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3書きかけ









「要するに、あたし、思うのよね? 例えば自分の、この世界に私が生まれた日からの想いびとがある日理想のお嫁さんを見つけてしまって、出会ってしまって、その女神さまの国に連れ去られてしまったらどうしよう、とか、」





緑茶党である悠里はそれだけを発してぐびり、とグラスを傾け、





「…ま、まあ安心しなさいっ! 例えそうなった段の後のておくれのおしまいの段取りであったとしても、この志津菜流格闘生存暗殺術八段の有資格者たるこのあたしこそが、例え火の中水の中、灰になってようがドザエモンになってようが、かならずあんたの指の一つは絶対に手に入れて…ー!「ますたぁマスターますたあ!」




「なんだ」




「呼んでみただけでしたぁーっ!(あんこ)」




「………」「………」




べしっ




「ひゃうっ!?」




全く、こいつは…


必殺のデコピンを軽~くその額に与えてやりつつも、浩介のその顔はデレデレのにやにやだったとさ?





急速に言語能力を獲得しつつあるフェリは、ものの数時間でここまで会話できるようになった。





生まれたての子鹿でもこうはいかないぞ…とも思いつつ、しかし、感動である。





「あっ、そうだ!」




コウスケは瞳に電球を点らせた体で手をハンマープライスさせると、




「今日はお祝いに、昨日ためしてみたレトルトの模造フェイクハンバーグはどうだ? 一流の三つ星有名ホテルのレストランの専属シェフの持ち妖精が監修の、あの! 煮込みハンバーグの! なぁフェリ!」



「!」




果たして浩介からの提案を受けたフェリ嬢はというと、ぱぁ…! と顔を輝かせて、その表情をころころと喜びの物に美鈴を転がすかのように浮かべさせてから、




「たべたい!」



「だろぉ? 後で、準備するからさ。いや、今のこれがとっとと終わり次第、直ちに直ぐにでも…ー「ちょっと、」






「……………」「……………」「………?」






悠里はジャパニーズ・ゴメンネ・チョップを浩介の顔と卓上のフェリとの間に差し込むと、それからこほん、と咳を切ってから、





「だからさぁ、思うのよ、って。もしそうなったらば、首でもくくっているだろうあたしは果たしてこの世から未練なく成仏できるのかって、つくりもののロボットの妖精なんかに初恋からのずっとの相手をとられたあたしは、果たして狂わないでいられるのか、って、」




この時ばかりは、笑っていない。




「だからあの日、その前に、そうなる前に実力行使にでたの。ヤンデレ? そりゃあ上等よね、レイプ目でも空鍋でも包丁女にでも、GOAL! なんてのも、ナイスボートなんてのもその段になったらなってやるわよ。ええ! えぇ…うふ、ふふふふふ…ー


そ、そっそりゃあ、悪かった、とは思ってるわよ…ーでもあたしにはなんにも買ってくれなくなったのに、妖精なんかにはあんな大金、…ー


そんなんだったからさぁ! 昨日は! 大喜び! しましたとも! ええ! そりゃあ大喜びしますともさ! 好きな相手から三年四ヶ月十六日ぶりにプレゼント、だなんて! しかも! コージーコーナー! いちごのしょーとけーき! あたしの大好きな! さぁ! でもさぁ! あやしいなぁ…、だなんてつい疑っちゃったあたしなんかの、厭な女だっていうような気持ちを! そんでもってガサ入れしてみたら実際その通りだった! ていう! その惨めな気持ちをぉ! あんたはどーやってオトシマエをッ「ますたー!」「ふぇ~り?」







「「あーん!」」




「…」




だん!




