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第十一話:魔王と勇者がバチボコにやり合う世界が懐かしいっス

城のバルコニーのような場所に移動した俺達。俺とスルガはここでようやく外の景色を拝む事になった。周囲は聞いていた通りの不毛地帯。遠くには森や荒野が広がっていて、ここからは人が住んでいるような場所は確認出来ない。ふと、ミズキが森の中央辺りを指差した。

「あの辺りにしましょうか、クーエ様。」

「人間も居なさそうだし、良いんじゃないかな。」

「ではまず私から。」

ミズキはおもむろに謎の白い粉と水を懐から取り出し、慣れた動作でそのままゆっくりと飲み干した。

「行きます。」

呼吸を整え、目標を見定め、右腕をスッと前に出す。僅かな静寂の後、ミズキは指を鳴らした。次の瞬間―――


森から爆炎が上がった。


遅れて来る爆音と熱風が、その凄さを物語る。気付けば森の中央には大きなクレーターが出来上がっていた。

「成功です。では、クーエ様。」

「ああ。」

呆気に取られている俺を置いて、事を進める二人。スルガは感心した様子で腕を組み、ラ○ュタの雷がどうとかほざいている。

「行くよ、ミズキ。」

「いつでもどうぞ。」

ミズキと同じく謎の白い粉を水で胃に流し込み、指パッチンの姿勢になるクーエ。そして、指を鳴らす。


結果、さっきのクレーターの隣に倍以上の大きさのクレーターが出来た。


「ええと…ミズキ、説明を。」

「私達が飲んだのは、炎魔法が使えるようになる薬だ。」

確かに炎魔法だったが、そんな一言で片付けられる威力じゃなかったぞ。

「この薬は凄いんです。魔法を使うのに、魔力を必要としないんですよ。」

興奮気味に語るクーエ。どう考えてもヤベー薬じゃねーか。

「副作用とか無いのか?」

「無い。身体への負担も一切無い。」

ああ、世界のパワーバランスが変わるとかいうレベルじゃなかった。

「これを、ミズキが作ったのか?」

「まあ、そうだな。これが私の能力だ。」

事故転生して、チート能力を得て、この世界で一番ヤベー奴になっちまったんだな…。

「これ、人間側に知られると不味いよな…。」

「ああ、その点は問題無い。この能力には制限がある。薬は、クーエ様と私にしか効かない。」

なるほど。クーエを助けたいミズキにとっては、この制限は逆に良い方向へ働いているのか。

「他に制限は?」

「無い。作って、飲んだ分だけ能力が得られる。」

ヤベー能力である事に変わりは無いな。

「以前は一回の服用で魔法一発分だったのですが、ミズキの努力の甲斐あって今では一度飲めばその魔法が恒常的に使える様になりました。」

ヤバさに拍車がかかっている。

「気になったんスけど…。」

今まで一人で考え込んでいたスルガが話の腰を折る。

「この世界の魔法は、詠唱とか必要無いんスか?」

「必要だが、私の薬は例外のようだ。」

「そうっスか。じゃ、今の炎魔法使う時だけ、形だけでもちゃんと詠唱して欲しいっス。」

「構わないが、どうしてだ?」

「かっこいいからっス。で、放つ時にこう叫んで欲しいっス。『えくすぷろー…

「こいつの事は無視してくれ。」

軽く興奮気味のスルガを抑え込む。

「むぅ。あ、何かを真っ二つに切断する系の魔法の時は、指パッチンだけで良いっスよ。」

「素晴らしき外ハネ三下おじさんムーブはやめなさい。」

「ちぇー。」

「残念ながら、近距離の物理攻撃は薬でも難しいようでして。」

「色々試してはいるんだが、上手くいかなくてね。フィジカルが弱いクーエ様には、近距離攻撃の魔法薬製作こそ急務なのだが。」

そっち系の薬を作る方が簡単なイメージを何となく抱いていたが、万能では無いようだな。

「その感じだと、魔力を奪う能力や魔力浄化に関しても既に試したか。」

