第五話:風雲!魔王城計画
かくして築城に取り掛かる事になった俺達。
まずは城主様(予定)に希望を聞いてみよう。
「ステイはどんな城にしたい?」
「それ以前に展開が早過ぎてよ、まだ魔王になる事を飲み込みきれてねーんだが。」
「大丈夫。最初から魔王になる覚悟が出来る奴なんていないっス。やってくうちに自然と魔王になっていくんス。そういうものっス。心配なんていらない…力一杯、暴れてやればそれでいいんス。」
妻の初めて出産を待ちながらも未だ父親になる覚悟が出来ず不安がる旦那に義父が語るような台詞を、訳知り顔でほざくスルガ。何者なんだお前は。
あとこの世界の歴代魔王は多分、生まれた瞬間から魔王だぞ。
しかしスルガの言う事も案外、的を射ているかもしれない。時間をかけられない以上、やりながら慣れてもらうしかない。
「まあしゃーねー。これが今の最善ってんなら、腹ぁ括るしかねーしな。」
ステイが竹を割ったような性格で助かった。マジ姉御。
「俺の城かぁ…とりあえずこいつらが全員生活出来る広さがあれば、特に希望はねーかな。」
城だから防衛設備が必要だ。それも、ステイの戦闘スタイルに合わせたものが良い。
「ステイの得意な戦い方は何だ?」
「近接格闘だ。」
スライムにあるまじき発言。でも…うん、分かってた。
「攻撃する所だけをな、こう…硬くするんだ。見た目だけだと硬い所と柔い所の違いが分かんねーから、結構有効なんだぜ。まあマジん時は今の姿でやるけどな。一番動き慣れてるし。」
なるほど、自在に変形・変質出来るのは【タイプS】の強みだな。
「他のお仲間もみんなそんな感じなのか?」
「俺がコツ教えたからやれるっちゃやれるが、得意な戦闘スタイルはばらばらだぜ。」
良かった。全員近接主体だったら遠距離攻撃に耐えながら籠城するしかなくなる所だった。しかしうっかりステイの所まで辿り着かれるとサシでボコり合い確定というのは困るな。アクション映画のラストじゃあるまいし。基本はサムが勇者として攻め入る体で挨拶に来るだけだから構わないのだが、自称力自慢の一般人が命を投げ捨てに来る可能性もゼロではない。ここはひとつ、タワーディフェンス系のトラップまみれの城にするしかないか。そうなるとここではちょっと手狭だな。現在スライムで溢れている、元は湖だったらしきこの大穴を利用して地下迷宮っぽいモノを造るのも面白そうだが、そもそもここでは素材調達に難がある。木なら周りに幾らでもあるが、魔王の城が木造とか…ないわー。
「うーん、どっかに人があまり近寄らず、城の素材がしこたま転がってるような広大で便利な土地はないかなー。」
「ありますよ、あーちゃんの旦那。」
「ナニィ、ソレハドコナンダ!?サム。」
「棒読みにも程があるっス、先輩。」
俺達は皆、同じ場所を考えていた。大災害のあった要塞都市跡。
「ここから北の方角、山が見えますよね。今は六千メートル級の山になってしまいましたが、あそこが要塞都市跡です。災害前は『要塞都市ズィーヴンエア』と呼ばれていました。今はその名で呼ぶ者は少なく、『エリアA8』と呼ぶ者が殆どです。」
そこそこ距離がありそうだ。俺とスルガだけなら転移でサクッと行けるが、この大所帯ではそうもいかない。
「あそこまではどうなってる?ずっと森だと助かるんだが。」