「ひゃぁ!?」「なにすんだよ、フェリがおびえただろ!」



「しゃがらっしゃぁ!」




卓上のフェリは小さじスプーンで今日のメインディッシュの肉じゃがを、対面するコウスケはイチゴ味のヂェリカンを差し出して、二人はあーん、の格好で…ー悠里がそれを阻止した。




壁ドン、ならぬテーブルの叩きつけられたその瞬間である。




「ああったく、悠里はなんでこんなに妖精をぉ…、」


「パードゥン? アーハン?? んなことはどうでもいいわ。ロボットなんかと人間サマとの恋愛ごっこだなんて、茶番もいいところなのよ!」




コウスケはロマンのわからない奴め…と苦い顔のしきりであったが、

もう片方は、というと…しばらく意味が分からずきょとん、として、けれど、あまり自分にとっていい意味ではないのだろうと想像して、フェリはひどく傷ついた表情になって、顔を伏せた。




「一番重大なのはねぇ??」




悠里はかぶりを振って、




「な・ん・で、フェアリーメイデンをあんたが持ってんのか、って事よッ!」




だぁん! と…再びテーブルに雷鳴が落とされた。




「ふーん、」



しかし、一方の浩介はどこ吹く風で、




「なんで、って、おれのオトウチャンとオカアチャンからの三年越しのクリスマスプレゼントなんすけぉ(不満)」



「見たわよ! 行って勝たなくても、あんなんなんかのトラップに決まってるでしょぉ!!!!!!!!!? きっと、何かの新手の詐欺商法かなんかなんだわ! そうなのよ! とっととクーリングオフしなさい! 妖精を! クー!リング!オフ!クー!リング!オフ!(海王拳みたいな節のつけかたで) さっさとへーんーぴん、 Go Do it!」



「“おぉおおぉおおぉ怖いでちゅねーフェリー? リアルの女はこわいでちゅーーーーー”相変わらずなにいってんだかワカンネーし、生身の女なんざはこれだから、」「こわいですねぇ、」



「エェーイ、あんたの! そこが! ダメなのよ! ゴラァ!! こんのピーピング・トムのフェアリー・ファッカーが! 罰当たりなのよ! 人間なら人間のことわりに従いなさい! ここに!カワイイカワイイなまみのおんなが!いる! あんたのおもう通りになるのに! なんだってできるのに!やれるのに! チクショウ! 私ごとゴッドのサンダーにバーストされて燃やし尽くされればいっそあの世で幸せなケッコンセイカツを…“「やめてよね、」”…ーえっ、」




この瞬間、瞬時にイケポされてしまうチョロインになる程にいつになく浩介がイケメン・フェイス(SIDE:悠里)で己への応対をしてくれていようとも、




「フェリの教育に悪い」「それじゃねえけぇ!?」「ますたぁー」




やはり、その手元からこの忌々しい妖精が離れることはないのである。





「うぅーっ!」




悠里は、それが悲しくて、悔しくて、女々しくて(金爆)




「…ーハッ、まあいいわよ、あーあー、いわんこっちゃないなーぁ? 妖精を手に入れたばっかりにガッゴーも休んで、あの下級生つーか女とイチャイチャうふふ、なんかしちゃったりして、中学校じゃないんだから、今に留年しちゃうんだから!」



「むしゅめの入り用に手間を惜しまないのが親なのであることはお前が一番よくしっているはずだッ!(スタンド発動) つーか、保育園から一緒なんだから分かるだろ? 不味くなってもおまえが教えてくれてるからこその、俺に足りてないのは出席日数だけだ、って」



「それが致命的なのよ!? キーー! これだから! こっちの苦労を! わかれ!

えぇい、クソッタレのふぁっきゅーのプッシーキャット・イアイアイア! だわよ! なによ、初体験も済ませてないのにこんなに所帯持ちずかれてたまるか! っての!「…………、」なによ!」




「………」「………」「?? ?」






「あのな、悠里」「なにかしら」





一拍の沈黙の後、浩介ははぁ、とため息を吐いてから、





「なんで、そんなに妖精がダメなんだ」




ようやくそれだけを、問うた。




「うっ、」




すると途端に悠里は水をかけられた砂のように固まって硬直し、顔には脂汗を浮かべながらジロジロきょろきょろと目の眼球だけをあっちだったりこっちだったりに忙しなくさせて、




