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第四話 分話版 4-2


     * * *




###2




「ゲームセンター、か」




足かけ五分の、聖ヶ岡の駅の一個となりの隣町…


その商店街の細い路地を入っていった先に、ユウキの招く場所はあった。




「“GAME、とと”……ね、」




昼前の、揚がりかけの昼光に店内は包まれていた。




うらびれた具合に、程良く寂れている。



さりとて完全に人の入りが途絶えたのではなく、老齢の老人や小さく幼い子供たちの二世代対極が、年期の入ったゲーム筐体との遊興をこころゆくまで楽しんでいた。




まるで銭湯のような空間であった。




「こっちこっち!」


「うむん……?、 ! 」



そうしてコウスケは、それと対面させられた。



「これは…っ」


「しらねぇーわけねえよな?」



エアホッケーのゲーム機盤をさらに巨大化させた全体像…大きさと形状をしているこれが、ALEXによるビーターゲームをアーケードゲームの世界に取り入れた、KONAMI社製“BATTLE MASTERS”の実筐体である。



半世紀近く前の自社のコアヒット・ゲーム、“武装神姫バトルマスターズ”シリーズのキー要素である神姫バトルの筐体をイメージして、フェアリーメイデンの普及初期の頃、ビーターゲームへの“妖精”の参戦の黎明期の頃に、KONAMI社がリリースをしたALEX対戦卓盤のそれであった。




「…すげぇ、」 「だろ?」




いや、いやいや、自慢げに誇ってくるユウキには悪いが、浩介の感動しているポイントはそこではない。


まさか、この最初期タイプの物を現実の本当に見る日が来ようとは…ー浩介はやや興奮の感情で鼓動の高ぶりを感じる程だ。


なぜなら目前のこれは、ベストセラー人気のアーケード・ゲームとして、稼働開始から改良と機能追加の進化が連続的に続けられたビーターゲーム用神姫バトル型筐体のシリーズの中でも、その機能が最低限のものしかない、初期型のBタイプ、とマニアの間では通称されるものであった。





「まあまあやってみろって、オトコはドキョー!」


「あっ!」




一回、二百円。


コインの投入を済ませてしまったユウキであったが、どうもこの流れだとバトルをするのは自分のようらしい…はぁ、と重量のないため息をついた浩介であるが。



「おきれるかー、フェリー?」「うにゃ…?」



今日も巻き込まれる形のフェリには申し訳ないが……(汗



さて、この、通称・神姫バトル筐体には、実ユーザー同士の対戦を行うための2P~モードだけではなく、筐体本体に内蔵された完全なCPU機…ー妖精が一体、入っているのだ…ーとのゲームを行うモードが設定されている。




「いっとくけど、チョーーーーつええかんな、“レベっち”はっ」



ごくり、とフェリは息を呑んだわけであるが…――



がちゃ、ごぅんごうんごぅん、…と、筐体の内部から上面天板へと、フェアリーメイデン昇降用のエレベーター装置がせり上がってくる。


そしてその音が終了しかけ、卓盤の上にエレベーターが昇高しきり…ー





「にっひひ、けちょんけちょんにされちまうがいいさ。なんつったってオレがかてねーんだもんっ?」    「ン……!?」





姿をあらわしたそれは、まるで舞台挨拶をするバレリーナのように、浩介とフェリへの一礼をかしづいた。





“「いらっしゃいませ、おきゃくさま、?」”





RMXー1、レベッカ。



その頃はまだ半分アングラのコンテンツであったフェアリーメイデンの黎明期の頃、いちはやくその可能性に気が付いた精密機械大手の柏原精機が、あのファースト・フェアリー、おるすばんひまりの開発にも参加した事でその猛勇を知られる、フィギュア…特にアクションフィギュア方面の実力を誇るホライゾン・アーツ・カンパニーと共同で開発と発表をした、純ホビー型としては史上初の、歴史に残る名機種、“オールド・メイデン”の一つである。




ぱっと見は、プロテクト・アーマーをやや年長あたりのロリータ少女のプレイメイトのコスチュームとしてゴシック風に仕立てたような感じもある。

つまりは俗にいうミリタリー少女、メカ娘的なデザインラインの外観設計と武装の選定がなされていて、このレベッカのヒットこそが、ALEXホビーに於けるフェアリーメイデンの展望のあり方を形作った、とさえいっても良い。



そして、何よりも特筆するべきなのはその廉価な価格であり、最初におるすばんひまりが同梱されていたPCアダルト・ゲームのスペシャルパックが十四万円、後に出た単体販売版でも十万円以上したのに対し、このレベッカは七万円台~…店頭での実際価格では五万円を切ることもあった…~の、つまり一般的な廉価パソコンと同価格帯の破格のプライスを実現。初期のフェアリーメイデンの爆発的普及に弾みを付けさせただけではなく、長い間、フェアリーメイデンを始めたい初心者にとってのエントリー機種でありつづけた。



