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第十三話:ミズキの秘密〜イタリア風〜

チカネは混乱した。まあ気持ちは分かる。ミズキの『薬を作る能力』が無くなってしまうと、説明がつかない事が色々と出て来る。ミズキとエミールに、順番に説明してもらうとしよう。

「俺達に見せたあの炎魔法は、何だったんだ?」

するとミズキではなく、エミールが手を挙げた。

「あれは、僕だ。ミズキと事前に計画して、場所とタイミングを合わせて僕が放った。」

「何故、そんな事を?」

「それを説明するには、魔王クーエのある能力が関わってくる。」

まだ何か厄介な能力でも持っているのか。

「因みに、一発目を放ったのは僕だが、二発目は僕じゃない。」

「え、それってまさか…。」

「二発目を放ったのは、魔王クーエ本人だ。」

チカネはますます混乱した。

「魔王の能力って一体何なんですか!?エミール様!」

「魔王クーエの能力。それはね、『自分が信じた事を実現させてしまう能力』なんだ。」

チート能力持ちはクーエの方だったか。

「クーエ様と生活するうちに、私はクーエ様から絶対的な信頼を得た。それこそ、私の言う事なら何でも信じてしまう程に。そんなある日、私は気になる事があり、クーエ様にちょっとした悪戯をしてみた。」

「ドッキリでも仕掛けたんスか?」

「そんなに大した事はしていない。クーエ様が毎日書いている日記帳を拝借して、クーエ様が探しに来るのを待っただけだ。そして、日記帳を見なかったかと聞かれた私は、寝室で見たと嘘をついた。」

「地味な嫌がらせっスね。」

「何も起こらなければ、別の場所で見つけたと言って返すつもりだった。だがクーエ様が寝室に向かった数秒後、私の予感は的中し、驚くべき事が起きた。」

「な…何が起きたんですか?」

「私の手元にあった日記帳が消えた。暫くして、クーエ様が私の所に戻って来て言った。ミズキの言う通り寝室にあったよ、と。」

まるで怪談話でも聞いたかのように青ざめるチカネ。

「この事で、私の中にあった違和感が確信に変わった。と同時に、利用出来るとも思った。」

「クーエに魔法を使えると信じさせる事が出来れば、そのまま使えるようになるわけだ。だが、いくら絶対的な信頼を得ているミズキの言葉であっても、いきなり今から魔法が使えます、とはいかない。自分が魔法を放つ明確なイメージが湧かないからね。」

「そこで思い付いたのが、『偽薬効果』だった。『魔法が使えるようになる薬』と称して、ただの砂糖を用意した。信憑性を持たせるためにまずは私自ら飲み、エミールに協力してもらってあたかも私が魔法を発動させているかのように演出した。結果は、ご存知の通りだ。」

この辺りで、俺が何となくミズキに抱いていた違和感の正体が見えてきた。ミズキは『クーエ様は騙されやすい』と言っていた。ミズキ以外の者に会った事が無いクーエが、一体誰に騙されるというのか。騙していたのはミズキ本人だったという訳だ。

「ただ、このやり方には問題があってね。」

「そうだな、それだとクーエは遠距離魔法しか覚えられない。」

「そうなんだ、僕は魔王城には近付けないからね。」

近距離魔法の薬が作れない、というのにはそういう事情があったのだ。ミズキが魔法を使えない以上、『お手本』を見せる事が出来ない。

「それに関連して、もう一つ問題がある。クーエ様は、私に依存し過ぎている。私はいずれいなくなる。この世界にずっといる事になったとしても、ただの人間である私の寿命の方が遥かに短い。クーエ様には、一人でどうにか出来るようになってもらわなければならない。私がいなくなる前にな。」

