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4 完成版








次の日、



がさ、がさ、がささ、



「………、、、」



昨日と同じ聖川の堤防で、例の少年(仮)……改め少女が、なにやら捜し物をしている。


引き連れる者たちはおらず、一人きりだ。

草藪などをかき分けたりしながら、懸命な様子で探しているが……見つからない。


その格好を観れば、昨日とは違うお出かけ用の組み合わせ一式なのだろう服装であるが、“帽子が無い”。



がさ、がさり



「………、、、、」




がさ、っと





「よっ、」



「 ! あっ…」



突然の声かけに、わたふた、しどろもどろ、…という体で慌てた少年(仮)…ーならぬ、少女、に、ここに来るだろうと思って今現れた浩介は柔い笑みで迎えたつもりであったが、




「ひっ、」




…己の絶望的なまでの人相の悪さに、やや傷ついた。




「な、なななななななんだよっ?! オレーマイリ、ってやつなのか!!? な、なに、なんなんだ、なにされるんだ?………、…? ーー~ーっ!?、~~おおおおオレにっ なにをするんだっ、オイ! オレはおいしくないぞぉっ!?」




「取って喰いやしねぇよ。…ホレ、」




「あっ」




帽子、をコウスケは少女に手渡した。








「あ、ありが……「そんじゃな、」――!、ま、まった、ーーまって!」





一瞬遅れた感謝の言葉にコウスケは別れの挨拶を続けようとして、それを少女が遮ったのは次の瞬間であった。




     * * *




「つまりニーチャン、ゾイダーなのか?」


「一応そうなるね。ガンプラやメダロットもやってるけど、ウチのエースはゾイドが多いよ」


「すげえ! …去年の地区大会二位出場かよ!?」


「んで、そっちは戦隊だろ? 得意なのはさ。どうだよファイヴレンジャー。今日も面白かったけど、観なかったのか?」


「………」


「……ん?」




鉄橋が遠くに見える河原の堤防上を歩く浩介と少女の二人は、なんでもない無難な話題から始まって、いつしかALEXの事で積極的に言葉を交わすようになっていた。



春の麗らかな陽和ひよりの事だ。

コウスケが配ったブラックサンダーをもしゃもしゃと咀嚼しながら……


ブラックサンダーの味を理解する者同士、マニアの血は争えぬ、である。




「ユウキ、みねはち祐希、ユウキ、ってよんでくれ!」




最初に、少女……改めユウキはそう名乗った。

よろしく、と返して握手をする浩介であったが、男みてーな名前、だとはいわない。ジェリドじゃないからね。



「それで、なんでオレを狙ったんだ?」


「それは、……その、」



ごくん、と口の中のブラックサンダーを飲み干し、

これをみてくれ、とその言葉を言った少女は、続きざまに己の付けている袈裟懸けバッグからそれを取り出して、



「、……なんだよ、コレ」


「………その…」



治せるかな、とユウキがコウスケに問うたのは、…――



「…フェアリーメイデンがメルトランディならこっちはゼントラーディの、ALEXジョンスミス・ジャンルのコンバット・ジョンの部品じゃねえか。サージェント・グレッグ・タイプの五年前のモデルの。どうしたんだ、こんなに破損していて…」



「こわされた、」


続いてユウキが、バッグの中のーーお出かけ派神姫ユーザーならご用達なタイプのーータッパー・ケースから取り出した物を観て、コウスケは呻いた。



左胸のポーチの中で、フェリはすやすやと寝ていたから安堵できたが……





……四肢は元より、全身が破壊された格好の、一体のGIジョー系・男性型ALEXの素体。



頭なんか特に非道い。




えぐられたように顔面が無くなっていた。




「………」


「学校の帰り道に、よくわかんない女にやられた。ALEX使いだったはずなのに、……見せろと言われて見せたら……ぐすっっ、取り上げられて……」



フェアリーメイデンもコンバット・ジョンも、顔面パーツもふくめた全身のパーツは交換可能な作りとなっている。

普及と洗練が進んだ今、ALEXオートマトンは全身のパーツが高度に規格化されていて、購入した原初の状態から各部のパーツを好みの物に変えていったりする盆栽的楽しみ方は特にフェアリーメイデン・ユーザーのテッパンである。

されど、どんな暗器をつかったのか……こんな無理矢理にはぎ取られたとなるともう直すことはできない…、フェイスパーツのツメが折れて突っかけ部に残ったままであるし、フェイスパーツ内の筋肉や骨に当たる部品が、眼球に当たるマイクロピン・カメラは割れて破損し、顔内部のインナーフレームに当たる部品が、すべて修復不能に傷ついていていたのだ。



「コンバット・ジョンはあくまでも玩具としての作りだからな。日本こっちの特にフェアリーメイデンだったりでは、基準以内であるが絶対的な耐久性を目指してとにかく高強度な作りと超高耐久な高級素材を使っているけど、米国あちらさんは規制であっち由来のALEXはそうできづらい。

 拳銃弾の直撃か手榴弾程度の威力で確実に撃破できるよう、万が一の暴走時の対処に備えた合衆国法でそう規定されているからだ。特にトイ・ユーズの奴は意図的に、脆く作られている……

で、そんでもってフェアリーメイデンを敵視しているときたもんだ。

メダロットならメダボッツ! ゴジュラスをみればゾイドジラ! っとか言うくせに、

おるすばんひまりの開発成功からこっち、日本から接収同然に技術を盗んでおいて政治圧力を掛けてくる恥知らずなやつらだ。今度の貿易交渉ですべての女性型ALEXはマテル・ハズブロ連合のバービー型ALEXの規格と仕様に統一しろだのとまだ騒いでるらしいが……で、結論だよな?」


「うん」


「…もう、“この身体は治らない”」


「ッ! ……っうぅっ…」


「まて、俺の結論はそうじゃない。この身体は治せないが、代わりになる身体を見繕う事はできる。つまり、“生まれ変わる”ことならできるんだ。流石にアメリカとはいえ、もうある物の“ネジの再発明”なんてのは嫌がるから、このコンバットジョン・シリーズは、コトブキヤによるALEXマシニーカ各種やALEXフレームアームズ・ガールで確立された、内部コンポーネントが現在の日本式人型ALEXの基本に沿った仕様になっているから、ね」


「そうなの、か? ぐすっ」


「もちろんだとも、胸郭内内部のコア・セットモジュールも、頭部内のプロセッサ・メモリーモジュールにも、ここだけはフェアリーメイデン同様に高強度化されているから傷一つありゃしなかった。コレなら十分、いける!」



「……そっか」




再び、鉄橋を電車が通過した。


桜の花は散りかけていたが、遠くからは今期最後の花見の客たちが騒ぐ声が聞こえてくる。


その声に引っ張られたかのように、ぐすりかけていたユウキの顔は不意にいたずら小僧のそれを被せたようにして、





「イイところに、つれてってやるよっ」







     * * *








「ゲームセンター、か」




足かけ五分の、聖ヶ岡の駅の一個となりの隣町…


その商店街の細い路地を入っていった先に、ユウキの招く場所はあった。




「“GAME、とと”……ね、」




昼前の、揚がりかけの昼光に店内は包まれていた。




うらびれた具合に、程良く寂れている。



さりとて完全に人の入りが途絶えたのではなく、老齢の老人や小さく幼い子供たちの二世代対極が、年期の入ったゲーム筐体との遊興をこころゆくまで楽しんでいた。




まるで銭湯のような空間であった。




「こっちこっち!」


「うむん……?、 ! 」



そうしてコウスケは、それと対面させられた。



「これは…っ」


「しらねぇーわけねえよな?」



エアホッケーのゲーム機盤をさらに巨大化させた全体像…大きさと形状をしているこれが、ALEXによるビーターゲームをアーケードゲームの世界に取り入れた、KONAMI社製“BATTLE MASTERS”の実筐体である。



