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転生部異世界課特殊調査室の日常  作者: すいっちょ
転生したらスライムだらけだった事件編
4/14

第三話:丸く収めよう

異世界【W-4454】。

定期的に勇者と魔王が現れては倒し倒されを繰り返す、ごく普通の剣と魔法のファンタジー世界。しかしここに転生したがる者は少ない。モンスターが強過ぎるのだ。ザコ一匹倒すのにも、準備を怠れば即死は免れない。ここに転生するのは高ポイント持ちで身体が闘争を求めちゃってるような奴か、考え無しの阿呆くらいだ。こいつはどっちなんだろうな。

「お前さんか?連絡をくれたのは。」

「はい、サムといいます。」

「転生後もこっちに連絡とか可能なんスね。」

「そういうスキルもある。消費ポイント結構高かったと思うが。」

「この世界を選んだ時に、なんとなく嫌な予感がしたので。」

どうやら後者ではないようだが、こんなマニアックなスキルを付加している辺り、なかなかの変わり者かもしれない。スキルの特性上【記憶引き継ぎ】が必要になるため、高ポイント持ちなのは間違いない。

サムには現場からある程度離れた場所で待機するよう指示してあった。

「それでは問題の場所にご案内します。」

焚き火の始末をして歩き出す。背の高い木々が日光を遮る薄暗い森。同じような景色が何処までも続き、定位能力を麻痺させる。サムは慣れた様子で迷い無く進んで行く。到着まで暇なのでこれまでの経緯を聞く事にした。

「こんな所、よく入ろうと思ったな。」

「調査依頼があったんです。ご覧の通り、普段人間が立ち入らない場所なのですが、この森林地帯を開発する計画があるようでして。」

「全部伐っちゃうんスか?」

「いえ、間伐して日光が地面付近まで届くようにしたりして、健全な森にしたいようです。」

「なるほど、人間にとって都合の良い森に作りかえたいわけだな。」

「まあ、そんなところです。で、先週から仲間達と調査をしていたのですが…。」

前方が少しずつ明るくなっていく。日の光が届いてきている。それだけではない。地面が所々きらきらしている。日光を反射している?

どうやらあそこが目的地のようだ。

「三日前に、アレを発見しました。」


森を抜けると、溢れんばかりのスライムがたゆたっていた。


「『絶景かっこわらい』って感じっスねぇ。」

「笑い事じゃないね。どうすんのこれ。」

「どうにかしてください。そのために来てもらったんです。」

聞くのと見るのじゃ大違い。まさか数万匹全部ここに集まってるのか?

「もうこのままで良くないっスか?」

「ダメに決まってんだろ。」

「いやいや、ジュゼっぺの指示は『丸く収めて』っス。」

気付いちゃったと言わんばかりのドヤ顔になるスルガ。

「このままでは何も解決してないぞ。」

「よく見て先輩。」

犯人はお前だ的な勢いでスライム達を指差す。

「物理的にはッ!!『丸く』ッ!!『収まってる』ッッッ!!」

「そういえばサム、お前はどうしてこいつらが転生者だと分かった?」

「先輩、無視はダメっス。」

早くも扱いが雑になりつつある事に危機感を覚えたようだが、あえて流す。

「会話可能なスライムが一人だけいたんです。これだけの数が今のところ大人しくしているのも、彼のおかげです。」

数万匹いて会話スキル持ちがたった一匹。考え無しの阿呆の集まりか…。

ともあれ、そいつにも話を聞く必要がありそうだ。

「そいつだけここに呼んでくれ。で、待機。」

「待機?何を待つんです?」

「神待ちっス。」

間違っちゃいないがその言い方はやめよう。犯罪の香りがしてくる。

「この世界の転生担当も呼んである。」

「全ての元凶と思われるので発見次第シバくっス。」

「神々の戦いですか。」

「いや俺達は神じゃない。向こうさんは多分神だが。」

ではお前らは何なんだと聞かれると、正直困る。自分らでもよく分かっていない。面倒なのでもう神でいいかと最近思っている。

「もうとっくに来ていてもいい頃なんだが、遅いな。」

「もしかしてあの人ですか?」

サムの視線の先、木の陰に誰かいる。ここはサム達が張った隔壁の中だ。この世界の一般人という事は有り得ない。奴だな。

「おいそこのあんた!!」

人影がビクゥッ!!となる。明らかにビビっている。スルガのシバく宣言を聞かれたか。

「なんだもう来てたんスかぁ。何もしないから出てきてくださいよぉ。」

貼り付けた様な笑顔でにじり寄っていく。

「何もしないなら刀をチャキチャキするのやめてくださいぃ!!」

スルガの刀は特別製だ。時代劇好きが高じて、抜く時と収める時にチャキチャキ鳴るように改造してある。完全に趣味の産物だが、脅迫時に役立つ。こんな感じで。

「スルガさんや、それくらいにしてあげなさい………今は。」

「後で斬られるんですか!!?」

「神様相手にまさかそんなハハハ………事と次第によるっス。」

「完全に斬られる流れではないですか!!?」

冗談はこれくらいにして……マジで斬るつもりの奴も約一名いるが、とにかく事情聴取だ。





「あのう、なんか威圧感が凄くて話し辛いんですけど…。」

三人で前のめり気味に取り囲んでいる。傍から見たらカツアゲだ。

「お気になさらず。まず、お名前をお伺いしてもよろしいですか?」

何故か刑事ドラマの英国風紳士のような口調になってしまう。

「ダメっスよ先輩。名前を聞く時はまず自分から名乗らないと。あっしはスルガっス。」

「これは失礼。私の名前は―――」

「この人はあーちゃん先輩っス。」

スルガが割り込んできた。こいつは何故か俺の事を『あーちゃん先輩』と呼ぶ。そしてそれを広めようとしている。そのせいで俺の本名を知らない奴が結構いたりする。因みに本名は『あーちゃん』に掠りもしない。