しかし、その低価格を実現するための大量生産・大量卸・大量販売の販売戦略が裏目となり、特に同封武装部の不良品の多発や輸送時における破損品の続出による店舗側利益率の悪さ、それから販売の最初期ではあるが、あまりにも瞬間的に大量が売れすぎてしまった為にサポート体制が間に合わなくなってのユーザーからの不評…などへの影響となって、商品営業には弊害がたびたび発生した。

さらに泣きっ面に蜂とはこのことで、それらの問題が解決された販売後期からは、既に、同時期の他社からのライバル製品や、後継機種などの自社商品も含めての、レベッカの成功を受けて続々と各社が参入を開始したことによる、より多様化してモチーフのバリエーションが豊かになった後発製品の追い上げの前に、とうとう末期においては“在庫様”と呼ばれた程の、実際の商品消化の速度に供給が過剰となってしまったが故の光景…店頭のワゴンにうずたかく積まれたレベッカの箱のことを、未だにネットの住人の間ではネタにされている程であったし、かとしてレベッカ機種のファンの間でも、半ば自虐・自嘲となって口にするものも多くいるのが現在である。




だが、市場へ大量供給されたマスプロダクト・ホビーのある側面での宿命の通り、多くのユーザーに確実に多くの製品が行き渡ったからこそ、意外な事に、セカンドユース市場に於けるレベッカの未使用美品・完品の存在というのは希少で、そのことから、中古販売コレクターズ・ショップなどでは元の値段の三倍近くのプレミアが付けられて販売されているのが実体だった。


それが理由かは不明だが、頻繁にレベッカの復刻再生産の噂がコレクターの間で持ち上がっては消えていくのが、ネットの海の潮の満ち引きでもある。





ビーターゲームにおけるALEXシステムとしての性能は、フェアリーメイデンの能力性能の進歩が著しくなされた現在においては、可もなく、不可もなく、…俗に言う“モブキャラ”相当のものであった。

すなわち、こうした対戦筐体のCOMとしては妥当かつ優秀、という意味でもある。




それから、神姫バトル筐体の初期から中期後半にかけての物には必ずといっていいほどにレベッカが搭載されている理由は、それが、廉価を維持するための過剰生産によって在庫がダブツいて浮遊していたメーカー側にKONAMI社が直談判の商談を持ちかけ、倉庫三つ分とも噂される程の数を一括購入の現金ニコニコ払いによってかなり安価にフェアリーメイデンの大量調達を成功させたから、という企業努力の事実だという事を、そのスジの事情通は決して欠かして語ることはしない…






そして、今、目の前の盤上に立つのは、身体のスーツと全身の機装に漆黒の黒を纏った…黒いレベッカであった。






「すげぇ、」「ほえー」




「だろ?」




「おしとやかなレベッカなんてはじめて見た(愕然)「そっちかよ!?」」






レベッカ型というのは、本来、明るくて活発で熱血で無茶で無謀な性格設定をされている。




~~っス、……っス、とデフォルト標準ではなにかにつけ語尾にーーっス、を付け、根性根性テラ根性! が口癖で、そのくせ、死亡フラグをよく立てる。例えば、「俺、こんどマスターに××してもらうんだ…」等、




要するに体育会系熱血ヤロウ、 We can Meke it!(つのだ☆ひろ) と好しくいってもそうなってしまう程のそれであり、それはレベッカが、突撃兵型とタイプ種別がされているからの、…ものなのかなあ、なんなんだろう、よくわからないや。うん。




だもんなので、この目の前の漆黒のレベッカは、さしずめ、パチモン、あるいは中身だけが別物なのか…ーとも浩介は勘ぐったのだが、




“「さぁ、はじめましょうか。昼餉の時間におくれてしまいます」”




「おおおお、俺は白昼夢でもみているのか…? いや、微粒子レベルでその確率が存在していたとしても、俺が今まで見てきたレベッカってのは、なんつうか、こう、悲しいけど、これって戦争ビーターゲームなのよね、とか、嗚呼、時がみえる…、とか、やらせはせん、やらせはせんぞー!、だとか、アル、元気にしろよ! だとかなんとか、とか、アメリアー!(燃焼) だとかとかとか、カミーユ、俺はおまえに(爆発)とかとかとか、俺って、幸運を呼ぶおと(ローエングリン)みたいなだとかとか、とか、…ーうーn…ー」「にいちゃん、どうようしすぎだよ」




浩介はしばし頭を捻り、




「あのー、」




“「何か?」”




「失礼ですけれど、お宅、ほんとうにレベッカさん?」「うわ、本当にシツレーだっ!?」




“「まぁ、」”




ついぞ思い余って尋ねてしまった浩介であったが、一方の黒いレベッカの方はというと、くすくす、と慎ましく淑女の笑声を漏らすだけで、





“「ひみつ、にしておきます、」”




「…ーあ、」




その上、こんな事を言われるのに至って、浩介はこの目の前の黒いフェアリーメイデンはレベッカでは絶対に無い、という決断を下したのであるが、まあとにかく、



###3


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