半世紀近く前の自社のコアヒット・ゲーム、“武装神姫バトルマスターズ”シリーズのキー要素である神姫バトルの筐体をイメージして、フェアリーメイデンの普及初期の頃、ビーターゲームへの“妖精”の参戦の黎明期の頃に、KONAMI社がリリースをしたALEX対戦卓盤のそれであった。




「…すげぇ、」 「だろ?」




いや、いやいや、自慢げに誇ってくるユウキには悪いが、浩介の感動しているポイントはそこではない。


まさか、この最初期タイプの物を現実の本当に見る日が来ようとは…ー浩介はやや興奮の感情で鼓動の高ぶりを感じる程だ。


なぜなら目前のこれは、ベストセラー人気のアーケード・ゲームとして、稼働開始から改良と機能追加の進化が連続的に続けられたビーターゲーム用神姫バトル型筐体のシリーズの中でも、その機能が最低限のものしかない、初期型のBタイプ、とマニアの間では通称されるものであった。





「まあまあやってみろって、オトコはドキョー!」


「あっ!」




一回、二百円。


コインの投入を済ませてしまったユウキであったが、どうもこの流れだとバトルをするのは自分のようらしい…はぁ、と重量のないため息をついた浩介であるが。



「おきれるかー、フェリー?」「うにゃ…?」



今日も巻き込まれる形のフェリには申し訳ないが……(汗



さて、この、通称・神姫バトル筐体には、実ユーザー同士の対戦を行うための2P~モードだけではなく、筐体本体に内蔵された完全なCPU機…ー妖精が一体、入っているのだ…ーとのゲームを行うモードが設定されている。




「いっとくけど、チョーーーーつええかんな、“レベっち”はっ」



ごくり、とフェリは息を呑んだわけであるが…――



がちゃ、ごぅんごうんごぅん、…と、筐体の内部から上面天板へと、フェアリーメイデン昇降用のエレベーター装置がせり上がってくる。


そしてその音が終了しかけ、卓盤の上にエレベーターが昇高しきり…ー





「にっひひ、けちょんけちょんにされちまうがいいさ。なんつったってオレがかてねーんだもんっ?」    「ン……!?」





姿をあらわしたそれは、まるで舞台挨拶をするバレリーナのように、浩介とフェリへの一礼をかしづいた。





“「いらっしゃいませ、おきゃくさま、?」”





RMXー1、レベッカ。



その頃はまだ半分アングラのコンテンツであったフェアリーメイデンの黎明期の頃、いちはやくその可能性に気が付いた精密機械大手の柏原精機が、あのファースト・フェアリー、おるすばんひまりの開発にも参加した事でその猛勇を知られる、フィギュア…特にアクションフィギュア方面の実力を誇るホライゾン・アーツ・カンパニーと共同で開発と発表をした、純ホビー型としては史上初の、歴史に残る名機種、“オールド・メイデン”の一つである。




ぱっと見は、プロテクト・アーマーをやや年長あたりのロリータ少女のプレイメイトのコスチュームとしてゴシック風に仕立てたような感じもある。

つまりは俗にいうミリタリー少女、メカ娘的なデザインラインの外観設計と武装の選定がなされていて、このレベッカのヒットこそが、ALEXホビーに於けるフェアリーメイデンの展望のあり方を形作った、とさえいっても良い。



そして、何よりも特筆するべきなのはその廉価な価格であり、最初におるすばんひまりが同梱されていたPCアダルト・ゲームのスペシャルパックが十四万円、後に出た単体販売版でも十万円以上したのに対し、このレベッカは七万円台~…店頭での実際価格では五万円を切ることもあった…~の、つまり一般的な廉価パソコンと同価格帯の破格のプライスを実現。初期のフェアリーメイデンの爆発的普及に弾みを付けさせただけではなく、長い間、フェアリーメイデンを始めたい初心者にとってのエントリー機種でありつづけた。



しかし、その低価格を実現するための大量生産・大量卸・大量販売の販売戦略が裏目となり、特に不良品の多発や輸送時における破損品の続出による店舗側利益率の悪さ、それから販売の最初期ではあるが、あまりにも瞬間的に大量が売れすぎてしまった為にサポート体制が間に合わなくなってのユーザーからの不評…などへの影響となって、商品営業には弊害がたびたび発生した。

さらに泣きっ面に蜂とはこのことで、それらの問題が解決された販売後期からは、既に、同時期の他社からのライバル製品や、後継機種などの自社商品も含めての、レベッカの成功を受けて続々と各社が参入を開始したことによる、より多様化してモチーフのバリエーションが豊かになった後発製品の追い上げの前に、とうとう末期においては“在庫様”と呼ばれた程の、実際の商品消化の速度に供給が過剰となってしまったが故の光景…店頭のワゴンにうずたかく積まれたレベッカの箱のことを、未だにネットの住人の間ではネタにされている程であったし、かとしてレベッカ機種のファンの間でも、半ば自虐・自嘲となって口にするものも多くいるのが現在である。




だが、市場へ大量供給されたマスプロダクト・ホビーのある側面での宿命の通り、多くのユーザーに確実に多くの製品が行き渡ったからこそ、意外な事に、セカンドユース市場に於けるレベッカの未使用美品・完品の存在というのは希少で、そのことから、中古販売コレクターズ・ショップなどでは元の値段の三倍近くのプレミアが付けられて販売されているのが実体だった。


それが理由かは不明だが、頻繁にレベッカの復刻再生産の噂がコレクターの間で持ち上がっては消えていくのが、ネットの海の潮の満ち引きでもある。





ビーターゲームにおけるALEXシステムとしての性能は、フェアリーメイデンの能力性能の進歩が著しくなされた現在においては、可もなく、不可もなく、…俗に言う“モブキャラ”相当のものであった。

すなわち、こうした対戦筐体のCOMとしては妥当かつ優秀、という意味でもある。




それから、神姫バトル筐体の初期から中期後半にかけての物には必ずといっていいほどにレベッカが搭載されている理由は、それが、廉価を維持するための過剰生産によって在庫がダブツいて浮遊していたメーカー側にKONAMI社が直談判の商談を持ちかけ、倉庫三つ分とも噂される程の数を一括購入の現金ニコニコ払いによってかなり安価にフェアリーメイデンの大量調達を成功させたから、という企業努力の事実だという事を、そのスジの事情通は決して欠かして語ることはしない…






そして、今、目の前の盤上に立つのは、身体のスーツと全身の機装に漆黒の黒を纏った…黒いレベッカであった。






「すげぇ、」「ほえー」




「だろ?」




「おしとやかなレベッカなんてはじめて見た(愕然)「そっちかよ!?」」






レベッカ型というのは、本来、明るくて活発で熱血で無茶で無謀な性格設定をされている。




~~っス、……っス、とデフォルト標準ではなにかにつけ語尾にーーっス、を付け、根性根性テラ根性! が口癖で、そのくせ、死亡フラグをよく立てる。例えば、「俺、こんどマスターに××してもらうんだ…」等、