「お察しの通り、そちらも上手くいかなかった。」

そう簡単にはいかないか。何にせよ、この世界の情報をもっと集める必要がありそうだ。ミズキが薬を作る所も後で見せてもらおう。

「長期戦になりそうだな。情報収集にどっかの街まで行ってみるか。」

「それなら私も同行しよう。丁度今日、買い出しに行こうと思っていたんだ。」

「彼の所にも行くのかい?」

「はい。」

「彼?新たな登場人物の予感っス。」

増えるのは構わんが、面倒臭く無い奴でお願いしたい。

「実は我々には人間側の協力者がいる。街を探索するより、彼と話した方が有益な情報が集まるだろう。少々変わり者だが、信頼できる。」

その言い回しで『少々』だった所を、俺は見た事が無い。不安だ。

「その協力者さんは、こっちの事情を全部知ってるんスか?」

「全て把握している。その上、この世界の事については我々以上に詳しい。行く度に新しい発見をしていて、何かしら新しいアイテムを開発している。毎回、それを見せてもらうのが楽しみでもあるんだ。」

偏屈な科学者タイプといった所か。期待は出来そうだな。

「そいつから情報が漏れる危険は無いのか?」

「有り得ないな。彼の居場所を知っているのは彼の仲間と私だけで、他の人間から隠れて生きている。何より人類滅亡を避けたい彼にとって、我々の情報が人間側に知られる事はデメリットでしかない。」

なるほど、そういう事か。どうやら信用してよさそうだ。

「よし、じゃあそいつに会いに行こう。」

「では出発しよう。遠方な上に、暫くは徒歩だからな。早いに越した事は無い。」

「集団転移の魔法薬とか…。」

「そんなものは無い。」

「デスヨネー。」

徒歩五キロ以上か…。

「という訳でクーエ様、行って参ります。」

「道中、気を付けて。」

「クーエ様も、誰か来ても玄関開けちゃダメですよ。」

「誰も来ないと思うよ…。」

「我々のような存在が他にいないとも限りませんし、クーエ様は騙されやすいので、一人の時は常に厳戒態勢でいてください。」

「過保護に紛れて、さり気にディスってるっス。」

騙されやすい、ねぇ…。

「クーエ自身がレーダーサイトみたいなもんだし、引っかかったらすぐにアレお見舞いしてやれば大丈夫だろ。」

俺は背後の森のクレーターを親指で示して苦笑した。全滅はさせられなくとも、その侵入者がどんな馬鹿だろうが撤退という判断はこの一発で得られるだろう。

「ちゃんと警戒はしておくよ。ミズキの言う事はいつも正しいからね。」

………ふむ、なるほど。

「では助さん格さん、参りましょうか。」

「はいはい、お供しますよ。黄門様。」

こうして俺達は荒れた大地に踏み出した。






こんなに歩いたのは何時以来か。この仕事に就いてからは、移動は何かしら便利な物があった。それ以前、俺がまだ生きてどっかの世界で冒険者やってた頃も、仲間に優秀な魔法使いがいたため移動に苦労した事は無かった。あの時はパーティ全員が優秀で、無能は俺だけだった。正確には、俺の能力は『剣と魔法のファンタジー世界』では全く役に立たない能力だった。今もその能力は健在だが、お目にかける機会は今後も無いだろう。フィジカルだけでどうにか立ち回って、非常に気まずい日々だったのを今でも覚えている。魔王が規格外だったせいで俺の能力が見事にハマり、魔王戦だけ無双状態だったのは面白かったが。話が逸れてしまった。そんな訳で、職場のエントランス間の往復以上の距離を歩くなんてのは、低レベル帯の駆け出し冒険者だった頃以来ではないだろうか。体力的には全く問題無いが、如何せん延々と同じ景色でつまらない。同じ景色と言えば職場もだが、あっちはスタッフが常にわちゃわちゃ動いていてそれなりに違う景色が見られるし、各所に知り合いもいて退屈はしないのだ。