「どうなんだ?」



「だ、だって、………から、」



「何か?」



冷静に追いつめる浩介だった。

ついにその追撃に、悠里は溜まりかねた感情を爆発させて、



「だ、だってぇ! …人間の女よりもいい、っていうじゃない」



「 それが、なんでお前に関係あんだよ 」



「…~~~~~ッ、、、!」



わかっていた。

こういわれるだろうことは、わかっていた。

だけど、この一言の言葉が、何より悠里にとっては“凶器”だった。それも、思わず心が怒りやら哀しみやら不満足の感情で瀕死になるくらい…




「な? 関係ないだろ? 分かってくれるか? ん?」



「いやだ、」



悠里は、嫌々をするように俯いた首を左右に振りながら…



「いやだ、いやだ、ぜったいにわからない。こうちゃんのこと、わかってあげない。絶対に……、………と、ところで、…今日の肉じゃがおいしいでしょ?」




「あっ?? あぁ、毎度済まないな。おかげで飢え死にすることなく今日まで生きていられる。それともあれか? なにか裏があるのか…」




「大丈夫よ。物理身体的な出世払いで決済してもらうつもりだけだから。」




「はぁ?」




瞬間、牝の顔になって浩介の身体を一瞥した悠里であったが、毎度のことながら意味が分からん。




「「はーああ」」「ますたー」



ため息をつくのも同時だ。但し、浩介はようやくこの軍事法廷が終わることへの安堵の、悠里はやはり浩介がすぐには己の物にはならないのだ、という今日も同じの確認に対しての嘆息の物の、




「ところでさぁ、」



ここで、浩介は手札を切った。




「なに?」



「こ↑・れ↓」



「あ゛っ」




バサリ、と浩介が食卓に投げ置いたのは、果たして今年度春夏モデルのフェアリーメイデンの、各メーカー・カタログのそれである。




「なんで、これが、かつてはこの家の応接間で今はおまえの隠れ家っつーか秘密基地っつーか前線橋頭堡っつー具合になってる我が家の部屋にあったんだろうなぁ…「覗いたんかいっ!?」おたがいさま、だろ、」



浩介は、コホン、と咳を切ってから、




「んなのはともかく、どうなんだ、」













…劇場版パトレイバー一作目の虚影の街のテーマが流れているんではなかろーか、というぐらいの長い沈黙が、落ちた。









「なぁ、」「ひゃ、ひゃい…」




カミソリ後藤が降臨したコウスケは、ゲロらせるための下剤の無慈悲な使用を決定し。











「まさか、そんな、二人でおそろいの妖精を買ってペアルックならぬペア妖精、だとかとか?」



「 ! うん!」









………




「………、」




んーとね、きみね、




それはね?





「キモい、んですケド」




「…ーは、」






確信した言葉のままに、言っただけである。






それに対し、悠里は、





「 」





がぁん、がぁあん、がーん、………という様子で、悠里は愕然と絶望と戦慄とそしてやはり絶望と…で、その顔が紙コップの中の水にスポイトの染料を垂らしたかのような、すなわち色付き水の作成過程かのように、一瞬で染めあがった。





効果覿面? みたいな??(アンゴル・モア)





「………」




「…、え、」




…縁、切り? えんがちょ? びろーん、? あはは、いやまさか、そんな、…………、




…、こ、



こうちゃんに、こうすけちゃんに、こうすけちゃんから、まさか、こんなぁっ…うぇ、うぇえぇえええええええええ…、






「おぼえてろーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」







ESCAPE に 成功 しました







「………」「………」





…二人残された浩介とフェリは、





「…………」「…………」




…………




「食べるか」「はぃっ」





肉じゃがを片づけることに着手したのである。








     * * *












「クレイドルを買おう」「はひ?」




果たして、その翌日。休日の朝、




「ふぁーい…?」



「おぉお、姫よ、めざめるのぢゃ…俺もねみいけど。ふぁ、」



「うーぅ…んにゃ、」




そうしてフェリは、精密電化製品の範疇であるフェアリーメイデンの、スリープモードからの高速な復帰を可能にするためのサーモ・スタンディングの機能を持つ妖精用・敷き布団とその疑似フェイク羽毛布団のセットの中へと再び身をうずめさせた。見た目が(日本人の想像の)ヨーロッパ的天使の正しくそれなエリス型が純ジャパニーズなフトンのセットを手放さない事に、萌え、と浩介が思ったのは別として…