要するに体育会系熱血ヤロウ、 We can Meke it!(つのだ☆ひろ) と好しくいってもそうなってしまう程のそれであり、それはレベッカが、突撃兵型とタイプ種別がされているからの、…ものなのかなあ、なんなんだろう、よくわからないや。うん。




だもんなので、この目の前の漆黒のレベッカは、さしずめ、パチモン、あるいは中身だけが別物なのか…ーとも浩介は勘ぐったのだが、




“「さぁ、はじめましょうか。昼餉の時間におくれてしまいます」”




「おおおお、俺は白昼夢でもみているのか…? いや、微粒子レベルでその確率が存在していたとしても、俺が今まで見てきたレベッカってのは、なんつうか、こう、悲しいけど、これって戦争ビーターゲームなのよね、とか、嗚呼、時がみえる…、とか、やらせはせん、やらせはせんぞー!、だとか、アル、元気にしろよ! だとかなんとか、とか、アメリアー!(燃焼) だとかとかとか、カミーユ、俺はおまえに(爆発)とかとかとか、俺って、幸運を呼ぶおと(ローエングリン)みたいなだとかとか、とか、…ーうーn…ー」「にいちゃん、どうようしすぎだよ」




浩介はしばし頭を捻り、




「あのー、」




“「何か?」”




「失礼ですけれど、お宅、ほんとうにレベッカさん?」「うわ、本当にシツレーだっ!?」




“「まぁ、」”




ついぞ思い余って尋ねてしまった浩介であったが、一方の黒いレベッカの方はというと、くすくす、と慎ましく淑女の笑声を漏らすだけで、





“「ひみつ、にしておきます、」”




「…ーあ、」




その上、こんな事を言われるのに至って、浩介はこの目の前の黒いフェアリーメイデンはレベッカでは絶対に無い、という決断を下したのであるが、まあとにかく、



「さて、フェリ。…やっぱり不安だよなぁ……」


「だ、だいじょうぶなのねんっ? こ、こわくなんてないのねんっ」




あからさまに無理をしている様子のフェリに、後ろのユウキがぎくっと都合悪そうにしているのをコウスケは認識しつつ、



「昨日の晩、勉強したもんな?」


「そうなのねんっ、ぼくもますたーもいっぱいがんばったもん! なのねんなのねんなのねん♪ だ、だけど……」


「大丈夫、」


「ま、ますたぁ…ふにゃぁっ」


よし、っと。

指でその頭を撫で宛てつつ……――もう昨日みたいにブザマなまねはしない。不利になったらサレンダーボタンを迷わずプッシュ、だ。

そもそも、ビーターゲーム以前に、まず全うな神姫ゲームから、このALEXのバトルの魅力をこの娘に伝えていかなくてはならないはずである。

そのための安心安全の保障を、まずコウスケは己の頭に強く焼き付かせた。




“「それでは、お客様。対戦に出される神姫をセットしてください」”


「うちのはフェアリーメイデン(妖精)だがね。さぁ、フェリ。いこうか」


「うん!」



そうしてコウスケが神姫バトル筐体の昇降口にセットしたのは、昨日の無装備の状態とは違い、各種のアーマーを装備したその状態であった。しかし……





「あれっ?」





観戦のつもりで筐体の脇にいるユウキがそれに気づいて、




「ニイチャン、なんで純正のアーマーじゃないの?」


「どうにも、家に届いたのは素体の組立キットだけだったんだよなぁ……はぁ」


「かっこいいっちゃかっこいいけど……」


「あぁ、こればっかりは俺の趣味でな。一般人からはダサく思えるだろうが…――」


「ふるすくらっち、ってやつか!?」


「ミキシングビルドって奴だよ、」



フェリに装着された武装アーマーは、家にあったジャンクをコウスケなりに適切に組み合わせて組み上げた、仮合わせの物だ。

悠里が破壊した箱を検分したところ、その箱の中に神姫やFA:Gでいうところの拡張ジョイントやアダプタ類等は入っていた。

なので、そこにさらにALEX対応型b3パラベラム等も組み合わせる形で、それを有効活用した形になった。


「さながら、重装甲スペシャル、ってな」


…具体的には、基本はAGE系キットやマクロスプラモの部品や装甲パーツをパッチワークの如く組み合わせたものだ。

半ばMS娘化している外観ではあるのだが、

フェアリーメイデンの素体本来の可動範囲を最大に取る為に、装甲のパッチワーク間は関節技などの間接などでは繋げず、ナイロン糸とハンドビーズ、フックとカニカンの組み合わせという手芸の技術でつなげて自由遊動のフェンダー化、フローティングアーマーにさせる、というテクニックもやっている。が、いかんせんゾイドとは勝手が違う……結構苦労した。


「純正の方がデザインいーような?」


「仮合わせだからといいわけします…本当は打倒!戦隊ロボを目的に、ミキシングでGコマンダーっぽく要塞じみた物にしようとしてたなんていえねーけどさぁ?」


「?」


「…」


コンドウを知らないものは多い……




さて、それに対し、露骨に不満げな表情になったユウキである。結局あのボールペンキャリバーも燃費が悪いということでコウスケは持ってきていない。されど、コウスケは続けざまに…――



「…だけどな、なにも準備していない訳ではないんだぜっ」


「!」



コウスケは今日、自分の腰にウェストバッグを装着してきていた。その事にユウキとレベッカは気づいた。




「フェリ!」「わかったよん!」




腰手前側に装着していたポシェットを開いてから、浩介は中身のそれを放り…ーゲーム盤の盤上から跳躍して宙に舞ったフェリが、フェアリーメイデンの背中に装着される規格型・ウェポン拡張ステーションに既に懸架された状態のそれと、そしてもう一つの己の“得物”を、次の瞬間には“着装”(ロール・アウト)して合体した状態となって再びの着地をしていた。




「コンビネーション・オン! チェェンジ、ゴゥ!」



「…おおーーーーーー!」




キマったろ? と、ズバリド直球に好みのそれを目撃した感動の快哉を上げたユウキに振り向いて選手アピールをした浩介は、その背後に、ただのオタクではない貫禄をオーラとしてよぎらせるには十分であった。




「…ーシステムチェック、コネクター正常、導電接続、良好。外部コンポーネントの起動開始…ーなのねんっ」




その妖精の背中に装備された純白の翼が、ふわり、と風を抱いたかのように柔らかにしなって、そしてゆっくりと輝きを帯び始める…


それは、システムインジェクションで一体成形された、高輝度導電発光体含有配合・軟質プラスチックの…ー聖なる光の加護が宿っているから、電源投入によるシステム起動がされて通電が開始したからである。




人類種の死に絶えた遠未来を舞台に永遠の戦いを繰り広げる人工の戦闘天使達…ーという世界観イメージ設定の“エンジェル・トルーパー”シリーズ第一号、AT-01エリス型・フェリの背部には、まるで烈天使かのような純白の大きな“羽根”と、その右手にはコーン形状の複合槍が握られて、それぞれ装備している。


これこそが、浩介の“準備”…ー昨日の様な不意の事態への対処の為、ダン戦改造パーツのホーリーウイング(無改造)とホーリーランス(改造して射撃装備との複合兵装コンバインド・ウェポン化改修済み)をフェリの武装として用意をしていたのだ。



そして、こうして見た目にも、それから実際の“性能”においても、このホーリー・ウイングは高い完成度を誇っているのだ。




“……、承諾。お客様の神姫のセットアップを確認。エレベーター下降開始、バトルロンド開始まで、15、14、13、12、…――”



がたん、

ごうんごぅんごうん…



「フェリ、怖くなったらいつでも言うんだぞ。サレンダーは怖くない。な?」


「わかってるよん! だけどやっぱり怖いけど……」


「うん」


「……うまくたたかえたら、あのレベッカちゃんとお友達になれるかなぁ?」


「!」



 コウスケははっ、となった。

 


 ハートが持って行かれる瞬間であった。

 己が持ち妖精の、この健気さとひたむきさに……






“レディ?”




