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第二話 先生達の授業はいつも気が休まらない

「では、連絡事項はここまで。引き続き、一時間目の授業始めるわよ。教科書の四十三ページからね」

 その後、朝のホームルームを終えたすみれが、引き続き、自分の担当でもある数学の授業を始める。

 テキストを開きながら、黒板に数式を書いていき、教卓の一番前に座っていた拓雄もノートに書き写していく。

 拓雄はすみれから、授業中の態度が悪いと言われ、教卓の前にある席に移動させられてしまい、常に教師の目線に晒され、居心地の悪い気分になっていた。

「それじゃあ、この図の比の値を……拓雄君」

「っ! は、はい……えっと……」

 すみれが拓雄を当てるが、拓雄は指名された問題がわからず、口ごもっていた。

「どうしたの? 早く前に出て来て答えなさい」

「あの……わかりま……」

「わかりませんじゃないの。昨日、やった所でしょう。わかる範囲までで良いから、黒板に来て解いてみなさい」

「はい……」

 わかりませんと言う暇も与えず、すみれが前に出て解くよう、指示すると、止むを得ず、拓雄も教壇に上がって、チョークを手に取る。

 途中まで数式を書いてみるが、数学が苦手だった拓雄は本当にわからなかったので、間違ってしまい、

「違うわ。ここは……」

 と、すみれが解説していく。

「わかった? ちゃんと復習して来なさいって言ったでしょう」

 そう睨みつけながら注意すると、すみれは彼のお尻をポンっと叩き、拓雄もトボトボと席に戻っていった。

 最近はよく当てられていた彼であったが、すみれの指導はこれで終わりではなかったのだ。


「はい、じゃあ今日はこれまで」

 一時間目の終業のチャイムと同時にすみれの授業も終わり、教室が喧騒に包まれる。

 だが、すみれはすかさず教卓の前に居る拓雄に、

「拓雄君、ちょっと来なさい」

「? はい」

 教室を出る際に、彼に付いてくるよう、伝えると、拓雄も首を傾げながら廊下に出て、人気のない階段の中階にまで一緒に行くと、

「駄目じゃない、ちゃんと先生の授業聞いてなきゃ。これで、何回連続、当てた時に間違えたのよ?」

「す、すみません……」

 そう体を密着させて拓雄に言うが、目の前にすみれのスーツに包まれた大きな胸が突き出され、彼女の言葉が耳にほぼ入らず、思わず視線を逸らす。

「すみませんじゃないの。先生の授業、そんなにわかりにくい? だったら、ハッキリ言いなさい、どうなの?」

「そんな事、ないです」

「本当? てか、もっと大きな声で喋りなさい。男の子なんだから。玉もちゃんと付いてるんでしょ!」

「ひゃあっ!」

 と言いながら、すみれが拓雄の股間を軽く手で叩いて揉むと、彼も思わず奇声を上げる。

「くす、付いてるじゃない。だったら、もっとしっかりなさい。じゃあね」

「うう……」

 すみれも顔を赤くして呻いていた幼い男子生徒を見て、むしろご満悦な顔をして職員室に戻っていく。

 若い女性教師とは思えない、セクハラ行為であったが、最近はよく彼女にされており、股間に彼女の手の感触を感じながら、泣きそうな顔をして、教室に戻っていったのであった。


「はい、それじゃあ、今日はこの前のデッサンの続きをしますね」

 三時間目、芸術科目の時間になり、美術の担当である彩子の指示で、生徒達が美術室の中央に置いてあったフルーツのデッサンを始める。

 美術の授業はこうして黙って受けられるので嫌いではなかった拓雄は鉛筆を画用紙に走らせていくが間もなく、

「あら、拓雄君、上手じゃない」

 と、彩子が身を屈めて、彼の絵を覗き込み、笑顔で頭を撫でながら褒める。

 褒められた事は嬉しかったが、彩子はやたらと背後からやたらと顔を密着させ、拓雄の背に彩子の胸がピタっと密着しているのを感じてしまい、拓雄も顔を赤くしていた。

「あ、ここの影、もうちょっと濃くすると、立体感出るわよ」

「は、はい……」

 彩子がクスっと微笑みながら、彼の手を握って、フルーツの影を書き込んでいく。

 目の前に彼女のおっとりとした綺麗な顔と甘い香水の匂いが鼻をつき、拓雄も更に胸が高鳴ってしまい、彩子の柔らかい手に握られながら、一緒にデッサンを続けさせられていった。

