第八十四話 先生とサウナに行かされることに
「はーい、今日は立体構成のやり方を説明をしますね。教科書を開いてください」
美術の時間になり、拓雄は美術室でいつものように、美術の授業を受ける。
彩子は授業中も常に穏やかな笑みと口調で授業を行っており、拓雄も彩子は美術の先生としてはとても素晴らしい教師なのに、どうして自分にあそこまで執着してくるのか理解に苦しんでいたが、そんな事を顔に出す訳にもいかず、彩子の授業に聞き入っていたのであった。
「それでは始め」
彩子の指示でケント紙で立体の物体を作る授業が始まる。
拓雄も慣れない作業であったが、彼女の講義をよく思い出しながら、拙い手つきながらもまずは下書きを書いていった。
「何かわからないことある?」
「いえ……」
「そう。わからない事があったら、遠慮なく質問してね」
と、彩子は拓雄の肩にポンっと告げて、教室を見回りする。
授業中に彩子に声をかけられると、拓雄は常にドキドキしてしまい、関係がバレてしまうのではないかと怖くなってしまうが、彩子はお構いなく、拓雄の周りを故意に見回りして、彼に視線を送っており、彩子の視線を受けながら、必死に授業に打ち込んでいったのであった。
「あ……」
下書きを書いている最中、不意に拓雄は、鉛筆を床に落としてしまい、拾おうとするが、
「はい」
「あ、ありがとうございます」
それを見ていた彩子がすかさず、拓雄が落とした鉛筆を拾う。
「くす、気を付けてね」
彩子が鉛筆を拓雄に渡したのと同時に、一枚のメモ用紙を彼に手渡す。
(何だろうこれ……)
嫌な予感がしながらも、拓雄が周囲を確認しながら、メモを開くと、
『今度の日曜空けておいてね♡』
と、女性らしい丸い文字で書かれており、拓雄もがっくりと項垂れる。
授業が終わった後、メールか電話で誘えばいいのに、彩子はスリルを味わうために、わざわざこんなメモを手渡し、いつもと変わらぬニコニコ顔のまま、授業を続けていったのであった。
「拓雄くーん、メモ読んでくれた?」
授業が終わり、拓雄が家に帰宅した時間を見計らって、彩子が彼に電話をかけてきた。
「あの、日曜日に何か……」
『んもう、わかってるくせにー♪ デートよ、デート』
当然のごとく、そう言ってきた彩子の言葉を聞いて、拓雄もまたかとうんざりした気持ちになる。
いつもの事ではあったが、こうもしつこく誘われると、流石の彼も困り果ててしまい、
「えっと、やっぱりこういうのは良くないと思うので……」
『今更、何を言ってるのよ、もう。そういう真面目な所も好きだけど、一線なんかとっくの昔に超えてるんだから、デートくらいで、怖気付くわけないじゃない」
「はは……」
一応、断ろうとしたが、こんな断り方だと駄目だと思い、拓雄も考える。
しかし、どうしても行く気にはなれなかったので、
「えっと、どうしても僕も一緒じゃないと駄目ですか?」
『でないと、デートにならないんだけど、どうしたの? そんなに嫌なの? 嫌な訳ないわよねー、拓雄君、先生のこと、好きよね?』
嫌いではないが、ここまで一方的に言われてしまうと、拓雄も困惑してしまい、言葉が出なくなる。
どうにか断る口実が出来ないかと悩んでいたが、彩子は引き下がる気配などなく、
『日曜日にねー、サウナの予約したのよ。拓雄君、サウナって好き?』
「サウナですか?」
『そう。今、流行ってるのよねー。拓雄君と二人で入りたいわ。ね、行こうよ、ねー』
「うう……」
彩子におねだりするように誘われ、結局、断り切れずに拓雄も最終的に行くことを了承してしまう。
たまには一人でゆっくりしたい気持ちもあったのだが、彩子の強引さに負けてしまい、拓雄も溜息を付きながら、週末まで過ごしていったのであった。
日曜日――
「拓雄君。こっち、こっち」
約束通り、拓雄は彩子との待ち合わせ場所の公園に出向き、彼女の乗っていた車に乗り込む。
ニット帽を深めにかぶり、彩子と一緒に居ることに気付かれないようにしていたが、彩子は顔を隠す気もなく、車に乗っていたので、逆に怖くなっていた。
「じゃあ、出発ねー。へへ、来てくれて嬉しいなあ」
「あの……こういうのは今回きりに……」
「そんな話、先生が聞き入れると思った?」
今回だけにしてくれと言っても、彩子は聞き入れる気など全くなく、一方的に車を走らせる。
彼女の強引さに溜息を付いてしまう拓雄であったが、彩子はルンルン気分で車を走らせて、目的地のサウナに向かっていったのであった。
「着いたわよ。さあ、来て」
サウナのある健康ランドに着き、二人で建物の中に入る。
そして、彩子が手早く受け付けを済ませて、彼女に手を引かれて、サウナの中に入っていった。
「ここのサウナ、個室があるのよ。個室」
「え、それじゃ……」
「もちろん、二人きりよー。へへ、さあ水着もあるから、拓雄君と二人きりでサウナデートよ。さあ、着替えてらっしゃい」
「はい……」
そんなサウナがあるのかと驚いていた拓雄であったが、彩子にレンタルした水着とタオルを渡されて、更衣室に向かい、着替える。
費用は全て彼女が払っていたが、拓雄もあまり彩子に金を使わせるのは悪いと思い、どうにか自分も払えないかと考えていた。
「ほら、ここよ。きゃー、熱いわねえ」
着替えた後、二人で予約していた個室に入ると、むわっとした熱気が襲い掛かる。
「やっぱり、熱いわねえ。ほら、ここ座って」
「は、はい」
木の匂いと熱気が充満したサウナの中に入っておくの椅子に座ると、早速、彩子が彼の腕を組む。
彼女の水着はワンピースの水着で露出はそこまで多くなかったが、思いっきり胸を腕に押し付けて、露骨に拓雄に体を密着させて、アプローチをかけていったのであった。
「サウナって、よく入る?」
「いえ、あんまり……」
「そうよねー。でも、こうやって汗を掻くと健康に良くて気持ちいいわよ。へへ、拓雄君、先生のおっぱい揉む?」
「しませんよ……」
「あん、別に良いのに。ここ、エッチな事はしちゃ駄目らしいけど、こっそりやればバレないわよ。ほら、ここなら監視カメラ死角に入ってるし」
サウナの中には監視カメラもあり、迂闊な事は出来ないはずであったが、折角の密室で二人きりの状況なので、彩子はどうにか拓雄との仲を深められらないかと躍起になっており、体を密着させたりしていた。
「ふふ、でも来てくれて良かったわ。やっぱりあなたと一緒が一番落ち着くなあ」
「あの、どうして僕と……」
「拓雄君と行きたかったからよ。他に理由必要? ここなら、あの二人も邪魔は……いえ、させないし、万が一来ても居れてやらないんだから」
すみれとユリアの事を思い出し、彩子も緊張を高めるが、彼の腕を組んで、
「大丈夫よ。邪魔なんかさせないし。へへ、今日は二人でゆっくり過ごそうね」
と、彼の方に寄り添って甘え、彩子のそんな仕草を見て、拓雄もドキっと胸を高鳴らせる。
サウナで汗ばんでいたが、そんな様子も色っぽく思えてしまい、彼女の事を意識しながらも二人きりの時間が過ぎていったのであった。