「先輩、暇っス。いちゃいちゃしましょう。」

「致しません。」

ここにも暇を持て余した奴が一人。ちらほらと植物らしきものも生えているし、不毛地帯は抜けた筈だが…。

「もうすぐ最初のチェックポイントだ。あそこに家があるのが分かるか?」

そう言ってミズキが指差した辺りに、よく見ると…確かに何か建物があるようだ。

「あそこにいる、彼の仲間と合流する。」

「何故あんな所に家が?」

周囲に他に建物は一切無い。何処ぞのバラエティ番組が取材に来てもおかしくないくらい、何も無い。

「わざわざ彼が建てたんだ。不毛地帯の観測と、門番を兼ねてな。」

「門番?」

「たまに来る自殺志願者を止めるためにな。」

「ああ…。」

「本来の意味の自殺志願者なら誰も止めないんだが。『かっこわらい』の方は…一応、形だけでも止めといてやろうという彼の温情だな。」

「そういう奴こそ放っときゃ良いのに。優しいんスねぇ。」

「『立場上、放っておけない。』というのもあるんじゃないか?」

「立場上?」

ミズキの眉がピクリと動いた。

「彼が何者か、気付いているのか?」

「何となく、ミズキの話から察した。それで信頼に足ると判断した。」

「ではもう隠す必要も無いな。これから会いに行くのは、勇者エミールだ。」

「メ○スさんだったんスか?」

彼自身の不用意な発言のせいで、もう変なあだ名が付いてしまっている…。

「あの家にいるのも、勇者エミールのパーティメンバーの一人だ。」

「セリ○ンティウスさんっスね。」

「多分違うぞ。」

その家…二階建てのログハウスらしき建物まであと数百メートルという所まで来た時、何か見えた気がした。

「ん?今、二階が光らなかったか?」

「あんな所に『王者の剣』があるんスか?」

「いや、流石にそんな大掛かりなレーザー兵器は無いと思うぞ。」

だが確かに光った。あの感じ、何かの反射のような…。


ヒュンッ!!


何かが頭上を高速で後方に飛んで行った。ほぼ同時か一瞬遅れるかくらいのタイミングで家の方から大きなバズン!!という音が聞こえてきた。後方に抜けた何かを確認するために振り返る三人。数百メートル先、自分達を挟んで家と正反対くらいの所に何かいる。いや…いた。巨大な魔物らしき生物は頭部と思しき場所に大穴をあけられ、絶命していた。

「ヒュウ!ヘッショナイっスぅ!!」

「ないっすー。」

「ミズキさん!?」

「はっ!いや…つい…昔の癖で……忘れてくれ。」

聞かなかった事にしよう。いやしかし…この感じ、どう考えても…。

スナイパーライフル(SR)っスね。」

「久々に聞いたなこの音。」

俺達の仕事先は、剣と魔法で溢れ返っている。一部例外を除いて。

「何だかあっしらが出会った頃を思い出すっスねぇ。」

確かにそうだが、腰をくねらせながら言うんじゃない。誤解されるだろうが。そんなに良い出会いじゃなかっただろうが。

「作ったのか、アレを。」

「何か知っているのか?ミズキ。」

「私から聞いた話を基に、エミールが新しく作った玩具だ。恐らくな。」

玩具と呼ぶには威力がガチだぞ。

「残りもヤってくれるんスかね?」

様子を見る。同じ魔物があと四体いる。飛んで来た次弾は明後日の方向に飛び去って行った。三発目は俺達の足元に着弾した。四発目はスルガ直撃コースだったので、そのまま真っ二つになった。その後も何発か放たれるも、魔物には一発も当たっていない。

「あいつヤバイっス!ガバエイムっス!!」

むしろちょっとずつ狙いがこっちに寄ってきている、まである。最初の一発はビギナーズラックって奴か。とにかくこのままでは挟まれて詰む。久々に使うか。

「スルガ、あっちの四体は任せた。」

「うぃーかんぷらーい。」

俺は家の二階を見る。射手か武器、どちらかを認識出来れば勝ちだ。窓の中央、さっき光っていた辺りを注視する。……見えた。スコープが付いた銃らしきもの。俺はそいつを『意識して』見た。以降、弾が飛んで来る事は無くなった。後ろを向くと、魔物の残骸が八つ転がっている。相変わらず速い。