「くす、そうそう良く出来たわ。やっぱり、拓雄君、上手よ。わからない事があったら、遠慮なく言ってね」

「はあ……」

 ようやく彩子の手が離れ、彼女も頭を彼の頭を軽く撫でて、他の生徒のデッサンの様子を見回る。

 ホッとした拓雄であったが、彩子が他の生徒に指導しているのを見ても、丁寧に教えてはいたが、自分程、体を密着させて手取り足取りやっていなかったので、明らかに過剰なスキンシップであり、その後もやたらと拓雄の周りを嬉しそうにうろついて、彼に話しかけていたので、美術の授業も終始落ち着いて受けてられなかったのであった。


「であるからして、この形容詞の用法は……」

 五時間目、英語の時間になり、英語担当のユリアがテキストを開きながら、英文を黒板に書いていき、文法の用法を説明していく。

 ユリアは日本人とカナダ人のハーフで、海外への留学歴もあったので、彼女の英語はネイティブ並みに流暢で、聞き惚れてしまう程であった。

 しかし、授業自体は非常に淡々と進んでいく為、ユリアの授業はつまらないと言う声も少なからずあり、進むのも速いので拓雄も付いていくのが精一杯であった。

「それじゃあ、この一文を、拓雄君。訳しなさい」

「はい……」

 ユリアに当てられ、黒板に書かれた英文を訳すよう、拓雄に指示し、彼も立ち上がって、たどたどしい口調で答える。

「違うわ。今、説明したでしょ。この名詞の訳は……」

 だが、間違えてしまい、ユリアが彼を鋭い目で見ながら、間違えた箇所を解説していく。

 その口調もとても厳しく冷淡であり、拓雄は彼女の妖精の様に美しい横顔と青い瞳が逆に怖く見えてきて、萎縮してしまう程であった。

「Did you understand? 返事は?」

「はい」

 解説を終わり、やっと座る事を許され、しょげた顔をしながら頷く拓雄。

 ユリアもこの所、自分に特に厳しく、よく当てられる為、何か自分がしたのかと首を傾げていたが、英語は特に苦手ではなく、テストでも平均以上の点は取っていたので、理解に苦しんでいた。


「拓雄君、ちょっと」

「? はい」

 そして五時間目の授業が終わり、拓雄がトイレに行こうと、教室を出た所、ユリアに呼び止められ、

「あなた、よく授業中、ボーっとしているわね。今日は特に酷かったわよ。先生の授業、ちゃんと聞いていなかったでしょう?」

「そんな事は……」

「そうかしら? ずっと眠そうにしてたけど。あなた、昨夜、何時に寝たの?」

「え、えっと……十一時くらいです……」

 と、鋭く冷たい目で見られながら、ユリアに昨夜の就寝時間を聞かれ、目を泳がせながらそう答えるが、実際には一時過ぎまでゲームをしたりしており、今日、寝不足なのは事実であった。

「嘘ね」

「え?」

「Look at me. 良い? 授業中は、私の目をちゃんと見て受けなさい」

「は、はい」

 ユリアは彼の顎を手に添えて顔を上げて、その冷たくも美しく透き通るような瞳で見つめられ、拓雄も吸い込まれるような気分になり、蛇に睨まれた蛙の様に身動き出来なくなってしまっていた。

「先生が話してる時は、私の目を常に見なさい。目線もチェックするから。逸らしたら、課題追加するわよ」

「はい……!」

「話はそれだけ。今度から気をつけて」

 と淡々としながらも、厳しく念を押して、ようやく拓雄の元から去り、職員室へ戻るユリア。

 彼女の背中を見ながら、あんな無茶な事を言われて、拓雄も溜息を付いてしまい、今後の事を考えると更に憂鬱な気分になっていったのであった。


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