(招かざる客)
「カラン〜カラン〜」
ただいまー帰ったよ!
(アヤが学校から帰って来るとヨーコとユウが何やら立ち話をしていた)
「お母さん 、この話はもう……」
(ユウはうつ向きながら二階の部屋に戻った)
「アヤ、お前にも言っとかなきゃいけないんだが、今日は時間が無い。
今晩、お客が来るから、ちゃんと おもてなし するんだよ」
(ヨーコはそう言って、地下室に降りて行った)
何? 何 今日何かあるの?
(アヤは、お婆ちゃんに聞いた)
「ヨーコに、余計な事は言うなと言われて居るんだが、今日は悲しい一日に成る事は間違い無いだろう…… アヤ、店の扉に休業の札を掛けときな」
(そう言って。お婆ちゃんは客人ので有ろう料理の仕込みを始めた。アヤは店の扉に札を掛けに外に出ると、ユウのお客でいつもオムライスを注文するお客さんが「ああ……そうなんだ……」と、言って、肩を落として帰って行った)
まだ十五時、こんなに早くから並んで居るんだ! なんか可哀想……
(アヤが呟く)
(日が落ち始め街が薄暗く成った頃、西の空から漆黒の重たそうな雲が近づ、き大粒の雨を落とし始めた)
お婆ちゃん何か雲行きが怪しい。
(アヤがそう言うと、お婆ちゃんが言った)
「演出だよ演出、あいつらたいして力が無いからハッタリかけて来るんだよ!前回はヨーコに殺されかけてるからね」
(夕方に成り、雷が成り始めた。地下室から黒いレースの喪服の様な衣装に着替えたヨーコが戻って来た。魔女の正装だ)
「アヤの服も用意して有るから着替えておいで」
と言って、お母さんは大ジョッキに生ビールを注ぎ出した。お婆ちゃんは仕込みを終え、お姉ちゃんを連れて二階の部屋に行った。私も部屋に行くとベッドの上に服が有り、着替えて、部屋を出ると、
「ユウ支度は出来たかい?そろそろ行くよ」
と廊下でお婆ちゃんがお姉ちゃんに声を掛けていた。
私と、お婆ちゃんがレストランに降りると、
少し遅れて、お姉ちゃんが降りて来た。
綺麗に化粧した、お姉ちゃんは白銀に輝く衣装を纏って居た。
「おお 素敵だよユウ!こっちにおいで」
お母さんは?今にもこぼれ落ちそうな大粒の涙を溜めながら お姉ちゃんを隣の席に座らせた。
「懐かしい服だ、サイズはピッタリだろ、私も昔は痩せて居たからね。綺麗だよユウ。
でも忌々しい服だ……」
(ヨーコはそう言って、ユウを見つめた)
「ガラガラガラ……ドドーン!!! 」
(地響きがする程の大きな雷が落ちたのは、二十一時に成る頃、雨は上がり大きな満月が現れた)
「そろそろだね」
お母さんが、そう言うと。
「カラン〜カラン〜」
店の扉が開いた。
(黒くぼやけた男達が10人程入って来て、
扉の両サイドにうつ向き加減で立つ。後ろから黒ずくめの男が二人入って来た)
「久しぶりだなヨーコ、今日は宜しく頼むぞ」
(年配で大きな体格で、立派な髭を蓄えた男が言った)
「何だいデモンド、今回は大人数だね!コウモリの《影》なんか連れて来て。まあ、お客さんだから丁寧に、もてなすけど酔っぱらったら掟なんか忘れちまうかもね! 」
(コウモリの影とは満月の光で現れる幻影で彼らの盾と成る物。熟練したコウモリならば光の有る場所なら、どこでも影を出現させる事が出来る)
「アスタロス! どっちが産まれてもユウの事、見放すんじゃ無いよ!《アンソニア》に面目が立たない」
(デモンドは年配の男の名で《魔界の王》。
アスタロスは若い男の名で、王の側近だ)
「アヤ! お客さん達に席に着いて貰って、最高のワインを持ってきな! 」
(アヤが男達にワインを注ぎ宴が始まった。影達は、ただ席に着いて居るだけで酒や料理には手を出さなかった。アヤが料理を奨めるも首を横に振り、少し寂しそうな感じがした)
「前菜の深層海の魚貝のテリーヌです」
(お婆ちゃんが料理を差し出す)
「おお!なんて深い味わいだ! 」
(デモンドは満足気に言った。アスタロスは無言で食す。サングラスを掛けて居て視線が解らないがユウを見ている)