「あーるてぃーびー。」

言いながらスルガが抱きついてくる。

「人を基地扱いすな。」

引っぺがす。

「ミズキ、無事か?」

「ああ、大丈夫だ。」

「ああいう魔物はよく出るのか?」

「日常茶飯事だ。何時もは素手かナイフでやり合っているが、流石に五体同時はきついな。助かった。」

素手かナイフでやり合うサイズじゃなかったと思うんだが、とりあえずそれは置いといて今は…。

「オーケー。それじゃあ、ガバエイムさんとご対面といこうか。」

俺達は家に向かった。






「大っ!!変っ!!申し訳ありませんでしたっ!!!」

玄関を開けるなり、最敬礼で出迎えられた。多分、彼女がガバエイムさんだろう。褐色の肌にエルフの様な尖った耳。所々に白いメッシュが入った金髪のロングヘアが、ぷるぷると震えている。

「言い訳があるなら聞きましょう、チカネさん。」

「それではまずこちらをご覧ください。」

チャンスを与えられたチカネさんは一瞬で立ち直ると、クイズ番組の司会者の様な口調で喋り出した。

「解説動画でも見せられるんスか?」

「それを踏まえた上でクイズが出題される、わけないな。」

チカネさんは件の銃を取り出した。

「エミール様が開発した新兵器『フレーバー』です。」

「危険な香りしかしないっス。」

「同感。」

「本当に作ってしまったんだな、冗談のつもりだったのに。」

「エミール様にあの手の話は禁物です。ミズキさんが帰った後、目を輝かせながら作ってましたよ。」

最早勇者というよりマッドサイエンティストだ。

「それにしても酷いエイムだったな。危うく俺達が粉々になる所だったぞ。」

「想像以上に扱い辛くて…。」

こんなデカい銃に撃たれたら一溜まりもない。どう見ても対物ライフルだ。

「そういえば、コレに撃たれたんスか?あっし。」

難なく真っ二つにしてたけどな。

「これはあっしらの世界で言う所の、アンチマテリアルライフルって奴っス。アンチマテリアルの意味をご存知っスか?」

「いえ…。」

「『人に向けて撃ってはいけません』って意味っス。」

「そんなに危険なものだったのですね。エミール様が軽いノリで『試し撃ちして来てよ~』なんて仰るから、てっきり雑魚モンスターを掃討する程度の武器かと…。」

エミール様、ヤバイ奴確定だな。

「ともかくその武器は使用禁止だ。エミールにもそう伝えておけ。」

「分かりました。まあコレも恐らく壊れてしまったので、丁度良かったですね。ところで…ミズキさん。」

「ん?どうした?」

「このお二方はどういったお方で?」

そういえば自己紹介がまだだった。

「ただの旅の隠居ですよ、少々お節介焼きのNE☆」

こいつまだ越後のちりめん問屋やっとったんか。

「私が元居た世界の住人で、私を捜索しに来てくれたんだ。名前は……そういえば私も名前を聞いていなかったな。」

「あっしがスルガで、こっちはあーちゃん先輩っス。」

「変わった名前だな。」

「本名じゃない。あーちゃんでいいぞ。」

このままだと本名を名乗れなくなる日が来るかもしれない。

「私はチカネと申します。エミール様の側近にして正室……最有力候補です。」

「最有力候補が沢山いる予感がするっス。」

「分かる。」

勇者パーティ、エミール以外全員女性まで有り得る。

「お二人ともミズキさん同様、魔王城に入れるのですね。」

「そうらしい、だから多分魔法とかは使えん。」

「その銃を当てるくらいなら出来るっスけどね。」

「いや、これは…撃つのも難しいと思いますよ。それに残念ながら、壊れてしまったようですし。」

「それな、多分壊れてない。俺の特殊能力でちょっと弾を止めさせてもらった。もう撃てると思うぞ。」

「魔法以外にそんな能力が…ミズキさんの薬といい、そちらの世界は凄い方ばかりですね。」

「そうでもない。俺達が特殊なだけだ。」

「よし、ちょっとお手本を見せてやろう。そいつを貸してみるっス。」

自分に近いサイズの銃を抱えて歩き出すスルガを先頭に、俺達は二階の狙撃ポイントへ。窓から外の様子を確認してから、スルガは準備を始めた。

「ふむふむ、なるほど。」