「すぐ手前まで延々と森ですよ。森を抜けると西から延びてくる街道にぶつかりますが、調査隊が稀に通るだけで人通りは殆どありません。」
「よし行こう。隔壁を張ってる仲間を呼んでこい。」
「分かりました。……………呼びました。数分で来ます。」
ただ黙っているだけのように見えたが。
「そんなスキルも持ってるのか。」
「こちらに来てから習得しました。仕組みは分かりませんが、なんかテレパシー的なヤツでピピッと。」
この世界で流行ってるの?それ。
「それ便利っスね。あっしらにも使えたらいいのに。」
「そうだな、そうしよう。」
俺は懐から手のひらサイズの人形を取り出した。
「何そのジュゼっぺちょーかわいい!!あっしも欲しいっス!!」
「あとであげるから待ってなさい。」
軽くあしらって、人形に向かって喋り始める。
「ジュゼっぺ、聞こえるかー?」
数秒後、人形が手の上で立ち上がったかと思うとぷんすこ怒り出した。
「だから『っぺ』はやめろとあれほど!!」
「かわいいぃぃぃ!!!やばいっスこれ!!!」
迫り来るスルガをどうにか躱して用件を伝える。
「こっちの能力を俺とスルガに送ってくれ。仕組みは分からないが、なんかテレパシー的なヤツでピピッとするヤツ。」
「何それ。ちょっと待って。」
何かを調べているような音が聞こえる。
「えーと…あ、これねー。おっけー、送るよー。」
「ばっちこい。」
「転送。能力名【仕組みは分からないけど、なんかテレパシー的なヤツでピピッと】。」
ははーん。さてはここのスキル担当の神、ナメてんな。正直、今の雑な説明だけでジュゼがすんなり目的のスキルを見つけたので、おかしいと思っていた。まさかそのままのスキル名だったとは。
この神とは会わない方がいいだろう。目の前にいたらきっと、スルガに許可を出してしまう。
「転送完了。もう使えるよー。」
よし、早速使ってみよう。
『スルガ、聞こえるか?』
『良好っス、先輩。』
スルガの声がほんのりと脳内に響く感じ。なるほど便利だし、能力自体に問題は無い。だが…。
『なんかエフェクトがいちいちSFチックっスね。これから核攻撃でも阻止しに行くような気分になってくるっス。』
『ここに出島は無いぞ。』
スキルを使えば使う程ファンタジー感が薄れていくな、この世界。ともあれ、これで堂々と内緒話が出来るようになった。有効活用させてもらおう。
「ジュゼっぺ、ついでに大勢で長距離移動出来るスキルとかないっスか?アカ○パニー的な。」
「あるにはあるけど…。」
ジュゼっぺ人形は青い塊を難しい顔で見つめる。
「流石に大勢過ぎて無理かなぁ。」
ですよねー。
「じゃ、なんか高速移動出来る乗り物とか欲しいっス。」
「まあそれなら…大丈夫かな。」
本当に大丈夫か?何か凄く不安だ。
「じゃ、送るよー。」
辺りが一瞬だけ淡い光に包まれる。そして俺の予感は的中する。目の前に現れたのは、大量の自動車やバイク。それもやけにゴテゴテしていて、なんというか…オフロード仕様感が過剰だ。
「うわー。頼んどいてあれっスけど、この世界でコレは大丈夫なんスか?完全にマッド○ックスっスよ。」
「この世界のリストから選んでるから、問題無い筈だよー。」
もはや何も言うまい。甘んじてヒャッハーするとしよう。
「俺はこういうの好きだぜ。運転も得意だしな。」