「まぁなぁフェリ、まずはこれをみてみてくれ、」


「ふにゃぁ?」




そう言いながら浩介はベッド脇に放り投げていた自分のスマホを手に取り、素早くパスワードを打ち込むと、そのネットブラウザの機能で先日ブックマークしておいたとあるウェブ・ページを読み込ませる。そして、その画面を布団バーガーになっている寝ぼけ眼のフェリへと見せた。




するとページが表示された瞬間…ー




「どう思う?」



「 ! わぁ…っ!」




フェリは発見への喜びで目を見開き、布団を被る手は離さないまま、わくわく、という感情の面もちで、浩介が操作するスマホの画面のスクロールを食い入る顔で見入っていた。




そのページの正体とは?




「すごく! おっきぃです!」


「だろぉ? この、お姫様ベッド。」




どどーん! 阿部さんでは当然なかったよ。



画面に表示されていたのは、天蓋付きだったり、フリルだったり、カーテンがついていたり、ゴシックだったりヨーロピアンだったりバンブーだったりハラジュクであったり…そのようなとてもたくさんの多くの“ベッド”が、その持ち主のフェアリーメイデンとともに写されている写真の数々であった。



このウェブサイトの正体は、“あなたのベッドを体験し隊!”というそのスジでは著名なSNSであり、今時のネットの潮流よろしく、ALEX知性が開設してALEX知性が参加しALEX知性が楽しむ為の、フェアリーメイデンとそのマスター、あるいは妖精愛好家の為のサイト…妖精の花園…なのである。余談だが、ここにはR-18のジャンルコーナーがあり、大変に、その、…gfff…



とにかく、そう、これこそが、“クレイドル”…ーALEX用の充電器スタンドであり、特に少女や女性の外見をしているフェアリーメイデン用のは、このように華やかな装飾がされている物も多数リリースがされていて、ただの充電器とは一線を画する独自の商業展開がなされているのである。




「すっごーーい!」


「ほら、ここを読めばフェリの先輩たちの体験レポートも載ってある。例えばこれなんかは、“デザインは良し。しかしクッションが堅く、G-セルフ(隠喩)やマスターとの秘め事をするのには少し手狭でギシギシ音が…”……次、行こうか、」「?」



わからないフェリを愛おしくおもいながらも、いつかは自分も手を出してしまう時がくるのであろうか…と浩介はちょっぴりダウナーになった。



…しかし、何もいまこの現状でフェアリーメイデンの充電器を持っていない訳ではない。



浩介が現在保有するALEXシステム・オートマトンの充電装置であれば予備も含めて多数現有し、

フェリの温もっている布団の下に端子を潜り込ませてもあるように、今の世の中の標準であるHi-USB規格の端子ならば、端子部分先端に非接触充電の機能が最初から組み込まれているのでアレックスシステムの充電“だけ”ならばできる。




だけれど、やっぱり、せっかく女の子の娘を授かったからには、その親の気持ちを最大限に満喫したいのが人の心のなせる技であった。





されど、フェリ嬢は「?」の顔を考え浮かべると、浩介の手をちょいちょい、と触れてから、





「ますたー、お金、はだいじょうぶ、なのですか?」



「心配しなくとも、」




疑問の回答を持つ浩介でもあり、




「ここに俺へ悠里が置いていった四千円がある。あと二日分の、生活費の!」



「おおー」





ぱちぱちぱち、と拍手をするフェリはおいとかなくとも…






嗚呼、駄目男、





スケコマシやヒモ男のそれであった。








     * * *
















「「「「「ヒャッハーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!」」」」」





なんだ、この、ガキんちょどもは?




