分話版 第三話 3-5
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「やぁーーってやるぜ! グレイターオーン!!」
それに気づきコウスケの顔が真っ青になる瞬間は、嘶きを揚げた相手のブラキオサウルス型戦隊ロボ・ファイヴグレーターが、フェリに向かい射撃の一斉射をしかけてくるのとは同時であった!
「フェリ、耐えろ!」
「あっ、ひゃっ……ひゃうっ!?」
━━ファイヴグレーターからの射爆を、フェリは耐えることしかできなかった。
コウスケがそう言った次の瞬間、色とりどりのレーザーやビーム(という設定)の、
猛烈な銃撃とその着弾の砲爆が、フェリの直近で炸裂した!!
「フェリ、大丈夫か!?」
「な、なんだかくらくらするよぉ~…」
ホログラムによる爆炎の特殊効果が、たっぷり四秒もたゆたった。
そうしてファイヴグレーターの射撃兵装の砲口からのホログラム投影が終わり、それが晴れた次の瞬間、西住みほのあんこう踊りのようにふらふらになったフェリはぺたりと地べたにへたり込んだ。
「被害はっ」
判定、直撃弾無し。されど至近弾三発…
同じ瞬間はコウスケもスマートグラスのプロジェクターで観ていたので、こちらに向かって吸い込まれる無数の弾火……というのはこれまでのALEXバトルでさんざん慣れた場面とはいえ、フェリの恐怖とたじろぎが伝わってきて若干背筋寒く感じた。
なにせこの娘にとっての初めてのビーターゲームだ。フェリにとって勝手のつかめたものではないし、一方のコウスケは咄嗟に防御の指示を出したことで減り方に加減が掛かったとはいえ、フェリのHPがじわりと削れたのに歯噛みするしかない。
ビーターゲームのルールと仕組みは、ALEXオートマトンに元々備わっている電波強度チェッカーを利用したものだ。
ALEXオートマトンの全身は、wifiやブルートゥースなどのアンテナとして活用可能なように配線系統と半導体デバイス機能の配置が施されている。
このため、それらの電源作動をオンにした状態でALEX同士がパーツを近づけさせたり、あるいは接触させたりさせようとすると、パーツ個々からの個々の電波が無線LANマネージャによって認識される現象が起きる。
この干渉の度合いとその電波の電波強度を電波強度チェッカーで観測することによって、相手や自分からの攻撃の威力判定を行う……というのが基本原理だ。
そうして射撃武器などの使用に関しては、そういった射撃兵装のパーツや部品内に仕込まれた、ビジュアライザーと通称されるホログラム投影装置によって視覚的特殊効果を展開させ、それと内蔵無線チップによる無線波のビーム照射によって命中判定を行うというものだ。
つまり嘗てのビルドファイターズにおけるガンプラバトルとは違い実際に傷を付けたり壊しあったりしたりするものではないのだが、
元々、この技術はあまりにも目に余る、ALEXに対する虐待的待遇……アメリカや欧州各国の射撃場での、日本円と欧米貨幣との通貨為替の詐欺的ダンピング(ハンプ&ダンプ)によって(当時、本来なら一体十五万円ほどするフェアリーメイデンを一体一円以下で売らされたという)大量に日本から仕入れられたフェアリーメイデンの、それを使用した“動く的を利用した実弾射撃ゲーム”が問題となったとき、代替案として、さらに札付きにマナーの悪い欧米や朝鮮半島のハッカーやクラッカーによって行われていた賭け試合のネット配信違法興業で用いられていた、
物理的破壊を伴うALEX同士のバトルロワイヤル・ゲームの行われ方が先出していたが、それとは全く異にするべく入念な検討が行われた結果、現在のルールと遊び方に落ち着いたという経緯を持つ。
「ふにゃぁぁぁ…」「フェリ、第二波だ!」
“いっけぇ、グレーターサンダー!”
「にゃ?」「フェリぃっ!」
━━SHUVARMM!
「はにゃぁぁあ!?」
「フェリー!!」
続いての二撃目、雷の如き電光がフェリに直撃し……
直撃弾二!
