第2話 【エリコ】
エリコとは高校3年生の頃、僕が入部していた部活で出会った。当時エリコは高校1年生。これといって特徴の無い女で、部活でもたまに話したり、時々一緒に帰る程度の仲だった。その頃僕は高校1年の頃から好きだった1つ年上の宮崎先輩に想いを寄せていた。
初恋。いや、初恋は中学の時か。それにしても当時の僕は宮崎さんにすっかり心酔していて、お嬢さんぽい端正な顔立ち、まるで親戚のお姉さんを想起させるような雰囲気。そして部員をまとめる部長としての能力。今思うと恋というよりは、憧れだったのかもしれない。
僕は彼女に魅了されていた。僕が宮崎さんに好意を寄せていたのを知ってか知らないか、宮崎さんは遊びに行く時僕をたまに誘ってくれてた。その度僕は嬉しかった。僕を恋愛対象ではなく1人の「後輩」として見てるということも薄々分かっていたが、それでも僕はよかった。宮崎さんが好きだった。
高校3年の夏。バカなことをしてしまった。花火大会に宮崎さんを誘おうと思って僕は宮崎さんに連絡をした。花火も祭りもなんて別に興味はない。空中で爆発が起こって、暑い中素人の作ったアホみたいに高い値段で焼きそばやら綿菓子やらを販売して、大量の人間がゴミを大量に排出するだけ場所。
まあ、雰囲気は好きだけど。
大好きな宮崎さんと夏祭りで思い出を作りたかった。青春らしい青春をしたかった。しかしその頃浪人で国公立大学を狙っていた宮崎さんの都合に合わず、断られてしまったのだ。僕の人生の分岐点はここだったのかもしれない。もう少し冷静になればこの先後悔することはなかったのだろうか。
同時期にエリコとメールのやり取りをしていたのだが、宮崎さんに断わられたのでエリコを誘ってみることにした。
エリコは簡単にそれを了承し、僕とエリコは2人花火大会に行く事になった。
他愛もない会話をしながら屋台をブラブラした。エリコは楽しそうで、僕も意外と祭りもいいもんかもな。と感じていた。そして空に打ち上げられた花火を見終わって、僕とエリコは帰路についた。
電車の中で何気なく話していた時、話は恋の話題になった。
「好きな人でもいるの?」僕は軽い気持ちで訊いてみた。「えぇ〜」エリコは照れた風に少し顔をそらす。「もしかして僕だったりして〜」そんな冗談を笑って言ってみると、エリコは「普通に好きですよ先輩」と言った。「わあ、ホントに?ありがとう」
脳裏に宮崎さんが浮かぶ。宮崎さん。一緒に行きたかったなぁ…。
少し沈黙の後、またエリコが口を開いた。
「さっきの好きって、先輩勘違いしてますよね」「え?」
「先輩として好きなんじゃなくて」僕は黙って聞いた。エリコも何故か黙った。
あー。そっか。察した。
そして浮かび上がる宮崎さん。
「も、もうわかるでしょ!」
「あぁ…、それは、その、僕のことを、恋愛感情の好きってこと…?」
「はい…」
そうか。この子は僕が好きなんだ。僕は悩んだ。一瞬の間にいろんなことを考えた。この子と付き合うと、僕はもう、宮崎さんに恋心を寄せることが出来なくなるのだろうか。でも宮崎さん全然脈なさそうだし、僕が宮崎さんと両思いになれる確率は全然低い。なら、いまこの子と付き合ってもいいんじゃないだろうか。この子は僕を好きと言ってくれている。宮崎さんは僕を恋愛対象として「好き」だとは言ってくれない。だったら断る理由は…。
「両想いだね。」
僕はひとこと、そう言った。
夏祭りの帰り道。突然の後輩からの告白。
歩き疲れて少しの心地よい疲労感。
エリコは嬉しそうに笑っていた。