――ファイ!



「…はっ! いかんいかん」



次にコウスケが我に返った時。

それはこのバトルロンドが始まった、その瞬間だ。



(制限時間は七分、コインを追加投入すれば、それの二セットになる)



それが、このアーケードゲームとしての武装神姫・バトルロンド筐体のまず最初のルールであった。



(まずはマップの具合は?……市街地!)



スマートグラスのホロ・レンズ部には、コウスケにはフェリが見ている――フェリの視点からの――バトルロンド筐体内部の画像が映っている。



場所は、新宿あたりの繁華街、それをイメージした舞台だ。

 このバトルロンド筐体内部の情景……ジオラマは、昇降展開式の五センチ四方のIC内蔵ウレタンブロックの配置と、それに対するビジュアライザーによるホログラムのプロジェクションマッピングによって、立体的で豪華な作りの物を(シミュレーション式に)手早く簡単に再現する、という構造と理屈である。

(但しそうしたジオラマの元となる試作やジオラマのCGデータ自体は、WEBには生成ジェネレータなどもあるが、基本は人間の手による手作りだ。なのでそうしたデータの需要は高く、そうしたCGデータを専門に作るユニットの存在も、規模の大きい同人サークルやPCソフトハウスの形で数多く存在するのが現代だった)


翻ってフェリの視点なのであるが、その視界には……鏡?



「どうなのねんっ、すごいのねんっ!」



はたしてはたして、

一方のフェリ嬢の方はというと、ジオラマの中にあったブティックのショーウィンドーの鏡で――ウレタンブロックの中にカメラが仕込まれているのだ――、自分の身に纏う“武装”…アーマー…に、うっとりとしているのが只今であった。



「なのねん、なのねん♪」



身をよじったり、振り付けをしてみたり、…

そうすると通常のALEXオートマトン用武装とはスタイルの違う、古来の甲冑や鎧のように身体に追従してひもで結びつけられた各パーツが遊動するという構造のコウスケ謹製のフェリの武装アーマーが、まるで表情を変えるかのように形を変えるのが確認できた。



「ますたーの愛なのねんっ!」



するっ、とずっこけたコウスケに、ユウキは家にある工具と材料の数を勘案する顔になっていた。



「?」



そうするとフェリは何かに気付き、





「ふわぁぁあっ…!」



たった今、鏡に映るフェリの姿と、ショーケースの中の白のワンピースドレス…ー婦人服雑誌の丁寧な切り抜きをコピー機でスキャンして、それを張り込んだだけの簡単なCGオブジェクトであるようだ。そういった細かな調整は、このバトルロンド筐体では各設置店の自由裁量でできるのだ…ーとが重なり、まるでフェリがその服を着たような具合に、鏡に映る情景ではそうなった。


翼を纏った天使フェリが、白のドレスを身にした姿。

それが完成していた。



「おとなのひとのふくもいいのねんっ」



フェリはそう思って、



「ますたぁますたあ!」


〈はい、なんでしょ?〉


「後でまたチェシャ猫の木にいきたいのねんっ、一緒にいっぱいみてまわりたいんだよん♪」


〈りょっかいフェーリっ♪……それはさておいてな?〉


「ふぇ?」



そ~っと、いつの間にかフェリの隣に、あの黒いレベッカの姿もあった。



“「いいですねえ…」”



この黒いレベッカは、鏡に映る白いドレスワンピースのフェリと、マスターお手製の武装パーツを身に纏った実際のフェリの姿を数度ほど見返してから、



“「いいですねぇ、わたしもあこがれます」”


「なのねんなのねんなのねんっ♪ ぼくだけのぶそうなんだよん♪ れべっかちゃんもほしいのねん?」


“「わたしはそれよりもひびのれんしゅうが……とそうはげとか、りぺいんとしてもらったりして、かわいがってもらっています。なので、それにこたえられれば、と」”


「そうなのねん、ぼくもれべっかちゃんもますたーがだいすきなのねんっ♪」


“「そうなのですっ」”





「うそだろ……」


「ん、?」


「おれとマイクのコンビがいちばんレベっちと仲良かったはずなのに! それよりもうちとけてるしーっ!?」


「あはは…そうかい?」


まったくバトルロンドどころではない状態となってしまっていたが、それもなにも行き当たり通りぃ?というやつであって、





     * * *




気を取り直して、ラウンド2。



舞台はまた先ほどの市街地であるが、その中のフェリはまだまだ経験が足りない。



「ふぇ…」



未だ交戦が始まっていない今、背景として流れているアーマードコア3サイレントラインのBGMを除いては、街のディオラマはあらゆる音を飲み込んで、静寂のみを放っている。

それはフェリにとっての心細さでもあって、



「あっ」



しかし、こういうときは勉強してきた通りにする。

チャンネルがつながっていることを確認した上で、コウスケに尋ねる。



「ますたー、どうしたらいいのねん?」



〈まずは、こちらから先制を仕掛けたいが、……どこにいるか。索敵だな〉



「やってみるのねん!」



フェリは身に纏ったアーマーのバックパック部、その天面部にケモテック神姫のプチマスィーンよろしくそのまま装着されたシャルドール改の頭に、“おねがい”をしてみた。


すると、


「! レーダーがでたのねんっ」


フェリの目前に、空中投影のレーダー盤が表示されたスクリーンディスプレイが表示された。

それをコウスケも、自身のスマートグラスにオーバーライドさせて、


〈よし、それによると……正面、ビルが遮蔽物になっているが、三叉路の先に、か。移動中。1/10換算で百メートル先ね〉



「かくにんしたのねんっ。どんなぶきをつかえばいいのねん?」



「確認した。んー……ミサイルは使用していないから、中六発小三十六発のマイクロミサイルが全弾使えるが……」



「そうするのねん?」



「ん゛~っ、んんん、ゾイドならまずハズレ無しの固定武装があるから迷わなくていいんだけどなぁ…どーすっか、ライフルは?」


「放熱率100%、いつでもつかえるのねんっ」


「よし、このまま前進、遭遇したらライフルを一斉射して……、!」



「ますたー!」



――フェリの側が動くより早く、相手の〈黒いレベッカ〉の初手が先だった。



「正面、出てくるぞっ」


「ま、まってほしいのねんっ……にゃぁっ!?」



バババババ! 、

っと…――ライフル射撃の一斉射がコウスケのフェリへと見舞われたのがたった今の瞬間だ。

 その銃弾は実体としてはホログラムによる映像効果と無線LAN電波の断続的点照射の組み合わせであり、この攻撃はレベッカ型の主兵装の一つであるM8・0.556ミリライフル銃による射撃攻撃…――というシミュレーションが、この神姫バトル筐体の中で演算され、ホログラム投影の形でフェリのボディへと銃火が命中していく、その瞬間であったからだ。



「フェリ、無事か!?」


「あぅぅ……ぁぅーっ…ぁ…あれ?」 



昨日と同じ装備無しのエリス型ならば、また黒こげにされていただろう。

が、しかし…――、



「なんともないよ? やったやったよーっ!!」



弾着の弾痕(というホログラムによる投影エフェクト)が残るアーマー部はさておいて、中身のフェリは、

――無傷だ!



