荒い字で書かれた日記
クソ。最後の方法もダメだった。もうどうしようもない。終わりだ。畜生。
もうあと数日でこの世に誰もいなくなるっていうのになんでこんなもん書いてんのか自分でもわからねぇ。
ともかく言えるのは俺たちにはもう時間は残されていないってことだ。だがこのことを知っているのは俺たちだけだ。なんで。なんで俺がこんな目に...クソ。
このことを民間人は何も知らない。上からのお達しによればパニックになる可能性があるとかなんとからしい。最後まで文明を残して散るべきだとよ。
僅かに漏れた情報も、都市伝説で片付けるらしい。そりゃそうだ、あと数日でこの世にさよならなんて誰が信じる?
俺たち研究者はこの地下研究所に閉じ込められた。家族や友人がおらず、研究大好きな奴らがな。
その方が地上が滅びた時に後腐れがなくていいんだろうよ。ま、当然と言えるだろうな。
だがそのメンバーももう大分減っちまった。最後の頼みの綱が切れたんだ。今の技術力を持ってしてもあの彗星は止められない。終わったんだ。なにもかも。みんな自殺しちまった。
地上にいる奴らは人体に即死級のダメージを与える強力な電磁パルスに長時間さらされて気づく間も無く死ぬだろう。その最後の瞬間まで、そうとは知らず日常を過ごしながら。
いいのか悪いのか、パルスがこの地下にまで影響を及ぼすには数時間ほどあるらしい。
優雅にティータイムでも過ごしながら鉛を脳天にぶちこむとするさ。
もし誰か生き残って、これを読んでいるなら、どうか俺を供養してくれないか。できれば、仲間たちも。
俺はきっとこの階のフリールームで骨になってるだろうから。
おっとそうだ。報酬ってわけじゃないがあんたのために物資を置いておくとするよ。なにが必要になるか知らんが、うまく役立ててくれ。クソッタレの神に殺されるんじゃないぞ。
————————————————————
日記の置いてあったデスクの下の箱には雑多な日用品と密閉された無限保存の合成食料、セルに入った水1000L分の圧縮水素原子と圧縮酸素がはいっていた。
その箱が開かれることは終ぞなく、フリールームには手に拳銃を握った変色した骨がいつまでもソファーに横たわっていた。