第1話 【疑惑】
僕の実話に基づいて作った話。
「ねえ。大水くん。これ、元カノじゃない?」
彼女がふいに携帯を見せてきた。
「え、なになに」
画面には縦列に並んだユーザーのアイコンとIDが写し出されている。その中に、アイコンは未設定だがIDに過去の忌わしい記憶を想起させる英数字が書かれているものがあった。
「……あぁ、ホントだ…。元カノかも……」
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「エリコ……」
「やっぱこれエリコちゃん?ちょくちょく名前変えたりして見に来てるよ」
彼女は笑ってそう言ったが僕の感情はシンプルに「嫌悪感」で埋め尽くされていった。
気持ち悪い。実に気持ち悪い。僕の中で別れたらそこで終わり。二度と関係など持ちたくないし、自分の事情を知られるのも嫌で仕方ないなのだ。心の狭い男。なんとでも言ってくれ。とにかく僕にとっては気分が悪くなるほど嫌な事であった。
「気持ち悪い、ブロックして見れなくしときなよ。」僕は引きつった笑いだけを見せて煙草を手に取りベランダへと出た。彼女はキョトンとしてそれを見送った。
煙草に火をつけ煙を肺に流し込む。今日はとてもいい天気だ。雲一つない青い空。5月の暖かい気温。マンションの4階から見える景色も別に絶景と言えるものでもないが、僕は好きだ。本当に気持ちのいい休日……。
僕はエリコの事を少し思い出してみたが、すぐにまた気分が悪くなったのでやめた。
煙をため息混じりに吐く。あぁ、嫌だな…
カラカラとベランダのドアが開く音がした。
「大水くんっ、エリコちゃんのこと思い出してた?」彼女がひょこっと横に出てくる。
「ああ。おかげさまで。」僕は苦笑いで応える。ニヤニヤした顔で、ジーッと僕を見つめる彼女。
「な、なんだよ。」
「何かあったら絶対私が守ってあげるからね」
僕はその急な発言に少し呆気に取られてしまった。彼女は僕から煙草を取って煙を吸い込む。「うんま〜い、ね」彼女の吐き出した白い煙は空へと消えていった。それを見てると僕の心にあった気持ち悪さも少しは消えたような、そんな気がした。