「やったやったよ、やったやったよーっ!!」


「よっしゃぁ゛ーっ苦労の甲斐があったーっ゛゛゛! …、て、喜ぶよりも反撃のチャンスだっ、今なら当たるぜフェリ!」


「! わかったんだよんっ! たーげっとろっくお……「ニイチャン、気を付けろ!」え゛っ」


「なに…何゛?!」



反撃に、フェリは手持ちの主兵装である、仮名・ガンダムライフル……

AGE-1のドッズライフルに弾倉パーツを追加したうえで、

中身のICタグとビジュアライザーをストックしておいたバルク品のビーターゲーム用実弾小銃内装ICチップの物に交換して、設定も、実体弾銃…威力も相応に抑えめに…――という改造をしたものだ……

……を用い、弾火が飛来した向こうへと反撃の応答射撃を浴びせんとした今だが、続けざまに相手の“砲火”が飛来した!




QUUUUUUUOMMMMM…



――DOGWARMMMMM!



「きゃああっ!!!!!」「ぬぅぐっ、…!」



爆風と火焔の二重奏が一瞬でコウスケのホロレンズの視界を灼き、ジオラマ上では、この繁華街の街路のただ中で火球のホログラムが轟いた……


…――この、目くらましのライフル射撃と、続いてのレベッカ型が標準で持つ火器の中でも一際ヘヴィーな威力を持つ…10.5ミリ分解組み立て式迫撃砲の『水平射撃による“置き石攻撃”戦法』が、この筐体でバトルした多くのプレイヤーを葬り屠ってきた、いわゆる“初見殺し”の戦法であった。



「にいちゃん、かかっちまったなー……オレとマイクはコレをとっぱできなかったから勝てなかったんだよ。何度やってもこれがどうにもできなくて、こっから先コテンパンにやられるのがいつもでさ……」


「なるほどなぁ、……フェリ、無事か?」


「へ??」



自身と今は亡き自分の持つコンバット・ジョンのグレッグ型・マイクとの、今となっては思い出話になってしまった過去をユウキは振り返った…

のだが、コウスケがあまりにも平静とした態度をしているのを見て、不審に思ったユウキである。


コウスケは把握している。ホロレンズに映る爆風は灰燼のただめく事件後の状態であろうが、相手であるレベッカの完全なる捕捉は、後次の一瞬でできそうであるのだ。


そしてユウキは神姫バトル筐体の上方に投影された各ビジョンの、双方の状態を示すコンディションパネルの、エリス型・フェリの状態を見て、驚愕した。



エリス型本体素体・ヒットポイントゲージ、100%。

…――損傷度、ゼロ。



「ぇえーいっ!」


「!」



そうして漂う灰燼を突き破って…――エリス型・フェリの放ったガンダム・ライフルの一撃が、迫撃砲の一撃を放った後撤収していく最中の〈黒いレベッカ〉の背後をかすめたのが今のこの瞬間だ!



「やったやったよ、やったやったよー!! ますたーの作ってくれたぶそうすごいよーっ!!」



「よぅし、」「えっ、えーっ!?」



“ほほう、なかなかやりますね…なら、”



「え?」



このコウスケ謹製のアーマード外装は、ここまでの攻撃をすべて耐えきった。

プラモの部品を使った外装パーツにHPを与える場合、そのパーツの裏面だったり内部に、専門のALEXショップが売っているICタグを張り込めば、それだけで改造は完了する。

少し背伸びして構造的な開閉などのギミックの場合は、Vーシボを応用して、キャップモーターを仕込んだ箇所で、閉じた状態と中間の状態、そして開いた状態を手動で設定していけばいい。


これだけの改造箇所があったとしても、そうそう壊れた威力設定にはならない、というのが今のALEX改造界隈である。

威力の上限はメーカー品で既に出きってしまっているし、自作で使える素材などは、性能が押さえられている、威力的には中庸なものしかないからだ。


そうして今、アーマードパーツ部位自体のHPは、三分の一…瀕死…の状態である。


ならばそれを、と黒いレベッカは判断したのだ。



「…――」



ねらいは、装甲の隙間だ。



「…――ッ」



跳躍で空中を駆け抜けていたのを、ビル壁を蹴って方向を反転。

進路はエリス型・〈フェリ〉をとらえる形で、



バヨネット付きM8から銃剣バヨネットを外し、…――、手で構え…――――、、、



「フェリ、白兵戦だ。ビームサーベルの用意を、」


「わ、わかったんだよんっ」


「命令を追加、その前にマイクロミサイル!」


「わかったのねん!」



腰装甲のビームサーベル・ラックから、サーベルをフェリは取り出した。

次にフェリが、身体の各所にガンプラのパーツを切った張ったして作った増加装甲越しに取り付けられた、VF-1バルキリーのスーパーパーツ……、そのミサイルポッド・システムに、お願いをした。



そうするとこう返された、“火器管制を求める”。



「背中のシャルドールさんにやってもらうんだッ」


「!」


 全身から噴出したミサイルの朦々とした噴炎によってフェリの身体がかき消されたのは、背中のシャルドール改のヘッド・パーツが火器管制設定を行った、この直後のことである。



「ふぇぇっ」



――合計十二発のマイクロミサイル弾が、フェリの全身の装甲パーツから射出されて吐き出され、次の瞬間にはハイマニューバー弾であるそれが、こちらにつっこんでくる〈黒いレベッカ〉の身体に殺到した! …――というホログラム投影が〈黒いレベッカ〉に対して行われたのがこの瞬間だ。


 それをレベッカは、



“っ”



――その手で握るナイフで、クリティカル判定になりそうなもののみを的確にしとめ、ほかのミサイルは、自機の自分の装備する面積の狭い装甲パーツで防御しながら…――全弾を切り抜けた。



“…――はぁあっ!”


「う、うにゃーっ!?」



次の瞬間。

ナイフを切っ先に向け、弾丸のように突っ込んできた〈黒いレベッカ〉に、フェリは迎撃のビームサーベルを閃かせた!



SHUBEM!



「“!”」



ビームサーベル(とはいっても実際としてはペーパー・プラスチック製の巻紙を巻き延ばしできるギミックが入っているだけの、ただの玩具である)とナイフが刃を交わした瞬間…――ビームサーベルは帯びている磁界を衝突させスパークを弾き併せて錐揉みあい、双方が鍔迫り合うのがまさにこのときであった。



「うぅう、ひぅうっ」



――ミサイルに対する対応でレベッカのフェリに対する到達のタイミングが四分半秒遅れて、フェリの側が焦らずにサーベルを展開できる、その隙が生まれたことで今の防御が可能になったのだ。


ミノフスキー粒子をおびただしい磁場と電流によって集約させることによって形成された、ビームサーベルの“刃”――という設定の、伸ばした状態の巻紙による刀身に、超小型ビジュアライザーによるビーム刃の映像効果を付けているだけの物だ――とレベッカのバヨネットの切っ先が交差して、特にビームサーベルはHGUC・ネロから流用した高出力設定の物だ。このナイフぐらいならば……



「…! えぇーいっ!!」


“!”