「ほぇぇぇぇぇぇぇ……」
「あぁあっ、ちっくしょー!?」
へたり込んだままのフェリには、二射目を避けることも防御することもできなかった。
派手な大爆発の映像効果のあと、くろこげの視覚効果がフェリにエフェクトで投影された……あっ、冷却液もらしとる。
(HPの残量はっ)
四分の三。
(どうすれば)
こんな子供からの挑発…そもそもトンズラこけばよかったのだ。
しかしそうとして、
これが普段使い慣れている鶴来家のエース・ゾイド・アロザウラーのあにーちゃんや手持ちのガンスナイパー・スナイプマスター、しもべのゴジュラス達、ゴッドカイザーのヴィゼイルさんだったりすれば、こんな奴はあっと言う間にヒットポイント0にしてやれることができるのに!
「えぇーっとな、フェリ、立ち上がることはできるか!?! それから……、それから………、それから…………、!」
「が、がんばるよぉ~…ふぇっ!?」
これだ! というコウスケの叫びが木霊した。
フェリの股下の小の粗相の跡は後で拭き取るとして…
なにかに思い当たったコウスケは
オタク・ルックな服の小物が詰まった左胸ポケットをまさぐった後、そこからそれを俊速に取り出し、
「これを使え!」
━━そういって同時にフェリへコウスケが放っていたのは、
「ますたぁっ、これは?」
ツァ! ……と土塊の地面に運命の聖剣の如く突き立ったのは、
外観は、三色切り替え式のどこにでもあるボールペンだ。
「ビーターゲーム基本二十箇条ルールその四、対戦中のサレンダー(降伏)とALEXマスターによるセコンドは自由に行える……!
フェリ! そいつは得物になる奴だっ」
「わ、わかったよん!!」
承諾したフェリに、コウスケはさらに説明を加えた。
「いざとなったら彼岸島によろしくってところだが……まずそいつのペン先を相手に向ける形で抱えた後、ブルートゥースの認証コードは〈bgc-sample〉、そのボールペンのクリップ部の下に引き出し式の収納型トリガーがある。手前のスイッチを押して、それを引き出すと……」
「……ほぇ? これって、照準だよねん?」
“! そ、そそそそそれはっ、ま、まさか……”
「あらー」
コウスケのスマートグラスの右側には、フェリの視点に照準のレティクルが出現した様子が、
それから、なにか宝物を見つけたような表情とうろたえかたであわて出す少年(仮)の様子に、
そうさ、そのとおりさ、…と言ったコウスケの笑顔が悪いものとなった。
「フェリ、ぶっぱなせ!」「ラジャー、なんだよん!!」
そのボールペン型暗器の切っ先が一瞬の輝きの後にファイヴグレーターに向けられ、そしてフェリがトリガーを引きはなった次の刹那……
BUWROOOOOOOOOOOOMMMM!!!!!!!!!!!!!
「わっ、わっわ、わっ……」
“な、……なんじゃこりゃーーーーーーーーーっ?!”
━━まるで花火大会を水平直射でやったかのような派手派手しい光と炎の雨霰(の、ホログラム)がファイヴグレーターに吸い込まれたのがこの瞬間だ!
そうして一撃を食らったファイヴグレーターが苦しみながら苦痛の叫びを上げ、大爆発のさなかで悶え苦しみながらよろめくのと、その堅牢で強固という設定譲りの鉄壁なファイヴグレーターのHPががくっと五分の二ほど削れたことにコウスケが安堵とともにぐっとガッツポーズをしたのは同時だったのだ。
「えーっとですね、このうるちが説明しますと、いまとなってはムゲンボーグ型などの普及で珍しくなくなりましたけど、その外観型ですと…五年前のワンフェスで、とある老舗文具メーカーが試供品として二千個しか配らなかった、武器のようなボールペンではなく、『武器になるボールペン』ですね? そうしてその威力は、当時の数ある新規参入ALEX用具用品メーカー製の中でもとびっきりに“壊れた”ものだ、とも」
“! それだっ!!”
ああぁー! おれももってたらー! あんときにそれがあればー!!!
…と悶え苦しむ少年(仮)の様子はさておいて、
「LANチップ・ビジュアライザー内蔵型ボールペンだとか、当時から酔狂だとは思っていたが……フェリ、もう一回だ!」
「わかったよん!」
そうして再びフェリが正式名称ボールペンガン・キャリバーの銃口を再びファイヴグレーターへと向け……
「いざ、尋常に!」
カチン、
……ん?
カチン、カチン
スマートグラスの表示は、“弾薬欠乏”(AMO ENPTY)。
「ば、バッテリー切れ……」「ほえーっ!?」
目をぐるぐる丸にして愕然するしかないフェリに、流石に五年も電池交換せずに放置していたら……という当たり前の事実にようやく思い当たったコウスケであったが、
“いっけぇ、グレーター・バイトファング・スイング(GBFS)!”
