第3話 【平謝り】
エリコらしき人物が、彼女のやっているSNSを見ているかもしれないという疑惑が生じてからというもの、頭からそれが離れなくなった。
ふとした時に思い出してしまう忌々しい過去。
そして僕がSNSで投稿した日常的な話やら画像やらを見られてるのでないかという恐怖というよりはなんとも言えない気持ち悪さ。
「大水くん、どうしたの。なんか元気ないよ。」
「ごめん。何でもない」
僕はこの日彼女とデートに来ていた。休日のファストフード店は人々で賑わっておりガヤガヤとした声が店内に広がっている。ジャンクフードの匂い。
彼女がポテトを咥えながら、そう…?と首を少しかしげて言う。疑わしいふうな目でジーッとこちらを見つめる彼女。
「なんだよ、元気だよ。あ、次どこ行こっか?どっか行きたいとこ…」
「あっ」彼女が急に店内のカウンター付近に目をやった。
「あれ、エリコちゃんじゃない?」
「え。」笑って言って見せたが、鼓動が一気に早くなった。さぞかし今の僕の顔は歪んだ笑みになってることだろう。後ろを見ることも出来ずなんとなく少し姿勢をかがめてみる。
「もうどっか行った?」
「うん。行ったよ」そう言うと彼女はジュースを手に取った。
「1人だったの?」
「ひとり。だったっぽいかな…?」ニンマリとした笑みを見せる彼女。なんか怪しい。まさか。
「え、嘘?」
「うん、嘘だよ。ちょ〜嘘。大水くんビビり過ぎ」
趣味の悪い嘘だ…。彼女はケタケタと笑い出してから「まだ気になってたの〜?」と言った。
「まあね…。なんか気分悪くて…。」
「なんでそんな気にするの?未練でもあるんじゃないの〜?」
「違うよ、そんなんじゃない」
「じゃあどうして?」
「何か他にも色々見られてるような、そんな気がして。」
「大水くん自意識過剰だな?」
「まあ、それはあるかも…」
自意識過剰か。確かにそうだと思う。ちょっとしたことで気にしすぎなんだ。エリコが今も自分のことを気にしてわざわざ全く関わったこともない彼女のSNSを見に来るはずがないじゃないか。
疑惑のままだから気になってしまう自分がいるのか。
「連絡とかしてみたら?」
そんなこと出来るわけない。第一連絡先も消したし、エリコと繋がる手段は自ら断ち切ったのだ。エリコの自宅も知りやしない。学校に行くという手段もあるかもしれないが…。というかそれ以前にそもそももう関わりたくないのだ。
「無理だよ。会いたくないし話したくない…」
「そっかぁ…」
「アカウント作り変えるとかは?」
「前に俺が今まで作ったアカウント全部調べて見ていってたこととかあったから…」
「そりゃハードだね…、もうSNSやめるか携帯変えなよ」
「なんで俺がそこまでしないと…」
そう言った時だった。彼女は笑ってるのだが、その中に怒りがあることを確かに感じた。
「私が嫌なの。」
僕はそれを言われて、初めて彼女に対して失礼なことをしていたのだと自覚した。別に特別何かあったわけでもないのに元カノのことでこんなにも悩むなんて、未練があるのかと思われても仕方ない。
「ごめん…、俺悪気はなくて…。その…。ごめん」
「ううん。こっちこそいきなりごめん。ただ、やっぱ元カノのことで大水くんそんな感じなっちゃうし…やだなぁって…。こんな悩むなら言わなきゃよかったあんなこと。」椅子の背もたれに体重をかけ、困り顔をして言った。
今の彼女は、この子なんだ。僕はこの子のことだけを考えれば、それでいいんだ。
「今日はもう帰ろ?うちでゲームでもしようよ。2人きりでさ」
「うん。そうしよう。」
僕らが店を出る頃、外は夕日がゆっくりと西へ沈んでいく途中だった。