決まったのはこの瞬間だ。

勢いと威力で勝るフェリの側が、とうとうレベッカの身体を弾き飛ばしてしまったのである。


装備品の威力に差がある。つまり此方に不利。

咄嗟にレベッカは距離をとろうとして……――





“ぅっ”



右脚部と左腕に負荷がかかったその時に、である。

――古傷を庇うが如くにレベッカの動きに一瞬のタイムラグが生じた。


されど次の瞬間にはフェリの目の前からは消えて、

――だれにも今の様子を見せることなく、誰も知ることもなく、

再び自らの得意領分である高機動戦闘をジオラマの中でくりひろげん、とした。



「下がっていったな」「すげーなニイチャン…!」


「やったやったよーっ!!」


「次いで、だ。フェリ、ライフルをスタンバイ!」


「わかったのねん!」



コウスケとフェリの側は、再びガンダム・ライフルをスタンバイ。

照準が作用して、相手のシルエットからロックオン・マーカーが離れないようになって…――、



「ふぁ、ふぁ、ふぁ、ふぁいあ!」



ターゲットに向かって、フェリの手元のライフルから銃火のホログラムが放たれた!




「あたって、なのねん!」



飛翔していく仮想の曳光弾の軌跡が、この仮想の空の空中を切り裂いていく。黒い外装とも相まって、まるでクノイチの如くビル街の空中を駆け抜ける、黒いレベッカを追いかけて。

フェリはそう念じながら…――



一発目

…回避された。



二発目、

――これもよけられた。



三発目

――――これも!



「あ、あたらなかったのねんっ!?」


「大丈夫だ、相手の奇襲は二回とも退けられたんだ。すげえよフェリ!」


「! はわぁあぁぁっ…! なのねんなのねんなのねんっ!♪」



コウスケに褒められ、喜ぶフェリだ。



(――さぁて、どうするか、)



一方のコウスケは作戦会議を脳内で開いていた。



こちらは、まずまず…――フェリの熟練度はまだ未熟だ。昨日の晩は一通りの練習は積んだのだが、先ほどの照準の未来予測…俗に言う未来予測射撃…は甘かった。

フェリの咄嗟の機転故、焦ったのだろう…外部連携の補助演算が遅れたのだ。

シャルドール改(の頭)さんに計算補助を頼んでアテにすればよかったのだろうが、中途からそれを頼んでいる内に相手は逃げることが叶っただろう。現に今、四発目のライフル弾を放つ前に……黒いレベッカはビル街の谷間へとその機影は消えていった。

さて、こちらはミサイルも中型のものは手を着けていない。

ライフルの残弾は豊富、弾倉はこちらは四マガジンもあるし、こちらは潤沢に用意した兵装をまだ全部使っていない状態である。



そして相手の持つ兵装で、残るものは…――



びぃーっ!



「なのねんなのねんなのねんっ!♪…――?」



喜ぶフェリに、背中のシャルドール改(の頭)さんが、ブザーのような警告音を発させてからメッセージを表示させた。



“被照準警報”!



「! ますたぁ、ぼくろっくおんされちゃったみたいなのねん!?」


「相手との距離を見計らうに、そんで無照準で迫撃砲を水平射撃して当ててくるレベッカだ。この間合いで照準が必要なものは…――」



ミサイル!



「ど、どうすればいいのねんっ?! こわいよーっ!」


「焦らなくていい。相手の持つM292・ファイアトーチ・マイクロTOWかM304・ジャベリンかがのミサイルが発射されて、それを検知したら…――」


「あ…――い、いま発射されたみたいなんだよん!」


「よぅし、」



相手から発射されたのは、携行型対装甲ミサイルであるM304ジャベリンとおもしきパターンであることは、自身のホロレンズに投影された鳥瞰図上での、そのミサイル弾の飛翔軌道からコウスケが経験知と照らし合わせて判定したその詳細であった。


威力は先ほどの迫撃砲と同級!


文字通りレベッカ型の必殺武装だ。試合の時間経過は既に四分、つまりはこれでケリを付ける、という意思表示なのだろう。

…――さりとて今、コウスケは有効な対処法を持ち合わせている。



「いいかフェリ? フェリの付けてるフロント・アーマー(腰部装甲正面部)の裏にワイヤーにつながった取っ手があるだろ、指示したタイミングで、それを引っ張ればいいんだ」


「こ、こうなのねん? …あっ」



フェリはその取っ手を掴むとき、多少その取っ手を引っ張る形で力を入れた。すると、“装甲が動いた”。


遊動する形にフローティング装甲として組み合わさったガンプラとマクロスプラモのパーツが、裏に通されたナイロンひもが引っ張られることで、連動して、ある形状を作り出す、…――というギミックだ。



それは、ミサイルの飛来は、急転直下…――直後にこのフェリをしとめんとその飛翔を終えんとする、その一瞬だった。



〈今だ、ワイヤーを引け!〉


「おーるらいと、ますたぁ!」



そうすると、

左半身の遊動装甲が、各部品が集合して一つの“盾”になった瞬間だ。


フェリに対しての直撃軌道。

つまりそれへ、真っ正面から飛行してきたミサイルの直撃は…――




……――DOGWOOOOOOOOOOOOOONNMMMM!!!!



「わっ、きゃっ」



爆風とその威力は、先ほどの迫撃砲よりもさらに上だ。されどしかし…ー



「ぁっ…――だいじょうぶなのねんっ? やったやったよーっ!」


「ふぅっ、」



フェリはこの攻撃でも無事であった!

それにコウスケは安堵の息を漏らして…体内で暖められたその熱風で、眼鏡のレンズを曇らせた。



(そしてなぁ、)



コウスケは、己のターンを開始した。



「まず、こっちからもだ。ミサイルを、全弾斉射!」


「りょうかい、なんだよん!」



もう一度、ミサイルの泡のような白煙が、アーマード・フェリの全身を飲み込み包んで……そうして飛翔していった。



“っ”



飛翔していくミサイルが〈黒いレベッカ〉に殺到するのはこの数秒以内のことだろう。

それはさておき…――



(確認しよう)



“エリス型フェリ・アーマード部HP:0”



いよいよこれで、コウスケ謹製のアーマー部はそのHPを空にした。役目を果たしてくれたのだ……

されど、こうなるとただのデッドウェイトである。試合が終わればリセットがされでそれ以降も使っていけるとはいえ、ビーターゲームではこの場合、ただの障害物扱いとなり、ダメージ計算では八割のダメージがその下の素体に伝わってしまう状態なのだ。

しかしその上にはさらにミサイルポッドが設置されていて、残弾があった。

そのミサイルポッドも、たった今残弾を空にした。



(いよーし、)



そして〈黒いレベッカ〉である。

こちらは手持ち火器による対空ファランクス迎撃を行い、たった今、飛んできたミサイルを殲滅したのが……筐体の外の中継ビジョンで確認できた。


“これは、てごわいですね……”


M8小銃とハンドガン“チーフイーグル”、そして背部兵装の、1.27ミリ分解組み立て式重機関銃による三方迎撃!



