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序章 幼馴染が英雄になった日

 私達は、どこの町にもいるような騒がしい子供の集りだった。


 まるで自分の庭のようにそこら中を走り回り、塀や木に登り、水路で遊び、小遣いを出して皆で揃えた木刀で剣士ごっこをして楽しんでいるような、やんちゃな子供だ。


 そんな私達の集まりの中に、ふらり入り込んだのは、少しだけ年上の貴族の男の子だった。


 はじめて彼の顔を見た時は、女の子なのかなと思うほど綺麗で驚いた。仕草も丁寧で言葉使いもキレイで、私達とは何もかも違っているのに、彼は迷わず私達のもとへやって来ると「僕も仲間に入れてよ」と羨ましそうにはにかんだのだ。

 

 いつも後ろをついて回るようになった彼の、華奢で幼い姿を目にする事にも次第に慣れていって、いつの間にか一緒に遊ぶのが当たり前になった。



 ある事件を境に、彼は私の後ろをついて歩く男の子じゃなくなった。

 いつも私の手を取って、どこか気に掛けて歩くようになった。



 私よりも幼かったはずの彼の背丈が、女である私の身長を抜いてしまうのは、あっという間だった。彼は恵まれた忙しさにあったのに、それでも私の手をしっかりと握りしめたまま離れなかった。



 私は、当時から知っていたのだ。


 誰からも望まれる彼が、ちっぽけで美しくもなく、価値さえ見出せない私の手を、どうしても離せない理由を。



 多分、もっと早く、私が「もう、いいよ」「離して」「終わりにしよう」と口に出せていれば良かったのだと思う。幼かった私は、家族との死別という不運も重なって、今しばらくと彼の暖かい手に甘えてしまったところもある。


 さよならと告げなくとも、離れるきっかけを一つ置くだけで、住む世界の違う私達の関係は、きっと遠いどこかへと忘れ去られてしまうだろう。

 

 タイミングや、勇気がなくて口に出来なかった「さよなら」の言葉だったが、私達は一つの別れ道で、お互いの手が離せる時をようやく迎えた。



 周囲から「英雄の再来だ」と呼ばれ、凛々しく美しい青年となった彼は、見事に王と人民の期待に応えて半魔の王を打倒し、正式な英雄として確固たる肩書きと、後世に残る名誉を得た。



 私は、心から彼の成功を祝福した。


 負わなくてもいい憂いなんか忘れて、ようやく彼は心から幸福になれるのだと安堵した。


 英雄の誕生は、私に世界を輝かせて見せてくれた。

 誇らしげに微笑む彼の顔を遠目から見て、幼い頃のトラウマをようやく乗り越えたような姿が眩しかった。


 自然な別れを求めていた私にとって、それは絶妙なタイミングだった。


 もし、また彼と顔を会わせる機会があるのなら、ずっと後回しにしてしまっていた別れの言葉を、今度こそ口に出来るような気がする。


 その時こそ、私が彼から奪ってしまった彼の貴重な青春の時間を詫び、古い過去に別れを告げよう。事件なんてなかった日の友人同士として、それぞれが身分相応な世界で幸せに生きて行こうじゃないか。



 他の仲間達が、大人になって外の世界に飛び出していったように、私も動き出そうと思う。



 考えると楽しみでならず、私は、これからの新しい未来が輝いて見えた。

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