あまりの事に、“寝袋”の中のフェリもきょろきょろとしている。






この河原の堤防上の盛り上げ道の上で、前後から挟む形でコウスケを取り囲んでいる、現状況。


それとは、ハンドルの脇の警鈴ベルをバイクのマフラーを吹かすかの如くリンリンリンリンリンリンリン! とけたたましく一斉に威嚇を鳴らしながら、ビックリマンだったりバトシーラーだったりガムラツイストだったり、はたまたコロコロコミックや、こないだ復刊したばかりのコミックボンボンなどの綴じ込みでもよくあるキラ・シールだとかが近所のホーム・センターや大型家電量販店のコーナーでお父さんお母さんに買ってもらったのだろうそれのシャシーや各部にまんべんなく貼られていて、その上、ダブルフロントのライトやフラッシャー(死語)などによって族車的カスタムチューンがなされた、子供用自転車、その群…ー





即ち、おこちゃま珍走団のトライブ(族)に他ならなかった。




「「「「「ブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブン!」」」」」




口でブンブン言ってるくらいだ。


ツッパリやらスケバンやらカラーギャングやら…ーなどの格好をしているのでは当然だが無く、ごく一般的な、平凡でふつうの子供らしい格好をした、ふつうの子供達である。



ただ、一つ興味深い点がある。その彼ら彼女は、とにかく、年齢がバラバラなのだ。

中学校初学期くらいのちょっと抜けてそうな男の子が学校の学ランで台湾メーカーのロードバイクもどきに乗っかっていれば、対極的に、幼稚園年少くらいのおしゃま気な女の子がキャラクターダイスの三輪車に乗ってアンパンマンの電子チャイムをぴぽぴぽ鳴らしてもいる。そしてその両極までの年齢層の、性別もバラバラな彼ら彼女らこそが、そのトライブを構成する13人の子供たちである。









子供だ。

おそらくはおばあちゃんに着せてもらったのだろうちょっとセンスが流行のじゃなくて目立たなめのコーディネートの衣装で、帽子を被っている。

小学校に入学する直前くらいの年頃だろうその幼児が、まるで、自分こそがこの“族”のリーダーです、と言わんばかりの気風と威圧…ーといっても子供相応のそれだが、肩で風を切って…一歩、二歩、とこちらへ進み出てきた。




「そこの、セイネン」




ジャギ、ならぬこのグループのリーダーらしき帽子の少年…か? なんか気配というか雰囲気が違うような、まあいいや。とにかく少年(仮)が、前方のこちらへと一歩、踏み出てきた。



「ふん?」



帽子の下には、不敵な輝きを宿した大きくくりくりとしたドラ猫のような目。

なんだか活発とかヤンチャというよりは問題児、な雰囲気であるが、なかなか親からは可愛がられている様子だった。


なにせ身につけている服装が、ぱっと見は高級品に見えないように“仕立てられている”が、全部とある有名な子供服ブランドのテイラーメイドであったのだから…(ちなみに何故喪男のコウスケがこれを知っているか、と聞かれると、事あるごとに悠里が子供服やらベビー服やら結婚情報誌やらのカタログ類を持ってきては見せてくるからに他ならない)







そんなそいつが、すっ、と息を吸い、そしてなにをいうのかとおもければ、











「ケットー、を、いどむ!」











は、………




はい?




けっとー? ゲットー? 雛見沢ゲットー、 けっとけっとコミケット、ケトル魔人、ぷにけっと大好き!…ーはともかく、


決闘、だという意味の言葉なのだとはすぐに理解できた。だがしかし、決闘罪でしょっぴかれるぞ…ーと茶化すまでもない。





「ほーーーーう? 年上のおにーさんに喧嘩を売るなんて、イイ根性してんじゃねぇか。泣かすぞ」「べーっ」



「やれるもんならやってみろよぉ、このヒョロもやし!」「「「「「やーいやーい」」」」」



「んなっ」「 ! むーっ!」




ムカァ! かいじゅうムカムカ! …っとコウスケは怒髪天にトサカがキた。

ちょっとからかってやるつもりだったとは、口が裂けてもいうにいえない。あっかんベ、してたフェリもおこってくれてることだし、




「は、ハッ! …付き合ってられん。帰るぞフェリ。カエルが鳴いたらかーえろっと、」「そうなのです!」



「あっ!」




なもんで、コウスケは冷静に、冷たい大人の対応という奴であしらった、…ーのだが、




「アカリ、やれ!」「はーいっ」



「あん?」「ほえ?」




ばっ、と何かがたいあたりしてくる感触、そして…





「あっ、俺の、フェリのクレイドル!」「あーっ!」



「「いぇー」」





いつの間にかこちらの背後に移動していた少年(仮)の手下(少女)に、クレイドルの入った手提げをひったくられてしまったのだ!


