第七十三話 クリスマスで三人の先生たちと……
「はーーい、じゃあみんな集合ね」
ユリアとのデートの翌日、拓雄はまたユリアの家に呼び出されると、ユリアだけでなく、彩子やすみれも部屋におり、彼を出迎えた。
「拓雄くーん、先生、昨夜はとっても寂しかったのよお。ユリアちゃんと、禁断の関係になったんじゃないかって気が気じゃなくて」
「そ、そんな事は……」
彩子は、拓雄を見るや、泣きながら、彼に抱き付き、頬ずりする。
「そんな事する訳ないじゃない。彼は教え子で高校生なのよ」
「まあ、マジでやったら、犯罪だもんねえ。クビどころか、逮捕よ、逮捕。私ならバレないようにやるし、あんたも言わないわよねえ、んん?」
すみれも彼の後頭部に胸を押し付けてそう囁き、二人の肌に埋もれながら、拓雄は息が詰まりそうになる。
「二人とも止めて。人の家で、生徒と淫行しないでちょうだい」
「淫行なんかしてないしー。てか、その生徒とクリスマスデート楽しんでた不良教師さんに言われたくないんですけどお」
「そうだ、そうだ。ユリアちゃんだけ、ズルい」
「そういう問題じゃないんだけど。それで、今日はどうする気ですか? すみれ先生はわかってると思うけど、明後日から、特進は勉強合宿でしょう。担任のすみれ先生は明日は忙しいんじゃないですか?」
「準備なら、とっくに終わってるから良いの。明日は打ち合わせだけだし。拓雄やユリア先生は知らないけど、あんたまさか忘れてる訳じゃないわよね?」
「わ、忘れてません」
拓雄も明後日から、勉強合宿があることを忘れていた訳ではないが、現実に引き戻されてしまい、少し憂鬱な気分になる。
二泊三日とは言え、合宿というのが気乗りしなかったが、特進コースに入ったのは自分自身なので、これも勉強の一環だと言い聞かせ、
「良いなあ。私も行きたい」
「美術教師が来てもする事、何もないわよ。美術部は合宿とかないの?」
「部の合宿は夏休みだけですよ。でも、冬休みは、美大志望の子のための、補習あるんです。剣道部はどうなんですか?」
「ウチも夏休みだけね。正月に稽古始あるの、面倒だけど」
「私も勉強合宿同行するのよね。英語担当だから仕方ないけど、あれ意味あるのかしら?」
「教師がそれ言っちゃ、おしまいよねえ……」
と、三人が冬休みの予定を話していくが、それぞれ予定があり、忙しいようであった。
「あの、今日は一体……」
「ああ、クリスマスパーティーするわよ。昨日はイブだったから、今日がむしろ本番のはずよね」
「はあ……」
拓雄に言われて、思い出したようにすみれが言うが、パーティーをするにしても、祝うための飾りもご馳走もなく、何をするのかと首を傾げていた。
「ふふふ、取り敢えず、出かけるわよー。今日は私の運転ね」
今日はすみれが車を用意して運転すると言い出し、アパートの駐車場に停めてあった、彼女の車に四人で乗り込む。
「あの、今日は何処へ?」
「何処行きたい? 先生たちとラブホでも行く?」
「もう、すみれ先生、デリカシーなさすぎです! まあ、拓雄君がどうしてもって言うなら、行っても構わないけどー」
「そ、そんな事は……」
すみれの冗談に顔を真っ赤にしながらも、後部座席に座っていた彩子は、隣に座っていた拓雄の腕に絡みつき、頬ずりする。
車の中とは言え、外から学校関係者や教え子が見ている可能性もあるのに、よくここまで大胆な事が出来るなとユリアも呆れてしまい、
「拓雄君、先生たちと一緒に居るの嫌なら、遠慮なく言いなさい。こうやって、一緒にプライベートで出かけること自体、本当はいけない事なんだから」
「嫌な事なんてありません。僕も楽しみです」
「キャーーー、私もよ。ねえねえ、何処にでも好きな所に連れってあげるからね」
「もう、気が散って運転できないから、はしゃがないでよね」
と車内で大騒ぎしながら、時間は過ぎていき、すみれの車は高速道路に入っていく。
一体、何処に向かうのかと拓雄も首を傾げていたが、
「はい、着いたわよー」
「えっと、ここは……」
車で一時間ほど走ると、見知らぬ家に辿り着く。
「ここ、私の実家なの」
「えっ! すみれ先生の……」
二階建ての少し古い家で、広い庭もあり、意外に育ちが良い
「大丈夫よ。今、誰も居ないし。両親はちょっとお出かけ中。私は合鍵持っているから、いつでも入れるのよ、自分の家だしね」
「初めて見たわね、すみれ先生の家」
「そりゃ、皆に案内するのは初めてだし。さあ、入りなさい」
車庫に車を停めて、すみれは三人を自分の家に案内する。
三人が一緒とは言え、女性の家に入るのは緊張してしまい、
「それじゃあ、クリスマスを祝って、かんぱーい♪」
「かんぱい」
すみれの家に入るや、早速、すみれがビールを空けて、乾杯を始める。
「ほら、飲んで、飲んで」
「すみれ先生、生徒の前でお酒は駄目ですよ」
「これ、ノンアルコールだから良いじゃない。帰り、車運転するんだから、私だって、考えているわよ」「そうですけど、ノンアルコールビールもお酒の一種なんですよ。ご存じないのですか?」
「あーあ、本当固いわね、ユリア先生。拓雄もさあ、本当にユリア先生で良かったのー? 私だったら、こんな堅苦しいこと言わないで、色々と大人の遊びも教えてあげるのにさあ」
「そ、その……うっ」
すみれはビールを飲みながら、拓雄に密着して、彼の手を掴み、胸に押し付けて強引にもませていく。
ノンアルコールなので酔う筈はないのだが、空気に酔ってしまったのか、すみれも顔を赤くしており、悪酔いしているように、教え子の拓雄の肩を組んで、過剰なスキンシップを続けていったのであった。
「もう、止めて下さい、すみれ先生。拓雄君、困っているでしょう」
「ふん、何が困っているよ。おっぱい揉めて嬉しいに決まってるじゃない。ねー、ちゅっ♡」
「だあああっ! すみれ先生ばっかずるいですっ!」
すみれが拓雄を独占しているのに嫉妬した彩子が彼女に注意すると、すみれも彩子を挑発するように、彼の腕にがっしりと組み、頬にキスをする。
こんな事が日常化してしまっているが、拓雄は彼女らの好意を無碍にも出来ず、教師でもある彼女たちに強く言えずに、ただされるがままになっていた。
「はい、拓雄君、あーん♡」
「不快ね」
彩子が拓雄にケーキを食べさせようとした所で、ユリアがボソッと呟き、
「あら、嫉妬?」
「ええ、そうよ。二人とも、よく私の前で出来るわね、そんな事」
「あん、怒っちゃった、ユリアちゃん? ふふん、でも遠慮なんかしないわよ。嫌なら、帰れば良いじゃない」
「ねー? 昨夜はお楽しみだったんだから、この位大目に見なさいよ。ほら、先生のおっぱい、見るう?」
「はあ……程々にしなさい」
すみれも彩子も、ユリアへの当てつけも込めて、更に拓雄にベタベタとし始め、すみれの家でささやかながらも淫らなクリスマスのひと時が過ぎていったのであった。