「どうにかって…かなり無理ゲーじゃないっスか?」

「だな。能力はチートじみているけど、最初のハードルが高過ぎる。」

クーエ自身に『思い込ませる』事。ミズキがいればそこまで難しくないが、これをクーエだけでとなると難易度が跳ね上がる。

「何か策はあるのか?」

「あるにはある。けど、まだちょっと決め手に欠けるかな。」

あるのか、それは助かる。

「大分、荒療治感は否めないけどね。」

「な、何をする気なんだ。」

「それはまあ、お楽しみという事で。」

何その振り…めっちゃ怖いんだけど。満面の笑顔のエミールが逆に怖い。そんなエミールがにこにこのまま再び喋り出す。

「と、いう訳で!」

さっきからやたらと怖い振りが続く。今度は何を言い出すんだ。少しタメてから、エミールは続けた。

「僕もこれから魔王クーエに会いに行こうと思う!!」

チカネの時間が止まった。目が点になっている。

「な…。」

「あ、戻って来た。」

「何考えてるんですか!?死ぬ気ですか!?」

チカネは焦ったような泣き出しそうな、何だかよく分からない顔になってエミールに詰め寄る。

「ははは、チカネは面白い事を言うね。」

「おまえもしかしてまだ、自分が死なないとでも思ってるんじゃないかね?」

「弟さんは黙ってて。」

「死なないとまでは思ってないけど、死にに行く気も無いよ。」

そう言って、エミールはバックパックの様なものを取り出した。

「こいつを使う。」

「また新しいアイテムか?今回は大盤振る舞いだな。それはどんなアイテムなんだ?」

「こいつは魔力バッテリーだ。」

「ばっ…て…?」

聞き慣れない言葉に、チカネは困り顔になる。

「魔力をためておく装置と思ってもらえればいい。吸い取られる分の魔力を、これで代用しながら進む。」

「中の魔力は清浄なのか?」

「勿論。魔力を浄化するのは魔王だけじゃない。魔物にも僅かだがその能力がある。外の魔物を見たかい?あれは魔力浄化のために飼育しているんだ。奥にもかなりの数の魔物がいて、僕達の魔力はそれで賄っている。ウチは食料だけじゃなく、魔力も自給自足なのさ。」

「世界中でそれやれば解決じゃないっスか?」

「うーん、あまり現実的とは言えないかな。普通の魔物が浄化出来る魔力は本当に僅かなんだ。僕達の分だけでも軽く数万体は飼ってる。とても全人類を賄い切れるとは思えない。」

この農場、思った以上に広大らしい。このイケメンは、ただ引きこもっていた訳ではないようだ。色々調べて便利な物を開発したり、魔王城近くの森まで出張して爆破したり、むしろフットワークは軽いタイプと言える。

「これ、どうやって使うんですか?」

「背負うだけで、勝手にシールドを張ってくれる。シールドの色で魔力残量も分かるようになっている。ただし、これを使っている間は魔法は使えない。いや、使えない事はないが…使わない方が良い。」

急に歯切れが悪くなった。

「何か問題でもあるのか?」

「うーん、ちょっとね。見た目が、あまり…よろしくない。」

「むむっ。」

スルガセンサーが何かをキャッチした。

「これは『ただし魔法は尻から出る』ってヤツっス。」

「まさか。」

「よく分かったね。」

「そんな馬鹿な。」

確かに見た目がよろしくなさ過ぎる。色々な意味で。

「元々違う用途で作ったものを改造しただけだからね。変な機能が残ってしまったというか…。」

「元は何だったんスか?」

「ジェットパックだ。」

「じぇ?」

知らない言葉を聞く度に困った顔になるチカネ。なんかかわいい。

「空を飛ぶための道具だ。元はこれが付いていたんだ。」

そう言って、噴射口のようなものを取り出した。なるほど、これがあれば確かにジェットパックに見える。っていうかこのイケメン、空まで飛ぶ気だったのか。

「ミズキさんや。いくら毎回楽しみだからって、エミールに変な異世界知識を与え過ぎじゃないかね?」

「ナ…ナンノコトカナ?」

実はかなりお茶目な性格である事がバレつつあるミズキさんは、しらを切る。

「いやぁ、ミズキの世界の話は実に楽しい。魔王の能力関連の相談で、度々ここで会っているがね。毎回、話を聞かせてもらうのが楽しみでもあるんだ。」

「どっかで似た様な台詞を聞いたな。」

「うぅ…。」

こいつら、この世界の利害関係だけじゃなくそっちでもWin-Winだったか。しかしエミールよ。程々にしておかないと、君の隣で膨れっ面をしているチカネが何をするか分からんぞ。