まるでスノードームの雪を払うかの如き手腕で……――



「す、すっげーっ! やっぱレベっちだ!」



ユウキが感動と感嘆のため息を漏らすほどの華麗さで、〈黒いレベッカ〉は己への脅威を排除したのである。


つまりは、手持ち火器の小銃類を酷使した後であろうので……、これはコウスケの目算だ。



…――今度はこちらから仕掛けるのだ。




「さて、動くぞ、フェリ。

相手は重射撃特性のあるレベッカ型だが、この数波で俺の目算どおりなら…――。こちらは攻めてもいけるし押してもいける」


「えっ? どういうことなのねん?」



わからないままのフェリに、しかし不敵にニヤリ、としたコウスケだ。

続いて、



「そうしてまず最初に、フェリ、アーマー・パージを頼む。」


「ふぇっ?! いやなのねん! ますたーのつくってくれたせっかくのぶそうなのねん! ぜったいにぜったいにいやなのねんっ!!」


「というのもな…」


「う~、いやなのねん!」


「そうかぁ~…うーむ……」



主観の相違、というやつだった。

コウスケとフェリは、膠着するしかなかった……が、



“それでは、また、こちらからいきますよ?”



…――!



「えっ? あっ、わっ、きゃっ!!」


「うぬぅ、」



フェリがためらっている間に、再びの銃火が黒いレベッカから飛来した!

今度は背中の1.27ミリ重機関銃を使った射撃だった。

威力のある射撃だ。

何発か、被弾……二発かすめて、一発が外装装甲に刺さった。

しかしあたり判定はそれを貫通して、その下には……外装装甲の外縁部であったので、フェリの素体になんらかのダメージが及ぶ、ということとはならなかった。


今のは不発であった。であるが…――そうしてまた、銃撃が再開される!



「フェリ、こっちも撃ち返していくぞ!」


「うん!」



果敢にフェリもライフルをスタンバイ、

この一瞬の戦局は、互いにライフルの撃ち合いへと展開した。




そうして、





“…――! 弾切れっ”





先に息が上がったのは、黒いレベッカの方であった。




「かかったな、」「ふぇ?」


“はめられた、ようですね……”



ミサイルの迎撃に有り弾のほとんどを使い、必殺装備である迫撃砲と大型携行ミサイルを使ってしまった今、レベッカに残されている、秘められた手は残っていない。



“まだ迫撃砲なら残弾がっ”



黒いレベッカは、再び迫撃砲を使う判断を執った。

腰に半完成の状態で装着しておいたのを再び取り外し、装弾キャップを装着して弾薬装填…――という判定がされる為の行為――…を行い、装填完了。再び射撃をしたのが今だ!


今度は通常通りの使い方だ。

直上方向へ発射された弾丸がビル街の空を突き抜けて弾道を描き、放物線を描いてフェリの現在地へと着弾をする…――のがあと数舜後のことであろう。



「また撃ってきたのねん!? ど、どうすればいいのねんっ?!」


「焦らなくても、昨日勉強したろ?」


「…――あっ」



されどコウスケとフェリの側には、まだ次の手があった。




「だからな」




コウスケは息を吸い込んで…




「今だ、フェリ…ー」




ことのはじまりは、今の世の中では一般的となった、“押した感覚がある”空中投影型タッチパネルが、その出始めの頃、偶にボタンにふれようとしても、逆に指が押し返されたりはじかれてしまう、壁ができたように押そうとしても鈍い感触があって、押せなくなる……という現象の不具合が多発した事に端を発する。



原因の究明が進められていく内に、空中に超音波とホログラム投影によって発生しているという原理のタッチスイッチ本体の調整不足、というのに原因は集約された。が、今度はこの興味深い現象を、なにか他の用途に使えないか……という段階まで研究が進んでいった。



なぜならばそれがさらに詳しく検証されるにつれ、にわかにホビー関連業界の周縁の人間達は食いついたからだ。

とあるネットメディアの、バグが起きたままの端末で実験して、試しにコピー用紙をちぎったものをふれさせてみると、そのまま浮いたまま静止する…という現象まで観測されたのがその根因である。



この現象は、条件さえ合わせれば、どんなシステムを構築しても(つまりどんどん小型化していっても)同様に(ごく軽い物に限られるが)“物を浮かせられる”という結果が出そろった。


そして、それを逆にすれば?

つまり、物に対して作用させるのではなく、そのシステムを積んだ物体から、地面へ、空中へ、作用させれば……――


つまるところ、ある一定の条件下に於いてこれが発現する物であろう、という段階まで要因の解析が進行した。ならば、この現象の利用と応用は可能ではないのか、と考える者も、当然ながら出現し始める。そして解析と研究が継続されて、一応は理論の骨子たるものが確立できた、とされるものこそが…ー





「“飛べ”!」




「おーるらいと、ますたぁ!」





これこそが、なにもない空間中にあっても超常現象の如き現象を任意の自在に出現・発動させる事を可能とした…ー、フィールド・アクチュエーター技術である。




一例として挙げるのであれば、

今、フェリの背後においては、本来は別機能の動作目的に実装のされていた…ALEXオートマトンの現代的スマート端末としての標準的な機能である、強力かつ高度な制御性を持った空中虚空放電と超音波発生大気振動の組み合わせによる電位差電子・空間投影配置マッピングの能力によって巨大なスイッチ回路が多層重層的にエミュレートされている状態であり、それが超高速で――機関銃の発射速度よりも早いテンポで――オンオフされることにより、いにしえの古典から名前を取ってラザフォード力場と通称される限定空間的な磁気・超音波浮力が発生する状況が出現、



この場合例を挙げるなら、例えばホーリーウイングは材質的には単なるプラスチックの成形物でしかない作り物の翼であるが、その中には超音波・電磁力場発生の為のアンテナとして専用の集積回路と超音波発生用振動子がインナー成形されている……バンダイの超技術だ。それへの通電により浮力を確保し、アンテナが発動したことで浮き上がった翼を、今度は進行させたい方向の前後の翼上の箇所で超音波の種類を変えてその誘引力と反発力を発動、これらを電子のスピードで連続的に行う事によって、あたかも“空中を飛んでいる”かのようにALEXのフェアリーメイデンを自在に浮遊移動させるのである。




原理としてはリニアモーターカーを三次元立体機動が出来るようにしただけであろうが、もたらされた効果は人類がUFOを己の手で実現させた瞬間の事件として全てが語り尽くされている。



ただ、一見すると驚天動地の超技術の顕現の如く思われるだろうこのフィールドアクチュエーターも、実の所、使用と利用ができるのは、たとえばZZガンダム・Gフォートレス形態時の翼の面積での規模では、現段階での商用において250グラム以内の、出来るだけ単一の素材で形成された無機物のみに限られる。

それら以外にも諸処の条件は他にも存在するが、つまり、生物である人間には使えないのだ。その上、対象となる物体も、極めて限られている。


そういうわけだから、未だ研究途上のこの技術は、今すぐ、何か一般大衆の通常の暮らしに役に立つものなのか、と聞かれればNO、であった。



が、しかし、ことホビーであるALEXシステムにとっては、そんな事は関係がない。

IS…インフィニット・ストラトス…、武装神姫のアーンヴァル型やエウクランテ型…、はたまたさらなる古典から名前をとればマジンガーZのジェットスクランダー! 詰まるところそう言ったものを手持ちのALEXにお手軽に実装ができるとあって、あっ! という間にALEXのホビーユーザー層の間では当たり前の技術となってしまった。



そして…――



……――DOGWOOOONN!!……QOOOOMM…



「わっ、わっ、とんでるのねんっ! すごいのねんっ!!」



先ほどまで己がいた地点へと“正確に”、迫撃砲の砲弾は着弾した!

