(窓頃の秘密)
それから何日か経った、ある日の夜、直江君は店の裏口に来たの。私はホールに居たから、気が付か無かったんだけど、直江君がアルバイトしいてる工事現場のおじさん達の話しを聞き間違えて、ここに来たらしい。
「噂なんだけど、商店街に有る怪しげなレストランに行くと、人間の怨みや復讐を叶えてくれる料理を売ってくれるんだって」
「うん聞いた事有る、都市伝説みたいなやつ」
おじさん達が話してると、休憩に入って来た直江君が話しの続きから聞いてしまったの。
「料金は、やたらに高いが効き目はバツグン間違い無しなんだって」
前半の話しを聞いていなかった直江君が言ったの。
「何でも効くって本当ですか? 」
おじさん達は声を潜めて言った。
「なんでも異界の食材で作る料理は人の願い事を何でも叶えるらしい…… 噂じゃ店の人達、人間じゃ無いなんて話しも」
直江君は街中探し回って家にたどり着いの。
「チーン」
「あの 話しを聞いて来たんですが、何でも効く料理が有るって本当ですか? 」
「あんた見ない顔だね! 家は、いちげんさんお断りなんだよ!
料金も高いから、あんたじゃ無理だよ、さー帰った帰った! 」
お母さんは直江君を門前払いした。
でも直江君は次の日も来たの。
「チーン」
「今晩は! 」
「又あんたかい! 」
お母さんは恐い顔をして言った。
「顔、覚えて貰えたんですね! もう、いちげんさんじゃあ無いでしょ」
お母さんは呆れながらも直江君の話しを聞いた。
「どうしても、ここの料理を母さんに食べさせたくて、お金はどうにかします、メニューを見せて下さい」
「あんた母親に家の料理を食べさせるのかい?
恐ろしい子だね! 二度と来るんじゃ無いよ! とっとと帰んな! 」
お母さんは大きな声で直江君を追い返した。
私は、お母さんの大きな声で直江君が裏口に来ている事に気が付いたの。
私が店を出ると直江君が裏路地を肩を落としてとぼとぼと歩いて居た。
誰かやっつけたい奴居るの? と私が後ろから声を掛けると。
「あれ? アヤちゃん?…… もしかして、ここって
アヤちゃんの家? 」
うん、そうだよ! もしかして裏料理買いに来たの? と聞くと直江君は今にも泣きそうな顔で言ったの。
「うん、家の母さん末期癌で医学的には余命三ヶ月で、でも奇跡が起きた例は沢山有って、
僕は諦めて居ないんだ! 」
そうなんだ大変だね……でも直江君、少し勘違いして居るみたいだけど、家には人を陥れる料理は有っても、人を救う料理はほとんど無いのよ!
あっ言っちゃった!
「都市伝説じゃ無かったんだ! じゃあ店の人達、人間じゃ無いって噂も有るんだけど…… 」
まぁキスした仲だし…… んーでもこの話し少しディープ。明日の夜、そこのファミレスで待ち合わせしない? 力になるよ! 奇跡起こると良いね!
私が帰ろうとすると、
「キスって何の事? 」
直江君は不思議そうな顔で言った。
なんでも無い、
私は少し照れながら店に戻った。
「アヤちゃん久し振り! 元気してた? 」
常連の岡田さんが来ていた。
「でね! めぐみだよ! めぐみ! 彼女がここに来たんだよ! 」
お母さんはジョッキをテーブルに叩き付け、
岡田さんに絡んでた。
「だから、それ俺の枝豆! いーじゃん、めぐみが元気で居る事が解ったんなら」
「良かないよ、めぐみが家に来たって事は、
少なからず何かしら抱え込んでるって事だろ?
まさか私がここに居る事を知って来たんじゃ無いよね! 私ゃ、あの娘が悲しむ姿は、もう二度と見たく無いんだから! 」
お母さんはそのまま岡田さんの席で酔い潰れてしまった。
「アヤちゃん、俺帰るけど、ヨーコはこのまま寝かせてあげて」
岡田さんは、そう言って自分のジャケットをお母さんの肩に掛けて帰って行った。
ダンディー! なんてダンディーなの毛布位有るのに。でも目が覚めた時に毛布が掛かってるのと、好きな人のジャケットが掛かってるのとは大違い。やっぱりこの二人怪しい!
って チャンスよね今とてもチャンス!
私は地下室の階段を降りた。運良くドアが開いていて、お母さんの部屋に忍び込んだ。
本棚から分厚い《レシピ本》を抜き取り、小脇に抱え忍び足で階段を登る。緊張するシーンです。
「おおーまーえー! 何してる!! 」
せっかくのジャケットも台無し。
私は作戦を換え、お母さんの机でレシピ本を開いた。ふと気付くと写真立てが、若くて綺麗な女性が二人、真ん中に……若い頃の岡田さん?
そんな場合じゃ無い! レシピ本の中身を全部
《写メ》して、レシピ本を本棚に戻し、
お母さんの部屋からガレージに移りシャッターを上げて外に出て、店に戻った。
お母さんはまだ寝ていた。
お母さんごめんね 私今、人間に恋して居るなんて言えない。落ち着いたら、ちゃんと相談するから……
私はお母さんの背中に掛かったジャケットの上から毛布を掛けた。
でも……あの写真って?