「えっ、」「あっ」
そんな格好の隙を見逃してくれる相手ではなかった。
「フェリー!!!」「ふにゃあああぁぁあああああぁぁあああぁっ!?」
少年(仮)は今のこの隙の内に、ファイヴグレーターに一気に接近するように、という指示を出していた。
そうして四脚恐竜ブラキオサウルス型戦隊ロボ・ファイヴグレーターは、ともすれば鈍重とも取れる重厚な外観からは考えられない、本家東映特撮譲りの華麗な早さで一気にエリス型FM・フェリへ肉薄した。
そしてなにをするかとくれば、そのフェリの胴体をファイブグレーターの頭の口でくわえ込むと、そのまま大きく振り回して……放り投げたのだ!
「あっ!」
放り投げられたフェリは為すすべもない。
そうして為すすべもないまま、飛んでいった先は……
堤防の斜面だ。それをフェリは転がり落ちるしかなかった!
「ふぇぇぇぇぇえぇぇぇっ?!」
初春の草葉が優しいクッションとなったおかげで傷が付く、ということにはならなかった。
しかし着地する暇もないままに転がり落ちていって、フェリがようやく行き着いたのは藪のくぼみであった。
「うぇぇ…ますたぁ~…ぁっ」
『フェリ!!!』
藪のただ中に、場違いな天使が一体現れていた。
そのエリス型フェリは思い返した。ほんの二十分前ほどには、チェシャ猫の木の店内で楽しくショッピングをマスターであるコウスケとしていたというのに……
『ますたぁー…!』
『ふぇーりっ(イケメンボイス)』
目当てのベッドと今日のご飯とおやつに目星をつけてから、それからかれこれ一時間もウィンドウショッピングをしていたのだ。
そんな楽しい一日のはずだったのに!
「うぅうっ……うぇぇえぇぇえええ~っ……」
起動してから間もないのもあるし、そもそもエリス型は基本人格に幼さの特徴があるのがミソだ。
そうなのでフェリは我慢しきれず、泣き出してしまった。
“迫撃だ、ファイヴグレーター!”
「えぇいこのっ…フェリ、大丈夫か!」
「ますたぁぁ~…っぐすっ、どこにいるのねんっ?…どこにいるのねんっっ?? …ぐすっぐすっ、ひっぐ」
チクショウ、なにもかも勝手が違う。
もうこうなっては、こちらは戦闘継続不能だ。
その上で、少年(仮)はファイヴグレーターにフェリに対する追撃を開始させているし……
(サレンダーだ)
コウスケは決意した。
* * *
「ますたぁ、ますたぁ、…うえぇぇぇえぇぇっっ…ひっぐ」
一方のフェリは藪の中で必死に暗闘していた。
泣き続けるしかなかったのだ。
自分の非力さに涙していた。
ついさっき購入したベッドと今日のおやつとで、今頃はブリリアントですてきな午後をマスターであるコウスケと楽しめていたのだ。なのに…
“ギスキャーオっ”
「ふぇっ…」
さらに追い打ちをかける事態は先刻から始まっている。
ファイヴグレーターが崖下りならぬ堤防下りを開始しているのだ。
(ふぇぇっ)
ボールペンキャリバーなら手放さずに今も手元にある。しかしバッテリー切れだ。
こうなると彼岸島よろしく丸太の代わりにもなろうか、というところだろうが、しかし首長竜型であるファイヴグレーターの長大な首とその先端の頭の口をつかったバイトファング攻撃には、こちらのボールペンではリーチが短すぎた。
(でもでもでも)
しかし今、フェリは思い出した。
今のこれはビーターゲームなのだ。降伏も自由な、ただのゲーム。
でも、このままではフェリのベッドとおやつとごはんは相手のものになってしまう! ……どフェリは思っていた。
(なにかあるといいのねんっ)
涙を拭うのも忘れたまま、武器を探そうとフェリは動いた。
藪の中を見渡してみる。
…━━どうみようが草と土と石ころしかない、ただの草藪だった。
しかし、
(あっ、)
藪のくぼみの茂みの端に、何らかの入ったダンボール箱があった。
水を吸い、湿気て腐りかかっているのも同然の状態だ。
その脇には、“割れ物注意”“ご自由にどうぞ”、の示し書きが、
そうしてフェリはその中身を確認し…━━
* * *




