寂しくて仕方なくて、
その裏側の感情をみんなの前で吐露しちゃうのが
怖かったんだよね?
どこで漏れるか、分かんないもんね。
弱さを見せることへの恐怖や、
恥ずかしさもあったよね。
。。。明菜の誕生日、当日。
その日は思いっきりお洒落をした。
街を歩くと、私に視線が集まるのが分かる。
私がこんなにもなりたい自分になれたのは、明菜のお陰だよ。
でもね、知ってる?
引きこもって、ひたすらゲームするのだって、
実は意外と楽しいって事。
ねえ、明菜。
覚悟しなよ?
今日は私が教えてあげる。
明菜が知らない、こっちの世界。
そう。
あと停留所一つ分だったのに。
バスの中、突如私を刺した見知らぬ男は、別の男に羽交い締めにされていた。が、その別の男の事も刺し、運転手を脅してバスを止め、逃げ出した。
後から自首した彼は通り魔で「誰でもいいからリア充女を刺し殺してやりたかった」と供述するが、それを知る事になるのは・・・
「大丈夫!もう大丈夫!助かるから!」
私の手を取る、自分は看護師職だというお姉さんが
ひたすら声をかけてくれている。
でもさ、、、
もしかしてこれ、無理じゃないかな?
だって血が出過ぎだし、なんか意識が。。
あー、、だめじゃん。。
ここで、、明菜の家に行く途中で私が通り魔に、、あって、、
死んじゃったら、、絶対。、、傷つける、
、、行かなきゃ。。。。
行か。。。。。
「ん?イカ?俺、それ好きだけど」
「・・・・・・・・!!?」
突然、意識がハッキリした。
真っ白い空間の真ん中に、真っ白くて丸い大きな台があって、その上に私と、、、もうひとりがいる。
半ズボンに白シャツを着た、茶髪の少年。
「まだ混乱中?混乱中だよね。まぁいいや、何はともあれ、ようこそ!せんりゅうへ!」
「せんりゅう?ここは一体?どこ?私もしかして、死んだの?」
「いや、生きてるよ。どういうことか説明してあげてもいいというか、説明するために俺がいるんだけど。あ、ナオキって呼んでね」
「ナオキ、、くん?」
「あ、ちなみにキミに名前はないよ。まぁ別に今までの名前でもいいけど、今から決めるんだ。名前は」
「決める?どういうこと?」
「それが"せんりゅう"で生きてくための、最初の手続き」
「・・・・・・・・」
「おーけーおーけー。いちから解説して行こう。まぁ最初は信じられないかもだけど、大事な話だから、心して聞いてよね」
★★★★★
2年後のせんりゅうの、とある晴れた日より、この物語は幕明ける。
初めまして。
読んでいただき、ありがとうございます。
良かったらブックマークしていってください。