…――が、フェリは一瞬のはばたきで、その直上へ飛翔して…――避けることができていたのだ。


エリス型は本来、空戦が可能な航空型フェアリーメイデンだ。

プリセットされている経験値でもっとも高いのは空中飛行・空中戦のものであるし、本来キットに同梱されているべきデフォルト兵装も、その空中戦を可能にするための、兵装類一式なのである。

それをコウスケは、自前のジャンクパーツからビルド・アップした武装で補ったのだ。



火球の轟く地上のその上空で、浮遊するフェリは、自分の力で舞う…――はじめての空に感動していた。




「そのためのホーリーウィング、か……!」


「こっからは俺たちのターンだ。フェリ、いくぜ?」「まかせてなのねん!」



フィールド・アクチュエーターの発動において、もっとも理想的なのがゾイドのマグネッサー・ウイング形状の部品だ。



大きく肉抜きがされていてフィールドアクチュエーター原理の許容限界重量の範囲内であり、超音波発生振動子を仕込む上で理想的形状でもあり、その上、重量体積に対してパーツ自体の大きさを大型化出来るため、より高い効果のラザフォード力場の発生を期待できる。



なもんでプテラスだったりサラマンダーが再販の度に部品取り目当てに狩り尽くされている現状だし、ALEXの空中機動戦をメインにした大会などでは、大昔のミニ四駆の如く、肉抜きのされまくった背負い物を背中にかるったALEXオートマトンたちの姿でエントリーが埋め尽くされる。



翻って、元はALEX化したダンボール戦記の武器セットとして再び商品化されたホーリーウィングであるが、こちらはとにかく、形状が素晴らしい。

表面のディテールが、他にないほどに、天使の翼として…実感ある形状なのだ。



見栄えがし、女性型系ALEXオートマトンのユーザーからは好評を持って支持されている、定番武装の一つである。


こちらもこちらでメリットがあり…――



“動かせるわけにはっ”



黒いレベッカは再び迫撃砲を使う判断を執った。

もう一度同じように装填し…――砲弾のタイマーをセット。


ねらいは、曳火射撃…――地面へ着弾する前に空中で砲弾を炸裂させ、弾丸の断片や爆発の威力で相手を攻撃する――…というものだろう。


それが今、放たれた!



「よけられる、ん、だよん!♪」



そのレベッカの渾身の一撃を、まるで蝶のように、ひらり…――とフェリは避けてみせた。



「なのねんなのねんなのねんっ!♪」



そしてフェリは直後に急上昇!

砲弾の弾丸自体も、直後に炸裂した弾片も爆風も、そのさらに上空を自在に飛行できるフェリには…――届かなかったのだ。



「フェリ、ホーリーランスの準備を」


「らじゃー、なのねん!♪」



コウスケはシメにかかった。



「チャージだ、つっこむぞ!」


「わかったんだよんっ!」



腰の3.3ミリ径ハードポイントに据えられていたランスを、展開。

エリス型・フェリはランスを構え…――



「はぁあ……――やぁあっ!!!」


“ぐぅっ”



直後にホーリーウィングを羽ばたかせて推進…加速し、空中から地上へと、一瞬のうちにレベッカへと突っ込んだのが今だ!


ホーリーランスの槍の槍身が黒いレベッカへと命中して、苦悶をあげたレベッカは弾き飛ばされて吹き飛ばされ、地上を滑走した。

…――次の一瞬でフェリは再び空中へと戻り、レベッカからの反撃は出来なかった。

この一撃の威力判定はかなり大きい。レベッカのHPは三分の一も削れたのだった。



“やります、ね…”



倒れて擱座した状態から復帰するレベッカに対して、フェリとコウスケは二発目のランサー・チャージの準備へと入っていた。

十分に間合いを取って、再びランスを構えんとしていた。



「やったやったよーっ! ぼくがんばったよーっ!」


「いけるなフェリ、このまま二撃目、いってみるか!」


「うんっ!わかったんだよん!」



フェリは今、絶好調だ。

背中の天使の翼を羽ばたかせる度に、光の粒子のホログラムが振りまかれるように、空中から地上へと降り落ちていく…――


“(なるほど…――)”


地上の黒いレベッカは、対戦相手のこのエリス型に、この幻想的な光景を写し重ねて、見た。

自分の執った試合によって、この幼い天使が生まれいでたというならば、COM機体冥利に尽きる…――



“だけど…――えぇい、”



一瞬のモノローグであった。

しかし黒いレベッカも黙ってはいない。

レベッカは、右腕の肉薄軽量装甲板にマウントされた、三発のマイクロTOWミサイルを、一発づつ順番に放った。

そうしながら、ナイフを構え…――



「ど、どうくるのねん!?」


「ミサイルはランスの同軸機銃で撃墜、突っ込んでくるレベッカは…――」


“いいきらせるまえに、やります!”


「ふぇぇ!?」「ぬっ」



黒いレベッカは跳躍して、今、フェリへとそのナイフの切っ先を向けた瞬間だった。

一方であるが…――

今、フェリの装備するホーリーランスは、改造がされてランスの槍身横に、同軸の機銃が装備されている状態である。



「や、やってみるのねん!」



マクロス譲りのハイマニューバー弾とは違い、迎撃されることを考えていないただの有線誘導ミサイル…TOW…だ。

ランスの同軸機銃を斉射して、一薙ぎしただけで、全て撃墜する事が出来た。


が、しかし……肉弾となって突っ込んできたレベッカが、まだ残っている!



「フェリ、ランスでいけるか?」


「いけるよん!」


“!”



フェリの持つランスの切っ先は、フェリにとっての正面へと向けられ…――



「たぁ!!」



今この瞬間、レベッカに対するフェリの攻撃が行われた。

羽ばたいて推進したフェリは、レベッカの腹に向かい、ホーリーランスの切っ先を突っ込ませたのだ!



“それはあまいです、っ!”


「「!」」



次の瞬間だった。

黒いレベッカは、構えていたナイフをホーリーランスへと、“切りつけた”!

このナイフの一撃によって、ホーリーランスの切っ先はレベッカへの直撃軌道から外れ、フェリの一撃は避けられてしまった。

同時に、そのナイフによる切りつけを力点として、レベッカの体はフェリの直近での滞空さえもやってのけていたのだ。

そしてレベッカは…――


“はぁあ!”


返す刀で再びナイフの切っ先を裏返し、勢いのまま、未だ突っ込ませるしかないランスの一撃によって隙の生まれた、装甲の下の、フェリの本体へと切りつけようとした!



「ふ、ふぇえっ?!」「これは…」



対するフェリの動揺から、レベッカは己の勝利を確信した…――







「で、でも、…――まだおわってないのねんっ!!」






しかしフェリも、まだ打つ手はあったのだ。



「えぇーいっ!」


“!?”



腰部フロントアーマー裏の取っ手を、“引っ張る”。

するとアーマード外装の隙間からねじ込もうとしていたナイフの刃身が、互い同士で隙間無く集合しようとした装甲パーツによって…――



「!」「うそだろっ!?」


“!”



ナイフの刃は、合体しようとしたアーマー部品によって挟まれて、それよりへと刃を刺すことはできなくなった。

つまり、アーマーパーツによって、レベッカのナイフは、“白刃取り”されてしまったのだ。



“それでもまだっ”



直後にレベッカは、ハンドガン“チーフイーグル”を使う判断をした。

残弾は二発。

自由な左手で、腰のホルスターへと手をかけた。

しかしそれよりも早く…――あるいは同時に…――



「あ、あたってほしいのねんっ!!」



フェリは、ランスに同軸装備された機銃のトリガーを、これ以上にない程の力で、引き絞った。






ゼロ距離射撃…――というやつだ。






     * * *








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