でしょうね。
「私も運転は得意です。本業は運び屋なので。」
お前もかサム。だがお前の場合、運び屋といってもスーツ着て仕事をしていそうなイメージがある。何となく。
「じゃ、お前ら先導してくれ。土地鑑もあるだろうしな。準備が出来次第、出発だ。」
スライムが全員乗れるか心配だが、乗れなかったらまあ後ろに張り付くとかしてどうにかしてもらおう。ステイの教えた【部分変質】を駆使すればイケる筈だ。絶叫マシンみたいに振り回されるだろうけど。それでもダメだった時は…どうしようか。
「いっそポンプとか用意した方が早いっスかね?池のスライムぜんぶ抜く的な?」
「管を通す距離が長過ぎるし、ちょいと扱いが雑じゃないか。」
「この世界的には全員外来種っスよ。」
流石スルガさん。容赦無いね。
「全員集まりました。準備完了です。」
「こっちもどうにか全員乗り込んだぜ。」
「よし、適当に互いを確認出来る程度に散開しながら移動開始。森林地帯から出ないよう注意しろ。エリアA8で合流する。」
「うぃーかんぷらーい。」
ヒャッハー開始だ。
土煙をあげながら、爆音で森の中を走る。
この世界の住人に見つかるとまずいとか言ってた気がするが、なんかもうどうでもよくなってきた。しかしまあこの森には人間は近寄らないとサムが言っていたし、大丈夫だろう。問題があるとすればモンスターだが…。
「なんかモンスターと全くエンカウントしないな。」
「大きな音を出してるから警戒してるんじゃないっスか?クマよけの鈴みたいなもんス。」
「あれ効果無いらしいぞ。」
恐らくモンスターにも分かるのだろう。あいつらちょっとおかしい、と。やべー奴には近付かない。常識だね。
『こちらサム隊。モンスターと遭遇。面倒なので振り切ります。』
やっぱり。一番まともそうな奴が襲われてる。
『救援いる?』
『大丈夫です。こいつの挙動も掴めてきたし、障害物が多いのでちょっと遊んでやります。』
遠くでエンジンの唸る音が聞こえる。あそこで戦っているようだ。暫くして急ブレーキのような音が鳴り、直後にまたエンジン音。その数秒後、ドシャアッ!!という何かが激突したような音が響き渡った。
『大丈夫か?サム。』
『倒しました。問題ありません。』
『凄い音がしたが、何してたんだ?』
『えーと…ちょっと翻弄して疲れさせた後、逃げるふりをして急加速しました。案の定全速力で追ってきたので、追いつかれる直前で避けて止まって、勢い余って前に出た所を後ろからフルスロットルで押し出して…木にどすーんって感じです。』
ああ、俺の想像していた『運転は得意』とちょっとレベルが違った。大丈夫だわこれ。
『そうか…うん、無事で良かった。安全運転でな。』
『車の中は安全なので大丈夫です。』
外は多分えらい事になってるだろうけどな。
「こっちにもモンスター来ないっスかねー。」
「やめなさい。あれはサムが強いのであって、この世界のモンスターが弱いわけじゃないのよ。」
「そろそろ何か斬りたいっス。」
また物騒な事を言い出したよこの子は。
「なんかこう…走るトラックの上とかで刀ぶん回したいっス。」
「モー○ィアスかお前は。これ以上ファンタジー要素を刈り取るんじゃない。」
ただでさえ絵面は完全に世紀末だというのに。本当にここは剣と魔法のファンタジー世界なのか?