「面倒なので『あーちゃん』で構いませんよ。」

「あ、サムです。」

「えーと、フォーカといいます。転生担当の神です。」

早速、本題に入ろう。

「ではフォーカさん、まず確認です。こうなった経緯は事前にある程度伺っていますが、後ろのアレはそちらにとっては想定内という事でよろしいですか?」

「想定内といえば想定内ですね。モンスターで転生するとこの森の何処かから生まれますので、有り得なくはないかなー程度ですが。正直な所、この状態もこちらとしては問題無しです。」

「いちイベント程度の扱いであると?」

ちょっと気まずそうに頷くフォーカ。青ざめるサム。

「いっそ人間と小競り合いでもしてくれると好都合です。」

「転生者同士で殺し合えと仰るのですか。」

口調は静かなサムだが、ちょっと神殺しも検討し始めた顔をしている。

「ぜ、前世では人間だったかもしれませんが、折角ここでモンスターとして生まれたんです。モンスターライフを満喫しないと。となれば、人間と対立するのは自然な流れです。」

「確かにそうかもしれません。ですが、この状況ではもう難しいでしょうねぇ。」

こんな塊でなければ、それでも良かったかもしれない。だがこいつらは何故か集合し、人間側の転生者と出会ってしまった。ここから殺し合えというのは、精神的にもう無理だろう。

「問題無しというのは分かりました。しかし気になる事が。『好都合』というのはどういう事でしょう?」

まるで戦争でもして欲しいみたいな言い方だ。

「このまま彼らが戦わなくても問題は無い筈です。何か対立させたい事情がおありなのですか?」

「そうなんですよ。そろそろ魔王を用意する時期でして、色々準備しなければいけないんです。」

今、魔王いないのか。モンスターが強過ぎたり大災害が起きたりで殺伐とした雰囲気が漂ってるから、てっきりどっかにいるもんだと思っていた。

「こんなに一箇所に集まったのは驚きましたが…ご覧の通り良い感じに異常な感じですから、これを発見した人間が『魔王復活の兆しじゃね?やべぇよ!』とか騒いでくれたらいいなーって。」

なるほど、『数万人』が『数万匹』で補充されても良かった理由が見えてきた。

サムが頭を抱えている。

「今、この世界は勇者もいないんです。魔王が復活したら終わりですよ。」

「あ、勇者は魔王の後ですよ。魔王に軽く暴れてもらってから用意します。」

定期的にマッチポンプやってるのか、難儀な世界だな。だんだんサムがかわいそうになってきた。

「勇者が先ではダメなのですか?」

「先に用意した事は何度かあったんですが、もれなくダメ人間になって働かなくなってしまったんです。その度に世界が魔王に滅ぼされかけて大変でしたよ。フフフ……。」

遠い目で語る。フォーカも苦労しているようだ。

「この世界において勇者の仕事は『魔王を倒す事』なので、魔王がいないうちに用意してしまうと『めっちゃ強いけど特にやる事が無い人』になってしまうらしいのです。」

他人と違う強過ぎる力は、平時においては人間関係に歪みを生じさせる。散々疎まれ、村八分にされた後、魔王が現れた途端に助けを求められる。まあ、働かないわな。

「魔王復活と同時に、既に生存している誰かを勇者にする事は出来ないのですか?」

「可能ですが、その場合は『めっちゃ強いけど頑張れば常人でも到達出来る程度の強さ』までしか付加出来ません。身体が耐えられないので。どう足掻いても魔王には勝てませんね。」

事情は大体分かった。よし。

「帰りましょう、先輩。」

珍しくスルガと意見が合った。サムには悪いが俺達に出来る事は無い。色々と粗くはあるが、一応この世界的にはどうにか収まっている。丸くはないかもしれないが…。

「ちょっと待ってください!もう会話スキル持ちのスライムの方とはちょっと仲良くなっちゃってるんです。殺し合いとか嫌ですよ!!」

「それならあれだ、ここに永住してもらって隠し続けるしかないな。」

「刑事ドラマの英国風紳士キャラもう飽きたんスか。」

事情聴取というノリと勢いでやってみたけど、ダメだ。肩がこる。

「よし、撤収!!」

長居は無用だ。何よりサムがかわいそうで見るに堪えない。すまんなサムよ。

フォーカもさり気無く帰ろうとしている。

サムを残して解散しようとしているまさにその時だった。


「こんな何も無い所に永住は嫌だねぇ。どうにかならねぇか?」


スライムがあらわれた!

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