んでもってヤッコサンとくれば、実行者のさらに年下らしい幼稚園児相当の幼女と、その命令者である少年(仮)とがハイタッチを交わす瞬間でもあった。




「おまえー!」「わたしのべっどー!」




「賭けをしようぜ、」




誠に遺憾なる抗議の表明をする浩介に、青空の下の背後の鉄橋に鉄道が通過する瞬間…-少年(仮)は不敵に笑み、





「ビーター・ゲーム。」





それだけを発した。


だが、それだけで十分であった。


なにを意味しているのか、よーく、理解できた。




「…っ」




「ルールは簡単、オレが勝ったら、このクレイドルはオレのもの。おまえが勝ったら…ー」




「ALEXシステム同士のバトルゲームでALEXのパーツを賭けるのは低学年層の子供同士の中でのローカル・ルールじゃねーか。それも、おこづかいが足りないから、弱い奴から巻き上げよう、っていう魂胆の! 元いじめられっこで現ぼっちの俺にぃ! それをぉ! 強制するというのかァ! うぅ…っ」




「そ、その、…ーちゅー、してやる!」




「ヤロウからなんぞのはいらんは!?」




自分がALEXのバトルに強くなった直接の原因でもある思わぬトラウマの発掘とショタ属性の欠如によって思わず声を荒げたコウスケであったが、対する少年(仮)の方はというと、ヤロウ、という言葉の意味がわからないようで、目をぱちくりさせていた。…育ちがよろしいのか?




「バンチョウ! ムズカシーことばを使ってくるオトナのいいだしっぱなしなんて、ほっときましょうよ!」



「 ! そ、そうだ! ムズカシーことばをつかって、オレをからかうなぁ!」




ぷんぷん! というような体で、少年(仮)がもうれつにじたばたした。ちょっと萌え…と浩介が思ったのは置いといて、




…ーALEXシステム搭載玩具機器同士のユーザーによる対戦遊び。



そのビーター・ゲームの基本というのが、要するにロボコンで、古典で言うところのバトリングだったり、プラレスだったり、ロボトルだったり、エンジェリックレイヤーや神姫バトルであったり、或いはガンプラ・バトルの翻案であることには違いはない。



だがなによりもふさわしい例えをするならば、ポケモン・バトル、…ーのそれであった。




ALEXシステムがあれば、現代人はだれでも手軽にストリート・ファイターになれるのだ。





…ー或いは、デュエリストへも。






(あれは…ー)



「戦隊ロボ、だ!」





テレビ朝日日曜朝7時半からの、“特機戦隊ファイヴレンジャー”の基本主役ロボ、ファイヴグレーター・ロボ、そのDXトイに違いがなかった。




「バカなっ、今時のおもちゃの業界標準に乗っかってアレックスシステム実装とはいえ、安全基準や低年齢児配慮という名の巧妙な販促戦術によって、超合金版ではない通常のDXだと、メーカーが同じパンダイ社商品とのガンプラバトルごっこ程度の機能の対戦モードしかなくて本格派のビーターゲームはできないのに、…ー、まさか!」



「そう、そのまさか、サ。」





不正規改造、という言葉がある。





「キサマ、だれにやってもらった」



「アネキ、だ!」





だろうともなぁ、とコウスケは頭を抱えた。こんな幼児が、通称マジコンと呼ばれる特殊基盤の増設やら内部配線の組み替えなども必要な…この手の玩具の非正規改造なんざ出来る訳がないのだ…ー一瞬期待をしてしまった己もアレだが、ほら、アニメの主人公っぽいじゃん? 



というか、アネキって、姉貴? ソレッテ、ナニ?








