第八十話 彩子先生の本気
「あ、拓雄君。こっちよ」
次の日、拓雄は彩子との約束通り、彼女との待ち合わせ場所の駅前のロータリーに行き、彼の姿を見るや、彩子も手を振って、迎える。
「さっ、乗って乗って」
彩子は早速、拓雄を車の中に入れて、発進させる。
助手席は目立つので、拓雄を窓にシャドウをかけた後部座席に座らせ、学校関係者にバレないよう、万全を期していた。
「今日はまず、初詣に行こうね。拓雄君、もう初詣には行ったの?」
「元旦に近所の神社に初参りに行きました」
「そう。何かお願いことした?」
「いえ、特には……」
ユリアと一緒だったので、彼女との仲が深まるように願いをかけたが、流石にそれは恥ずかしくて言えなかった。
だが、彩子はそんな彼の心境を知ってか知らずか、
「くす、そう。先生は拓雄君とちゃんと恋人同士になれるように願っちゃおうかなあ」
「え? そ、それは……」
「あん、何なら今すぐ叶えてくれる。拓雄君がその気なら、神様にお願いするまでもなく叶っちゃうんだけどなー」
と、二人きりなのを良いことに彩子は教え子に大胆なことを平然と迫ってくるが、恥ずかしがって動揺している拓雄の姿も堪らなく可愛く思えてしまっていた。
「さあ、着いたわよ。凄い人ねえ」
車を一時間ほど走らせ、ようやく目的の神社へと着くが、駐車場も満員で、参道も参拝客でごった返していた。
拓雄は人だかりより、ここだと学校関係者に見られてしまうのではと不安を感じていたが、彩子は帽子を被っただけで、特に目立った変装もしないまま外に出てしまった。
「あん、すごい人だかり。はぐれないようにしっかり掴まらないと♪」
参道に並ぶと、彩子は拓雄の腕をがっしりと組んで、拓雄も更に動揺する。
一応、拓雄もニット帽を深く被ってはいるが、これでは親しい友達にでも見られてはわかるのではとヒヤヒヤしていた。
「大丈夫よ拓雄君。そんなに心配しなくても長居はしないし、こんな人混みじゃ逆にわからないわよ」
「で、でも……」
「くす、心配性ね。でも、先生のこと考えてくれてるんだ。嬉しいなあ」
と、彩子は更にぎゅっと腕に絡みつき、拓雄に顔を埋める。
「ここ、縁結びで有名なんだって。もちろん、拓雄との縁を願うわよ〜〜」
本堂に近づくにつれ、彩子は更に意気込み、拓雄の腕に頬ずりし、完全にカップル気分になっていた。
「じゃあ、お願いするわね」
賽銭箱に小銭を投げ入れ、二人が鈴を鳴らして、手を合わせる。
彩子は真剣に拓雄との縁を願っており、拓雄も彼女が真剣に拝んでいる様子を見て、その美しさに見惚れてしまっていた。
「よし。じゃあ、行こう。おみくじ引いてかない?」
「あ、はい」
「へへ、先生ね。学生時代に巫女のバイトしてたことあるんだ」
社務所のおみくじ売り場に行き、懐かしそうに彩子がそう語る。
「拓雄君、私の巫女姿見たい?」
「え、えっと……」
「はは、後で写真あったら、見せてあげるね。さあ、おみくじ引くよ」
彩子と共におみくじを購入し、拓雄も取り出してみてみると、
「やーん、中吉だって。まあまあかな。拓雄君は?」
「小吉です」
「くす、何か無難なのが出ちゃったわね。恋愛運は……ん? 積極的に動けば脈あり……うーん、まだ足りないのかなあ」
と、肝心の恋愛運がイマイチだったので、不服そうな顔をしながら、彩子がおみくじを結ぶ。
「拓雄君の恋愛運は?」
「えっと……」
「何々……待ち人、待ってるだけでは離れる……んーーー、拓雄君の待ち人って誰かしら? 先生は離れたりしないんだけどなあ」
