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悪役令嬢と○○と、めでたし、めでたし、ですがなにか? 〜勇者のパーティが魔王討伐を果たしたハッピーエンドの余韻をどうぞ〜

作者: 桜草 野和

「僕、このパーティから抜けたいっす」


「それは困る。オーウェンの回復魔法のおかげで、皆安心して戦えるのだ」


「でも、実家で大変なことがあって、僕、帰らないといけないっす」


「大変なことってどんなことだ?」


「大変なことは大変なことっす。うちの実家にとっては、魔王討伐と同じくらい、大変なことっす」


「そこまで言うのなら仕方ないな」


 僕はだいたい、こんな感じで、リーダーに頼んでパーティを辞めさせてもらった。



「お待たせしたっす。これからは、こちらのパーティで頑張らせてもらうっす」


「おう、しっかり頼むぞ! 君の回復魔法は魔王討伐において、かなり役立つぞ。頼もしい魔法使いが仲間に加わってくれた」


とより強いパーティに、次々と移籍した。


 で、最終的には、勇者のパーティに入ることに成功し、見事魔王を討伐した。


 もう、半年も前のことだ。


 僕は褒美として、領地を与えられ、伯爵となった。


 急にモテモテになって、結婚するまで、何人もの女たちに迫られて大変だった。


 まあ、おかげでそういった行為のスキルは、短期間で劇的にレベルアップした。


 僕が選んだ相手は、悪役令嬢のミダーシャだった。僕と結婚するために、努力を惜しまず卑劣な手段を多用したところに惚れた。


 雨の中、僕を狙うライバルの娘を何時間も待ち、橋の上から突き落としたり、昏睡状態にする毒薬を自分の身体で試したり、高熱が出たらヨロヨロのくせして、ここぞとばかりに周りの娘たちにうつしまくった。


 僕は橋の上から落とされた娘や、風邪をうつされた娘たち、それから自分でつくった毒薬で本当に死にかけたミダーシャを回復魔法でこっそり助けていた。


 だって、どんなに体調が悪い日でも、悪天候でも、ミダーシャは僕に会いにきてくれた。


 好きにならないほうが難しい。今、ミダーシャが何をしているのか、気になってしかたなかったんだ。



「これからも、僕と幸せに暮らすためなら、どんな卑怯な手段でもためらわずにやってくれるっすか?」


「はい。もちろんですわ。愛しのオーウェン様」


「いつまでもわがままで、情に流されない、意志の強いミダーシャでいてくれっす」


「そんなこと簡単ですわ。私がブレることはありません」


「ミダーシャ、僕と結婚してくれっす」


「よっしゃーー! 魔王討伐した英雄の伯爵様ゲットーー! オホンッ。私としましたことが、オーウェン様の前でガッツポーズして、飛び跳ねるなど、はしたない真似を……。大変、失礼致しました。すみませんが、もう一度プロポーズをしていただけますか?」


