第二話 初めまして、パラレルですか?
目が覚めると、そこはベッドの上だった。
…………おぶっ! 今世の記憶が溢れてきた!
五歳でもかなりの量の記憶があるけど、言語チートが良い仕事をしている。頭の中で、この世界の言語と記憶を紐付けして、きれいに整理整頓されていくようだった。
まず、転生した私について……。
私の名前は、カノン=コナ=ケアロ=バジェリアード。五歳。バジェリアード帝国の第二皇女だ。あ、名前は、そのまま前々世と同じカノンなんだ……。
ーーーーーー 第二皇女!!
驚きのあまり、ガバッと起き上がった。そこは、懐かしい気のするキラキラまばゆい豪華な装飾のあふれる天蓋付きのベッドだった。
幼子には広すぎるキングサイズのベッドの端に移動して、ペタリと座った。他に人の気配はない。
天蓋から降ろされた分厚いカーテンを少し開けると、見慣れた部屋がまだ夜明けの薄明かりに浮かんでいた。
いや、見慣れてない。いやいや、私に与えられた部屋で間違いない。キラキラ装飾ながら上品な高級家具に、フカフカの高級絨毯、壁紙は愛らしいオレンジ系の花模様だが、銀箔の型押しが全面にされていた。
凄くラグジュアリーな子供部屋だ。記憶をさぐると、寝室の他に続き部屋がいくつもあって、バス、トイレ、キッチンもあるのだ。前々世の私の記憶にあるカノン皇女の部屋と遜色ない。
私は、『第二皇女カノン五歳』の記憶をおさらいしてみる。
カノン=コナ=ケアロ=バジェリアード。五歳。バジェリアード帝国の第二皇女。
パラレルワールドだから? し、心臓がバクバクしてきた。
バジェリアード帝国は、人間の国最大の勢力と歴史を誇る大国だった。はて、だったの?
私の父上様は、皇帝陛下。母上様は皇后。私は皇帝陛下の末子で、兄上様が…………二人いる。もちろん、側室の子を含めてだ。
あれ? 兄妹が少ない。他国に婿入りした兄もいない? 処刑も暗殺もされてない……。二人の兄上様が、次期皇帝の座を争っている事になる。
そして、第一皇女がいる。側室が生んだ一つ年上の私の姉上様だ。
帝国の皇室、前々世とだいぶ違っている。私は、ウンウン唸りながら記憶をおさらいしていると、乳母が入室してきた。
「まあ、カノン様。もう起きていらしたのですか?」
乳母の名も同じ、ルビス。確か、やっぱり貴族の未亡人だったと思う。『第二皇女カノン五歳』は、父上様、母上様の正式名称すら知らないのだから、乳母の家名や爵位までは、もちろん知らない。
前々世の記憶と同じなら知っているけど、違う可能性がある。混乱するから思い出さないようにした。
「おはよう。ルビス」
あ、懐かしい、自分の声だけど可愛い。
「おはようございます。カノン様、まだ起きられるには早すぎますわ。もう少し、ベッドでおやすみくださいませ」
「……はい」
まずは、状況の把握と頭の中の整理からだ。私は、またベッドに横になった。ルビスはそれを見届けて、天蓋のカーテンをぴったりと閉めた。
私、カノンは待望の皇女に変わりはないらしい。皇室のしきたりで、皇女は必ず神殿の巫女にならなければならないが、皇妃の娘が優先されるようだ。
第一皇女は側室の娘。だから、私が十六歳の成人を迎えると、神の花嫁として一年を神殿で過ごしてから、降嫁する事に変わりはないらしい。
この世界の神様は『トリウェルバ』。私は、美中年の優しい神様の一年間だけの花嫁になるのかな?
あ、違うのかもしれない。『第二皇女カノン五歳』の記憶が、神様の名は『アークトルバ』つまり、信仰している神様と世界を管理する神様は違うというパターンだろうか?
いや、正しい神様の名前が伝わっていない可能性もある。確か、神様の名前は、名乗ってもらわなければ認識されないのだから……。うん。難しい話は後で考えよう。
一番上の兄上様のフィオル=ダナ=ケアロ=バジェリアードが同母の兄妹で、年齢差は、約十二歳。
二番目の兄上様のタナトル=ダナ=サスハ=バジェリアードは、側室の子で八歳年上だ。前々世とかなり違う。他に兄は……やっぱりいない!
第一皇女の姉上様は、タナトル兄上様と違う側室の子だった。名前はイリス=コナ=サリハ=バジェリアード。他に兄弟姉妹はいない……! 前々世の皇帝には、呆れるほど側室がいたのに、現世は皇妃の他に側室は二人だけだった。前々世と微妙に色々違うようだった。何か原因があるのだろうか?
それなのに、カノンは母上様と、週に一回くらいしか会えていない。父上様とは、年に数回で、会話した覚えもないかもしれない。前々世と相変わらず家族が疎遠で……泣けてきた。
確かに、前々世と同じ人物なら違和感無く転生後の人生も馴染めるかもしれない。しかし、しかし、だ…………。
神様! どうして、こんな複雑な家庭環境に、また私を転生させたの!
お読みいただき、ありがとうございます。