「聞く所によると、お前ら、ここで怪しげな料理を販売し始めたそうだな」
「私達ゃ、人間界に居候させて貰ってんだよ
、お世話に成ってんだから、多少は感謝しないとだろ」
「何を言っている! 昔魔女狩りで何人の仲間達が犠牲に成ったと思っている! 終いにゃ自分達の仲間の区別も着かなくなる有り様、大体、今お前が食っている人間の食べ物、匂いがこっちにも来て具合が悪くなる! 」
(影達は下を向き首を横に振った)
「ああ これかい、近所に最近出来た
餃子の館から買ってきた焼き餃子だよ。毎日ヤバイ匂いがプンプンしてて、営業妨害だって殴り込みに行ったんだけど、つい生ビール飲んじゃってね気が付いたら、つまみに餃子食べてたよ!ラー油をいっぱい掛けると案外旨くてね、今じゃチョリソーと餃子が有れば生ビール10杯は行けるね。どうだい、あんたも食べてみるかい? 」
「ふざけるな! 人間の食べ物など食えるか! 」
「まあまあ、喧嘩ばかりしとらんで、窓頃特製スープだよ」
(お婆ちゃんがスープをよそって二人に出すと、
コウモリの影達が一斉に立ち上がりその場に緊張感が走った)
「悪魔殺しのポタージュじゃ無いよな! 」
「アンソニアの件、忘れちゃ居ないだろ。私ゃ執念深いんだよ、食べて見りゃ分かるよ! 」
お母さんが言うと、デモンドは影達に毒見をさせた。
「あんた図体はデカイが気は小さいね、安心しな、普通のポタージュだよ」
(影達はほっとした。)
「獸王のステーキ超ウエルダン、生き血ソース掛け」
お婆ちゃんが差し出す。
「なんて肉々し歯ごたえ、力がみなぎる。これぞ悪魔の料理! 」
(デモンドは豪快に料理を食す、時間が経つにつれ、ヨーコは生ビールを飲みながらグチグチと、デモンドはワインを飲みながら楽しそうに)
何?この空間誰か教えて!
(アヤが思った時)
「そろそろだな! 」
(デモンドが、壁の振り子時計を見ながら言った。調理場から、お婆ちゃんが出て来て、ユウを連れて地下室に降りて行った)
「絶対に女の子だよ」(ヨーコが言う)
「いいや今度こそ男の子だ」(デモンドが言う)
(地下室では六芒星が書かれた床にユウが横たわり、お婆ちゃんがユウのおなかに手をかざす、と、お婆ちゃんの背中の六芒星が赤く発光する。
それと共鳴するかの様にユウの首筋の六芒星が緑色に、やがて、お婆ちゃんの手に、吸い出されるかの様に、赤ちゃんが産まれた)
「ゴーン ゴーン」
(二十四時の時刻とほぼ同時に赤ちゃんが産声を上げた )
「産まれたね! 」
(ヨーコがそう言うと。男達が全員立ち上がった。地下室から黒いローブで、くるんだ赤ちゃんを抱いたユウと、お婆ちゃんが出て来た)
「男の子だよ…… 」
(お婆ちゃんが言うと)
「良くやった。ユウ!!! 」
(デモンドは赤ちゃんを奪い取るか様に、ユウから取り上げた。ユウは、その場で泣き崩れた)
「今回の、誕生の義は、めでたく男の子で有った。
次回はアヤに期待する。いい男を探して置くからな!それでは宴は終了だ」
(デモンドは、そう言って、赤ちゃんを抱きながら店の外に出ようとすると)
「私の、赤ちゃん返して!! 」
(ユウがデモンドに飛び掛かる! 急かさずアスタロスが間に入った。ユウはアスタロスの喉元に噛みついた。首から血が滲み出るもアスタロスは微動だにしない。デモンドは、その様子を後ろ目で見ながら店を後にした。アスタロスは首を手で押さえながら店を出た。影達は申し訳無さそうな顔をして消えて行った。お婆ちゃんとアヤはユウを部屋に運びダージリンティーを飲ませ、ユウを落ち着かせた後、部屋を出た)
あの人達何者なの?
(アヤが聞くと、お婆ちゃんが口を開く)
「年配の男が魔界の王で、若い男が王の側近だよ。魔界と魔女界には掟が有ってな、この二つの世界でしか契りを結べない。やがて誕生する子供が男ならば魔界に、女ならば魔女界に、悪魔と魔女は子孫反映だけで結ばれ、人間の様に共に暮らす事は無いのじゃ。今日は誕生の義。この忌々しい仕来たりを、どうにか出来れば…… 」