バイポッドを立てて床に銃を設置、弾を確認して弾倉をセットする。床に寝そべり、鼻歌交じりでボルトハンドルを引いてスコープを覗き込む。

「同じのがいるんで、それヤるっス。」

グリップを握り、親指で安全装置を解除して呼吸を整える。引き金に人差し指がかけられ……そこでスルガの動きが止まった。

「ん?」

一旦顔を上げ、不思議そうな表情で引き金を観察するスルガ。

「そういう事っスか…。」

何かを納得して、もう一度スコープを覗き直す。

「ふんっ!!」

グリップを強く握り込む。次の瞬間ズガァッ!!という爆音が室内に響き渡った。魔物は…頭部が粉々に砕け散っているようだ。

「ダメっスねこいつは。狙撃には向かないっス。」

「それにしては、綺麗に頭に当たったようだが。」

「たまたまっス。これじゃ、まともに撃てないのも納得っスね。」

「何か問題が?」

スルガは腕を組み、うーんと唸ってから一呼吸置いて答えた。

「トリガープルがクソ重いっス。」

狙撃銃として使うには致命的だ。

「これを人差し指の力だけで引ける奴は人間じゃないっスね。あっしの握力でも無理でした。」

スルガは普段刀を扱う事もあり、それなりに握力を鍛えてある。それなりと言っても、人外基準でのそれなりだ。人間のレベルなど遥かに凌駕している。そのスルガをもってしても引けないとなると、そもそも人間用には作られていないという事か。

「チカネっちはこれどうやって撃ったんスか?」

「っち?」

もうその距離感なの?スルガさん。チカネさんちょっと戸惑ってるよ。

「ええと…引き金の所にロープを通して両手で掴んで、ストックに足をかけて全体重を乗せて引っ張りました。」

随分思い切った事したね…。それで初弾当てたのは奇跡か。もう二度とやらないでいただきたい。

「どちらにせよ、やっぱりそいつはもう使用禁止だな。厄介過ぎる。」

「そうですね。人間の手にうっかり渡っても悪用され辛いというのは安心ですが、如何せん使い勝手が悪過ぎますね。」

まさかその対策用にあえて重くしたのか?その割には試し撃ちを頼む辺り、意図が読めない。仲間の握力くらい知っているだろうに。まあそれはエミールに会ってみれば分かるだろう。

「では本題に入ろう。チカネ、エミールは居るか?」

「もうお戻りになられている筈ですよ。何時ものですか?」

「それもあるが、二人にこの世界の事を教えて欲しいというのが今回の主目的だな。」

「分かりました、それじゃ行きましょうか。こちらへどうぞ。」

チカネは家の一階の奥の部屋へと俺達を案内した。扉を開けると、家具等が何も無い殺風景な空間の床に、分かり易い感じの魔法陣が描かれていた。

「こ、これはっ!」

「徒歩移動からの解放!!」

ミズキとチカネが苦笑する。

「お察しの通り、これでエミール様の所までひとっ飛びです。」

「素晴らしい!!」

「最高!魔法最高!!」

急いではいない、決して急いではいない。だが、俺もスルガもかったるいのが嫌いなのだ。

「で、では…早速行きましょうか。」

テンション爆上がりの俺達に、ちょっと引き気味のチカネ。気を取り直して、チカネは何かをごにょごにょと詠唱し始めた。ほどなくして、魔法陣が仄かに光り出す。

「こういうのでいいんスよ、こういうので。」

懐かしいものを見る様な目で、しみじみ語るスルガ。そういえば魔法らしい魔法を見るのは久々な気がする。

「準備出来ました、どうぞ。」

チカネに案内されるままに、俺達は魔法陣の中央に入る。三人が入るのを確認してから、チカネも入る。

「ここ誰も居なくなっちゃうっスけど、良いんスか?」

「重要な物は置いてませんし、私が離れると見えなくなる仕様なので大丈夫です。」

「自殺志願者を止めるんじゃなかったのか?」

「人が来る事自体滅多にありませんし、そういう人達は大体忠告を無視して行っちゃいますから…まあ、ね。」

まあ、うん。そうだな。これ以上は言うまい。哀愁が漂い出したチカネに不思議と仲間意識が芽生えた所で、俺達は淡い光に包まれ転移した。

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