「そ、それは……」
とても、彼女の前で言えなかったし、何よりおみくじの結果なので、真に受けるのも恥ずかしいと思い、拓雄も慌てておみくじを結びに行く。
だが、そんな拓雄の顔を見て、彩子もやや不服そうな顔をし、
「ふーん、まあ、良いわ。お腹空いたわね。お昼食べに行きましょう」
「は、はい」
拓雄の手を引いて、駐車場まで戻り、車で神社を後にする。
ようやく神社を後にできて、安堵した拓雄であったが、本番はこれからであった。
「到着ー」
「えっと、ここは……」
「私の家よ。もう何度も来てるでしょう。ささ、入って」
彩子の自宅のマンションに着き、拓雄を家に招き入れる。
ここで昼食を作ってくれるのだろうと、安易に思って、拓雄も彼女の家に入っていった。
「おじゃまします……」
「ふふ、いらっしゃい。ちゅっ♡」
「っ! せ、先生……」
家に上がるや、彩子は拓雄の頬にキスをし、彼の腕にしがみつく。
「ねえ、拓雄君、先生としないー?」
「え? 何をですか?」
「セックスに決まってるじゃない♪ 先生とそろそろイケない関係になろうよお」
「ちょっ、冗談は……」
甘い声で、指で彼の体をなぞりながら、彩子が誘ってくるが、彩子は着ていたカーディガンを脱ぎ、ブラウスのボタンも外して胸元をはだけ、
「冗談じゃないよ。一人暮らしの女性の家に招かれて、やることなんて一つじゃない。拓雄君もわかるよね? わからないなら、教えてあげるから。んっ!」
「んんっ!」
彩子は動揺している拓雄の顔を掴んで、強引に口づけを交わす。
唇を執拗に啄んでいき、拓雄も情熱的な彩子のキスに息が詰まりそうになっていった。
「んっ、ちゅっ、んくうう……はあっ! 本気だって、わかった……? 先生、もう一線超えまくっているから、今更最後までやっても怖くないの。ねえ、しよう。デートだってわかっていたよね?」
「うう……で、でも……」
拓雄の手を掴んで、胸に押し当て、彩子が潤んだ瞳で迫ってくる。
間違いなく彩子は本気であり、拓雄を帰す気はなかった。
「あの、お昼ご飯は……」
「んー? 先生をまずは食べようか」
「そ、そんなの……」
「ダメー♪ 今日は本当にタダじゃ帰さないからね。あ、シャワーなら一緒に浴びようか。裸のお付き合いしましょうか」
「ふええ……」
あまりにも強引な誘惑に、拓雄も泣きそうになっていたが、彩子はもう押し倒してでも一線を越えるつもりでいたので、一切引く気はなかった。
しかし、拓雄は決心がつかなかったのか、
「す、すみません……」
「あん……もう、そんなに嫌なの?」
「嫌じゃなくて、その……」
「いきなりじゃないよね? 先生、何度も伝えているよね?」
「そ、それは……」
真剣な口調で彩子が迫ると、拓雄も泣きそうになっていたので、彩子も仕方なく、
「しょうがないわね。拓雄君、膝枕してあげる」
「は?」
「膝枕。一度してみたかったの。これで、今は許してあげる」
「は、はい……」
渋々と言った顔で、彩子がそう言うと、拓雄も正座した彼女の太腿に頭を預ける。
「くす、気持ちいい?」
「はい……」
「そう。良い子ねー。してほしくなったら、いつでも言ってね。学校でもしちゃうから」
「はあ……」
拓雄の頭を優しい眼差しで見下ろしながら、撫でていき、拓雄も安堵の顔をする。
しばらく彩子に膝枕されていたが、これだけで帰してくれるとは到底思えず、拓雄もどうやって逃げ出すか考えていた。




