第10話【再会】
僕の歩く前方には今、元カノのエリコがいる。
学校から後をつけてきた。
駅を出てすぐの所で僕はふと携帯を手に取ってしまった。最後に彼女の写真を見たい。すると丁度その時彼女から電話がかかってきた。
「サオリ…」
「もしもし!?大水くん!今どこにいるの!?」
彼女は凄く焦っている口調だった。彼女の声を聞くと何だか涙が出てきた。彼女に、サオリに、会いたい…。
「サオリ…、俺いま………」
僕は彼女に今いる駅を伝えた。すぐに来るそうだ。
高校からここまでは電車で10分ほどで着くが、彼女は今どこにいるのだろうか。
エリコが遠くの角で曲がろうとしている。金槌をズボンの間に忍ばせ、僕は後を追った。
サオリ、早く来てくれ、僕がエリコに手を下す前に、僕を見つけてくれ…。止めてくれ…。
少し歩くと公園などが立ち並ぶ住宅街に入った。雨が降っているためか、人はまずいなかった。さっきより雨が激しくなっている。もうすぐ家に着くのか…?ここで逃したらダメだ…、またあの生活に逆戻りだ…!僕はあいつのいない生活に、不安な生活から脱するんだ…!僕はついに声を出した。
「エリコ!」
僕はエリコに近づき肩を1回叩いた。ビクッとなりすぐにこちらに振り向く。エリコ…。忌々しい過去が頭の中でぐちゃぐちゃに掻き乱される。エリコはイヤホンを取った。
「あれ、オミくん。」
オミくん…。エリコが付き合ってる時につけたあだ名だ。今になってもそんな呼び方するのか…。
「エリコ、お前…、俺のうちに何か置いてったか…」
「なに。エリコ知らないよ。」
「とぼけるな…、お前、俺の携帯に無言電話したり、彼女の部屋に勝手に来て変な手紙置いてったり…」
「何言ってるの?オミくん。」
嘘だ…。
「エリコ彼氏できたんだ。だからオミくんの事別に何も想ってないよ?」
「嘘だ…」
「ホントだよ、あ、見る?」
嘘だ…。
僕はこいつのせいで……、
僕は金槌を抜き、エリコの側頭部を思い切り殴った。金属の鈍い音がした。短い絶叫とともに倒れ込むエリコ。
「オミ………く……ん?」
もう一撃。金槌を振り下ろす。
お前のせいで僕が、どれだけ毎日が嫌な日々だったか。お前のせいで、俺が誰かに見られているような不安で、気持ち悪くて、そんな日々を送ってきたか。お前は、お前は何も知らないというのか?ふざけるな。新しい彼氏だと?大して可愛くもないくせに。調子に乗るな!死ね!死ね!!死ね!!!
「大水くん!!」
背後から大きな声がした。振り返る。サオリだ。傘もささずに、僕を探しに来てくれたのか?「大水くん!」
彼女は僕の胸に飛び込んだ。わんわんと泣きわめいている。僕は力なくそっと手を添えた。
「心配っ…、心配したんだから…!!」
「サオリ…俺、人殺したかも……」
「誰を…?」
「誰って………」見ればわかるじゃないか…、僕は、エリコを金槌で何度も何度も殴ったんだ…。ゆっくりと振り返る。その時、僕の脳は今何が起こっているか正常に判断することができなかった。僕の前には先ほど金槌で何度も殴って虫の息だったはずのエリコがきょとんとした顔で立っている。手に持っている携帯には僕の知らない男が写っていた。
何…?え…、エリコ……?なんだよこれ。夢…?幻覚?妄想?
金槌がズボンの間にあるのが感覚でわかる。僕はエリコを殴ることはおろか、金槌を抜くことすらできなかったのだ。
「えと。彼女さん…?」
エリコはサオリを見て言った。
すぐにサオリが応える。
「そうだよ、大水くんは私の彼氏。」
「あ、そうなんですか…。オミくん良かったね、可愛い彼女さん。」
僕は何も応えず、目をそらした。そしてサオリが言った。
「もう大水くんに近づかないで…絶対に…」
そう言い放つとサオリは僕の手を引いた。
僕は何がなんなのかもうわからなくなって、彼女に連れられるがまま引っ張られる。
駅の駐輪場付近についた。すると突然彼女は手を離し僕に深いキスをした。うっとりと、深く、落ちる。なんかもう全部、どうにでもなってくれ…。目の前がぼーっとする。周りの人の目なんて、全く気にならない…。夢の中にいるような感覚。
「もう、勝手に消えたりしないで…」
彼女の頬には涙が伝っている。
「サオリ…」ごめんと謝ろうとした時、2度目のキスにより口が塞がれた。そして彼女は少し背伸びをして僕を包み込み、僕も彼女を抱いた。「ありがとう…」僕がそう言うと、彼女の腕の力はさらに強まった。
「うち帰ろ…?」
僕達は手を強く握りあって、彼女の家へと帰った。
もうサオリの元から、離れないでいよう。僕はそう思った。