「愛しているっす、ミダーシャ。どんな卑怯な手段を使ってでもミダーシャと結婚したいっす。僕と結婚してくれっす!」


「新しいお城、建ててくれますか?」


「建てるっす。何なら、今日から建てさせるっす」


「お姑さんと同居は嫌ですけど、それでもよろしいですか?」


「ノープロブレムっす。むしろ、大賛成っす」


「毎晩欠かさず私を愛し続けてくれますか?」


「当たり前っす。我慢するほうが無理っす」


「はい」


「何の、はい、っすか?」


「プロポーズの返事に決まっているではありませんか、オーウェン様」


「プロポーズのあとにいろいろ条件がついたから、返事だとわからなかったっす。もう一度、プロポーズさせてほしいっす」


「何度でもどうぞ。私の返事はいつでもイエスです」


「あっ、先に返事しないでほしいっす」


「ウフフフッ。オーウェン様、かわいい」


 ミダーシャはこんな感じで、プロポーズを受けてくれた。



 言いたいことを言わず、綺麗事ばかりのいかにも私はヒロインよ的な娘のケイトはタイプではなかった。

 何回か遊んであげたけど、夜のほうもお利口さんすぎて、僕には物足りなかった。


 その点、結婚したミダーシャは、激しさ満点だった。

 だから、結婚してすぐにミダーシャは、妊娠した。


 早く子供が生まれてほしいな。


 そしてまた、ミダーシャと激しい夜を……。


 ミダーシャも、


「この子が生まれたら、またたっぷり愛してくださいね。それまで、異国からも専門書物を取り寄せて、オーウェン様の悦ばせ方を学んでおきますわ」


とその気にまんまんだ。


 ミダーシャと結婚してよかった。我が家は間違いなく、大家族になるな。


 しばらくは、ケイトや他の女たちで、我慢することにしよう。


 ミダーシャにバレても、怒られることはない。


 むしろ、専門書物を見せられ、


「オーウェン様、今度はこの技で、ケイトがどんな反応をするのか確かめてほしいですわ」


と頼まれるくらいだ。


 もう一回、言っておこう。僕はミダーシャと結婚して本当によかった。


 実際にミダーシャから教わったスキルをケイトに試してみると、反応は上々だった。ケイトも、ようやくその行為の素晴らしさに開花してきていた。

 それが関係あるのかは不明だが、ケイトは他人のグチも言えるようになって、随分と人間味が出てきた。よりモテるレディーになるだろう。



 僕とミダーシャの結婚式には、元パ、ああ、元パーティの仲間たちも、ほとんど参列してくれた。


「実家は大丈夫だったか?」


「実家が大変だったのに、魔王討伐するとは、よく頑張ったな」


「実家にも今度、招待してくれよ。なんだかオーウェンの実家のことが気になるんだ」


 元パのみんなは、結婚を祝福しに来たというより、僕の実家がどうなったのか気になって聞きに来た様子だった。


 もちろん、勇者は招待しなかった。ミダーシャを寝取られたら、たまったものではない。


 勇者は悪意はなくても、ほしいものが何でも自然と手に入るから勇者なのだ。

 嫁には絶対に近づけないほうがいい。


 実際に、元パの僕は、勇者の子供を自分の子供と信じて育てている父親たちを、世界各国で知っている。


 勇者の子孫は、驚くほど多い。


 田舎村で、やたらケンカの強い子供がいたら、その子は勇者の子供だと思っていい。


 生まれてくる子供が男の子だったら勇者と仲良くさせたい(勇者と元パの父親を尊敬するだろう)が、女の子だったら絶対に近づけないようにする。



「ただいまっす」


「おかえり。自慢の息子よ」


「おかえりなさい。ちょっと太ったんじゃない? 幸せ太りね。いいお嫁さんをもらったわね」


 新築の実家に帰省すると、父さんと母さんが出迎えてくれた。


 ミダーシャは料理をつくらない。決して料理ができないわけではない。僕のために、料理教室に通ったそうだが、どうしても毒を仕上げに入れたくなるので、料理をしないことに決めているのだ。


 でも、母さんが言っていることは正しい。アレのために体力をつけるべく、ミダーシャに栄養価の高い食べ物をたくさん食べさせられるようになったから幸せ太りには違いない。


「美味しい」


「喜んでもらえてよかったわ」


 母さんも料理はしない。メイドのミルフィーが作ったスライム冷麺を褒められて、喜んでいる。


「たくさん食べて、父さんのように大きくなるんだぞ」


 あいかわらず父さんの食事量は半端ない。


「あのトロフィーは何?」


 俺は床に積まれているトロフィーを指差す。


「あれが腕相撲大会で、そっちが大食い大会だろ。あとカラオケ大会とか、父さんいろいろ優勝してな」


 目立つ行動は控えろと言っているのに……。


「あなた、明日のオーディションも頑張ってね」


「何っすか、明日のオーディションって?」


「虹色劇団でな、悪役を募集していて、そのオーディションが明日あるのだ」


「お給料もいいのよ。いつまでも、オーウェンの仕送りに頼るわけにもいきませんからね。お父様なら、きっと合格間違いなしよ」


「任せておけ! 受かる気しかしないわい! グワッハハハッ!」


 そりゃ合格するだろうよ。魔王が、悪役のオーディションを受けたら、演技力関係なく、その迫力満点の容姿だけで合格するに決まっている。


 うちの実家。つまり、魔王城には毎日のように、父さんを倒しにくる戦士たちが押し寄せて大変だった。


 ある夜、家族会議が開かれ、


「オーウェンよ、勇者のパーティに加わって、ワシを倒しに来るのだ。ワシはバレないように、本当に死んでしまうギリギリのところで倒れる。そして、勇者に倒されて、死んだふりをしているワシを、こそっと魔法で回復させるのだ」


「そうすれば、お父様と私は、この魔王城を捨てて、新しい土地で新しい人生に始められますわ。穏やかな生活を」


となった。


 好き勝手に暴れたから、自業自得だろうと思ったが、両親を見捨てるわけにはいかない。


 ご存知の通り、俺はパーティを次々と移籍して、念願の勇者のパーティに加わった。


 計画は見事成功した。


 誰もが、勇者に魔王は殺されたと思っている。


 今、思い出すと、あのときの父さんの迫真の演技はなかなかのものだった。

 舞台役者に向いているのかもしれない。なぜか、美声だしな。


「おかわり」


 メイドのミルフィーが、スライム冷麺を運んで来る。

 スライム冷麺と言っても、本物のスライムは今はもう使えない。

 勇者が魔王を倒してから(実際はご存知の通り魔王は元気だが)、理由なくモンスターを狩ることが、禁じられていた。


 スライム冷麺は名残で、そのまま名前を変えずに呼ばれているが、スライムのかわりに最近栄養価の高い食材として注目されている自然薯という多年草が使われている。


「お待たせしま……あっ」


 ミルフィーは、床に積まれていたトロフィーにスカートの裾が引っかかって、豪快に転ぶ。


 今日はピンクか。しかも、紐パンではないか。

 泊まっていくことにしよう。今日は確か安全な日のはずだ。ミダーシャから、宿題として出されていた新しい夜のスキルを取得する絶好の機会だ。


 ミルフィーは、僕が面接と実技で採用を決めたメイドだ。一番の決め手は、ミルフィーが普通のメイドではなく、男の願望を満たすメイドに憧れていたことだ。

 僕はミルフィーの夢を叶えたのだ。


 スライム冷麺は、父さんの頭にかかり、金髪ロングみたいになっていた。


「アハハハッ、あなた、ハンサムになったわね」


「そうか? これから毎日、こうしようかな。グワッハハハッ」


 実家が平和になってくれて本当に良かった。


 めでたし、めでたし、ですがなにか?

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