第八話:丸く収まった
「二人ともお疲れー。」
「マジ疲れたっス。」
何だか一週間くらいいた気分だ。実際の滞在期間は一日にも満たない。すぐに帰ってくるつもりだったのに、面倒事が多過ぎてしんどかった。
バーサク勇者を倒して以降に戦闘は無かったが、神の力で一瞬で完成した魔王城を探検したり、宴会したり、酔っ払ったサムが城の即死トラップにダイブして死にかけたり、宴会したり、スキル担当の神がオルシーである事が発覚してまたスルガと殺し合いになりかけたり、宴会したり、色々あった。
ステイとサムはかなり良い感じになっていた。くっつくのは時間の問題だろう。
サムが別れ際に『また何かあったら連絡します』と言っていたが、もう勘弁してほしい。何も無い事を切に願うばかりだ。
そんなこんなでようやく帰還して、ジュゼに報告している所だ。といっても、ジュゼも人形を通して見ていたので特段報告する事は無い。なので…
「報告。丸く収まった。以上。」
「おいこら。」
「いやー正直丸く収まるとは思ってなかった。良かった良かった。」
「もー、しょうがないなー。」
「大丈夫、報告書は先輩がきっちり書いて提出するっス。」
「おいこら。」
まあでもスルガがいないと危なかった場面も多々あったし、今回は大目に見といてやるか。
「報告書は後で大丈夫。二人とも今日はもう上がっていいよー。」
「よっしゃ、お疲れ。」
「お疲れっス。」
仕事からの解放。自由の身だ。さっさと帰ってもいいが…。
「飲みに行くか、スルガ。」
「まだ飲むんスか?」
「宴会は洋酒ばっかだったしな、久々に『天網恢恢』が飲みたい。」
「飲まなくていいなら付き合うっスよ。」
「構わないが、俺はがっつり飲むぞ。」
「あっしは平気っス。」
よし決まりだ。明日は休みだからしこたま飲もう。
「覚悟するのは先輩の方っスよ。飲み会の参加者に飲まない奴がいる事を許容出来るかどうか、先輩の器が試されているんス。」
世の中にはそういうのが許せない人種が存在するらしい。
「へーきへーき。そういうの一切気にならないし、俺らもうそんなの気にする仲でもないだろ。」
「さっすが先輩。でもいっそのこと、先輩があっしの身体を『気にする仲』にしてくれてもいいんスよ?」
そう言ってお腹をさするスルガ。何を言ってるんだこいつは。
「妊婦にお酒は禁物っスからね。」
「一人で飲みに行くか…。」
「えー、ダメっスよー。」
売り込みがだんだん過激になってませんかスルガさん。R18はダメですぞ。
受け流すのが困難になってきている。次に出勤する時には夫婦になってしまっているかもしれない。笑えない冗談だ。試しにいっそ流れに身をまかせてみるかと、テレ○・テン的思考に陥った事もあった。しかし一度流されたら最後、戻れなくなるような気がして思い止まった。今後も油断しないでいこう。
では、気を取り直して。
「行くか、スルガよ。」
「ういっス。」
帰り支度を済ませ、職場を後にする。
廊下に出ると、何やら騒がしい。
「この時間に問題発生だと残業確定だな。かわいそうに。」
「事故がどうとか言ってるっス。怪我人でも出たんスかね?」
「ここで怪我人出ても、さして問題にならんだろ。もう死んでるんだし。」
「それもそうっスね。」
何にせよ俺ら窓際部署には関係無い事だ。頑張れエリート諸君。
慌ただしい異世界課のスタッフ達を横目に、俺達は軽い足取りで行きつけの飲み屋に向かった。
この時の俺達は、まだ気付いていなかった。
これが、明日の休日が無くなるフラグであったという事に。