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歪み  作者: じゃじゃ馬ぴえろすたー
9/16

第7話 【梅雨】

紙袋を捨ててから1週間ほど経つ。これと言って特に変わったこともない。

何も無いとは言っても、僕はどこかで監視されてる気がして気持ち悪くて基本的に家から出たくなかった。彼女はそんな僕に世話を焼いてくれており、買い物などは彼女が行ってくれてる。

「外が気持ち悪くても、授業はちゃんと出ないとダメだよ。留年しちゃうからね。頑張って行こう」それだけ彼女に強く言われたので、大学にはちゃんと行っている。


6月。1年のうちでかなり嫌な季節。梅雨の季節がやってきた。ここ最近はじめじめとした生暖かい気温と、雨が続いている。

気分というのは簡単に左右されるもので、梅雨の季節は鬱屈とした気分になってしまう。犯罪が一番多いのは梅雨の時期だとか、そんなことを昔どこかで聞いたことがある。


「私、じゃあ行ってくるね」

「おうっ、楽しんできて」

彼女は久しぶりに友達のうちへと出かけた。前々から約束していて楽しみにしてたようだ。僕とばかりいるせいで、彼女は友達が少なくなってしまっていた。「大水くんといる方が楽しいから気にしないで?」と言ってくれるが申し訳ない気持ちになってしまう。

だから友達と遊びに行ってくれると僕は安心する。

楽しんできてくれ。

エリコと別れて僕は変わった。

彼女に対しての執着…、というか深く考えるのをやめたのだ。僕にとってそれはいい事ではないのだ。

別れる気はないけど「そのうち別れるかもね」くらいの気持ちで付き合うと、少し楽になる。


彼女とも別れる時がくるのだろうか。


19時。外は暗く、今まで以上に雨が強く降っていた。風の音もする。こんな雨の中出かけて大丈夫だろうか。

まあ、何も心配ないか。いつも何事もなく僕の心配は無駄になる。無駄になってくれた方がもちろん良いのだが。



ベッドに寝そべり携帯を触る。SNSで自分のことを投稿するのはもうやめた。ネットサーフィンをして時間を潰す。


ストーカー 怖い


検索すると、色々な体験談が出てきた。流し読みをしてみる。自分も当事者の可能性があるのに、話を読むのは楽しく夢中になって読んでいた。

僕は何をしているんだろうか。

ここ最近エリコのことをよく考えている。決して懐かしんだりする訳では無い。本当にエリコが僕の家に紙袋を置いていったのか。エリコは今でも僕のことを想っているのか………。

気持ち悪い……。いつもの嫌悪感が僕を満たした。

理由はなんにせよエリコのことを考えている自分に対しても腹が立っていた。もう考えたくない。忘れたい。あんな過去、無かったことにして欲しい。


ぼーっと天井を眺めていると着信音がなった。

公衆電話からだ…。

いまどき公衆電話から電話とか無視したかったが、もしも彼女の携帯が水没したとかで電話できないとか、緊急の用事だったら困るので仕方なく電話に出た。

「もしもし。」

返答はない。電話ボックスに叩きつけられているであろう雨の音だけが電話越しから聞こえる。

「もしもし?誰ですか?」

「………」

何も返ってこない。何なんだ。と、気味が悪くなり電話を切った。ドクドクと心臓の音が大きくなるのがわかった。頭を抱える。


エリコか…?


また電話が鳴った。公衆電話からだ。

「はい…」

何も声らしきものは聞こえない。やはり雨の音ばかりが響くだけであった。

「いい加減にしろよ…、お前誰なんだよ!!」恐怖と余裕のなさから僕は声を荒らげてしまった。

「………フフ」

小さく笑い声が聞こえた。女だ。女の声だ。何なんだこいつは。人を馬鹿にしやがって…。

「お前、エリコか?」

少し間が開き、急に電話が切れた。

電話から何も音はしなくなった。


僕は彼女に電話をかけた。もしかしたらいたずらかもしれない……。出ろ、出てくれ…。コールする音が鳴り続ける。

出ない…、こんな時に限って…。

もう1度かけ直す。すると次はすぐに出た。

「はいはいっ、なぁに?」

「いまどこ…?」

「いま友達の家いるけど、どしたの?」

たしかに電話からは人の声がする。

「あぁ、そうか、ごめん。何でもない」

「う、うん?大丈夫だけど。何かあったら言ってね」

「うん。」


電話が切れる。彼女に戻ってきて欲しい気持ちでいっぱいだったのだが、さすがにそれは言えなかった。

やはりエリコなのか…。僕の電話番号を知ってるのって、家族と彼女と、エリコ……。

うっ…。吐き気がこみ上げてきた。もうやめてくれ。


ガン。


ワンルームの部屋にその音が響いた。

ドアだ。玄関から鳴っている。

ガン。ガン。ガン。ガン。ガン。ガン。と一定のリズムでドアが叩かれる。雨の音とドアが叩かれる音。呼吸が荒くなり、恐怖に震える。

突然ピタッと音が止んだ。静寂に包まれる。

僕はゆっくりと玄関へ向かった。歩くというのはこんなに音がなるものだっただろうか…。

唾を飲む。除き穴から外を見た。

…誰も…いない……?

心臓は鳴り止まない。震えもおさまらない。

ふと足元を見ると一枚の紙があった。

抜き取り、手紙に目を通す。



恥ずかしくてなかなか直接会えないね。


電話も頑張ったんだけど、私、やっぱり苦手。


ねえ、あなたから会いに来てくれない?


そうしてくれると私、嬉しいんだけどな。


エリコ



ふざけるな……。怒りが身体中を駆け巡る。ムカつく。散々バカにしやがって…。

自分から会いに来いだと…?


こいつがいる限り僕は最早全く安心することは出来ない。僕の生活を邪魔しやがって…、許せない、お前がいなければこんなに嫌悪感、気持ち悪さにまみれた生活をしなくて済んだんだ…。


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