「ちょっと思ったんスけど…。」
「どうした急に。」
珍しく何か思案している感じのスルガ。
「いくら何でもファンタジー要素が少な過ぎると思うんス。魔法っぽいモノはあったけど、なんかエフェクトがみんなSFっぽいし…剣なんかそもそも見てないっス。」
そういえば冒険者のサムも、腰に得物のひとつも提げていなかった。丸腰で冒険者などやれる筈もないし、暗器使いか?いや、主な敵がモンスターである冒険者がわざわざ暗器を使う意味がない。近接格闘がこの世界のトレンド?そんな馬鹿な。
「この世界、『十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない』パターンって事はないっスか?」
実はSF世界説。否定は出来ない、だが…。
「SF世界だとしても、色々と中途半端な気がする。それに、開拓班が調査した上で『剣と魔法のファンタジー的な世界』としたんだから、きっとそういう世界なんだろう。」
固定観念は捨てて、この違和感を受け入れるしかない。そうしなければこの仕事はやっていられない。そんな話をしているうちに、森を抜けた。
サムの言った通り西から街道が延びてきている。それ以外は全て荒野だ。荒野の先には山が聳え、麓には扇状地が広がっている。所々に人工物らしき巨石が転がっているのが見える。木々を避けるように適度にばらけていた皆が集まってきた。いよいよもって世紀末集団になってしまった。魔王軍というよりも拳○軍って感じだな。
『あの岩が城壁の残骸です。要塞都市の技術でかなりの強度の壁が築かれていたそうです。内側からの攻撃を想定していなかったために岩屑流によって破壊されましたが、城壁が逆向きに造られていたら岩屑流すら止めていたかもしれないといわれています。あれなら城の素材として十分でしょう。』
そんなにか。人災による山体崩壊という時点でもう規格外だと思っていたが、山の高さを四千メートルも縮める程の岩屑流を止める壁って何だよ…。
設計や技術面は、スライムとはいえこれだけ転生者がいれば一人くらい出来る奴がいるだろうとあまり心配していないが、この岩を【部分変質】で加工出来るのかという問題が生じた。後でステイに試してもらおう。とりあえずこの城壁の残骸を片っ端から掘り起こす。加工出来なくとも、野面積みにすれば石垣くらいにはなるだろう。
「よし、全員集まったな。ここからはスライム皆でお仕事だ。まずはステイに築城に使えそうな知識のあるスライムを集めてもらう。こいつらは設計担当だ。それ以外のスライムは全員、あの残骸を掘り起こして集める。作業開始。」
俺とスルガは知識無い組なので掘り起こし組にまわる。サムもこっちのようだ。土地が広く大変な作業だが、こちらには万単位の作業員がいる。今まで難点だった大量のスライムが役に立つ時が来た。これならそんなに時間はかからなさそうだ。
「先輩先輩、違うもの掘り起こしたっス。」
「何だ、埋蔵金でもあったか?」
「しゃれこうべっス。」
リアクションが薄い。突然の頭蓋骨にも平常運転。流石スルガさん。
「災害以降、ほぼ手付かずですからね。規模が大き過ぎる上に二次災害の危険もあるので。数回の大規模調査で『生存者無し』と判断されて以降は、年一回の簡単な調査が行われるだけです。」
「遺体もそのままってわけか…。ん?今、二次災害って言ったか?」
「何が埋まってるか分からないんですよ。当時の最新技術で造られた兵器がどれだけあったのやら。最後の大規模調査隊も、謎の爆発で甚大な被害を受けたと聞いています。」
地雷原を掘りまくってるんだな、俺達。
ゴッ!!……ズドッッッ!!!!!
数百メートル先で爆炎が上がった。青っぽいきらきらしたものが飛び散っている。あいつら物理攻撃は効かないけど、炎耐性とか大丈夫かな。
「何だよ、こっちの方が楽しそうだな。」
ステイさんにはあれが遊んでるように見えますか。
「えらい吹っ飛び方してるけど、大丈夫なのか?あれ。」
「あの程度じゃ傷一つ付かねーよ。飛び散るけどな。」
それは何より。
「設計の方はいいのか?」
「俺の要望はもう伝えてあるし、俺がいても役に立たねーしな。何かあれば報告しに来んだろ。」
「じゃ、俺達物理耐性無い組は撤退するんで、あとは任せた。」
「まあしゃーねーな、あれじゃ。」
リアルマイン○イーパは御免だ。森に避難しよう。
「スルガちゃーん、森へお帰りー。」
あいつはまだ頭蓋骨をいじってるのか。
「先輩、発掘したら全身綺麗に残ってたっス。」
「あんまりいじくるのはやめなさい。中の人はとっくに異世界転生して、あっちの世界でよろしくやってるだろうけど。何となくよろしくないから、メンタル的に。」
「中に誰もいないんスか?」
「少なくともこっちの世界にはいない筈だ。」
「じゃ、誰が動かしてるんスか?あれ。」
スルガの背後に這い寄るアンデッド。
これは流石に想定外だ。