「そ…そのバッテリー、効果時間はどれくらいなんだ?」

ミズキが慌てて話題をすり替える。今までのクールなキャラは、完全に鳴りを潜めてしまった。

「魔法を全く使わなければ、一日って所かな。シールドが青になったら、戻った方が良い。」

「え、それって一日エミール様に会えないって事ですか?」

「まあ、そうなるね。」

「そうですか…。」

チカネの目からハイライトが消えた。そんなチカネの気持ちを知ってか知らずか、エミールはバッテリーを更に二つ取り出した。

「ここに、すぐに使えるバッテリーが三つある。一つは僕が使う。残りは二つ。あとは、分かるな?」

「お供させていただきます。」

即答だった。

「実を言うと、道中で野暮用があってね。火が必要になるかもしれないから、炎魔法が使えるチカネは同行確定なんだけどね。」

「っしゃあぁぁっ!!」

全力でガッツポーズをするチカネ。もしかしてこっちが素なのか?

「あと一人は…アレで決めようか。」

「アレですか。久しぶりですね。じゃあ皆に伝えてきます。」

チカネは足早に部屋を出ていった。

「アレって何だ?」

「ちょっとした勝負事をね。出発は明日になるし、楽しいから皆も見ていくといい。ついでにウチの農場も案内しよう。」

エミールに促されるまま、俺達は部屋を出た。


農場を案内してもらって改めて感じたが、やはり想像以上に広い。エミールを含めて八人で暮らしているらしいが、よくその人数で管理出来たものだ。皆『アレ』とやらの準備をしているのか、ここに着いた時に見た人影は見えなくなっていた。一通り案内を終え、俺達は農場の奥地の広場にやって来た。チカネ達もここに集まっているようだ。何やらもこもこした動物らしきものを連れて何かしている。エミールがその一頭をこちらに連れて来た。

「こいつは…アルパカだな。」

「アルパカっスね。」

このもふもふ加減と、全てを見透かしたようなつぶらな瞳。間違いなくアルパカだ。

「そちらの世界にも、似た生き物がいるんだね。こちらでは『モンタ』と呼ばれている。」

「猿の名前みたいっスね。」

「このモンタでこれから競走するんだ。優勝した者が、明日の僕のお供だ。」

このもふもふで競走…かなりシュールな絵面が思い浮かぶ。

「実質、アルパカでうま○ょいするって事っスね。」

かなり雑な言い方だが、まあそういう事だろうな。

「そっちのアルパカとやらも、速いのかい?」

「まあ一般人よりは速いだろうけど、物凄く速いってイメージは無いな。」

「そうなのか。モンタは凄く速いけどテイムし易いから、こういうのに向いているんだ。」

「そうだな…ここで見た限りだが、トップスピードは時速三百キロって所か。」

「ほなアルパカと違うかぁ…。」

完全に似て非なるモノだな。

「こんな森の中じゃ娯楽も無いからね、たまに競走させて楽しんでいるんだ。ミズキに協力してもらって、コースも作った。」

途端に目を逸らすミズキ。また雲行きが怪しくなってきた。そういえば、このコースレイアウト何処かで…。

「それがこの『モンタ・サーキット』さ。」

爽やかに紹介してくれるイケメン。ミズキを直視する俺。

「先輩、ク○吉くんの犯行を目撃したう○みちゃんみたいな目になってるっスよ。」

「ミズキさんは、どうやら駄洒落が得意なようだね。」

「き…気のせいじゃないか?ハハハ…。」

あのホームストレートの奥に見える初見殺しシケインは、見間違いではなかった。

「そろそろ始まるみたいだ、行こう。」

座って観戦出来る場所もわざわざご丁寧に作ってあるようだ。エミールに続いて、俺達は座席へ向かった。壮大な茶番の臭いを感じながら…。

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