短編 「分かれ道」
ゆっくり、車に乗った。行き先はカーナビが示してくれる。どこ行く宛ても無いがこの車は走り出す。
先ずは腹ごしらえだ、ドライブスルーでハンバーガーとポテトを買うとコーラを片手に再び走り出す。
十数分もすればあっという間に郊外だ、何もない誰も走っていない広野を行く。遠くに見える山々は淡い色を放っていて実に見事な景色だ。少し寄り道してみよう、そう思うとカーナビの進路が変わる。分かれ道に入るとトンネルがあった、壁に残る芸術作品とは程遠いようなスプレー跡がこの場所の様子を物語っている。段々出口が見えてくると同時に微かな磯の匂いも漂ってきた。トンネルを抜けると潮風が涼しげに吹いている、山の次は海だった。
「綺麗だ」
その広大な景色に見とれてしまい思わず車を止めて呟いてしまった。しかし、見るとガソリンの残量が20%を切っていた。近くのスタンドに寄るとフレンドリーな店員が話しかけてきた。
「らっしゃっせー」
「満タンで」
「はいよ、ところでどこかで会ったことあるかな?」
いきなり何を聞いてくるのかと思ったが俺はもう有名人だったことを思い出した。
「いや、気のせいじゃないすか?」
「うーん、そうかぁ」
そんな会話をしながらガソリンを入れ終わると俺は店員から逃げるようにそそくさと発車した。
「気付かれたか…」
そう呟くと車を北へと走らせる。向かった先は雪国、理由は火照った体を冷やす為だ。内心少し焦ってきた、もう駄目なのかもしれない。町の入り口に差し掛かった頃だった、背後からサイレンの音が聞こえてきた。もう、終わりだ。
「止まれ!もう逃げても無駄だ!」
「はいはい、もう逃げませんよ」
そう言ってる間に手錠がかけられた。
「誰からの通報だ?」
「なんでそんなことを聞く?まあいい、ドライブスルーで通報があってな…」
意外だ、もう気付かれてたのか。やはり分かれ道が悪手だった。ドライブと人生はとてもよく似ているんだ、分かれた道は遠回りになることもあるってことが…。