「ビーターゲーム、ですねぇ?」






「あっ、失礼致しました。私は日本ビーターゲーム審判協会西東京地区聖蹟聖ヶ丘町委員会公認のゲーム・レフィリー…粳 環、Msうるちで御座います。たまきちゃん、たま姉ぇでもいいよ?


片方の男性のかた? こうしたストリートファイト形式ではおひさしぶりのビーターゲームのようですねぇ…以下、お見知り置きを、」







「ゲームの試合内容と結果如何での無用な争いをなくすためも、私の今、ここにいる理由なのです…特に、そちらのかわいい子ちゃんは、フダツキ、といいますか、なかなかの問題っ子でしてねぇ?」



「よわい奴がわるいんだ!」








「ビーターゲーム、ファイ!」




電脳眼鏡の投影画面で、フェリの蓄電残量を確認する。



現在、75パーセント。発電率比率25%…推測して三分間、全力戦闘をしたら、リアクターからの発電が追いつかずにバッテリーが尽きて、セーブモードとなってしまう。



それに、物の扱い方を知らない子供の事だ。とどめだとか、必殺だとか、デストロイだとか、そういう言葉が大好きな年頃の…つまり、こちらのフェリに加減をしてはくれないだろう…ー




「非公式改造で満足するのはPSPくらいにしておけよ…ッ! フェリ!」



「は、はぃ!」



「俺もおまえとは初めてだ。だから、おどろくなよ」



「はひ?」



言い切るや否や、手に握ったスマートフォンのマスター端末を操作し、装着中の“電脳メガネ”…ー東芝製LM-80スマートグラスにALEXのアプリを呼び出して、浩介はフェリとのダイブ・モードに突入した。




ぎゅん、という感覚と共に、自分の目前にフェリが見ている物の光景が、“出現”する。




「! マスター! わたしっ!」



「ああ。今俺の電脳グラスの視界に、お前の視覚センサーの映像が投影されている。それから、ディフォルメされた俺の思考がアプリケーション経由でおまえに伝わっている筈だ。だから、その、…あ、安心しろっ。知恵と勇気、フォワードとバックアップは一心同体、お前はひとりじゃな…ー」



「ますたぁとっ、ひとつに、なってますっ!」



「は、」



そのフェリからの言葉に浩介は困惑して、次に怪訝になった。


なんというか、戦いを始める前の状態ではなくなっていた。

自分の身体を抱きしめるように両手で己の両肩を羽交い締めにして、すっかりエリス型フェリは蕩けた顔になっていて、




「やみつき、です!」




絶後の喜びと絶頂の快感に小さく可憐なその身体を打ち振るわせて…ーまぁ、なんだか、よいこのみんなにはとてもじゃないが、みせられないよ! だった。




「あっ、あー! え、えええっちなんだ、えっちぃんだーっ!」



「黙れやマセガキぃ!?」




ナニを想像したのか顔を赤らめて大声で宣伝しはじめた少年(仮)に、コウスケは怒鳴り返しておく事を忘れていない。




只、それよりもコウスケが驚いたことは、この河原の植生の茂みが、十五センチにも満たない全高のフェリの視点からだと、まるでジャングルの中に居る気分になる事だった。




(どうする…ー)




現在、コウスケの“メガネ”は内蔵液晶が作動して片方のレンズ部分が不透明になり、それ側の目の網膜にマイクロ・プロジェクターで投影されたアレックスシステムの視界映像がWifi経由で投影されている状態だ。




(バーストリンカー、というつもりはないが、)




五感が、加速した様に冴え渡る感覚がする。…ー実際、このモードではこちらの人間側の脳がコンピューター知性であるALEXと直結をした事によって脳内思考の“肩代わり”…ークラウド・シューティングが発生している状態であるため、現実においても発達障害や成長不調の障害を抱える患者や老齢による呆けや痴呆などへの補助アシストやリハビリ器具としての使用というのが国民健康保険の対象内治療の手段でもあるし、学校教育における教育学習の手段としても本格的な研究が文科省部内では進められていて、たとえば試験会場でのカンニングや運動・卓上問わずの競技選手のドーピングなんかにも、出始めの頃には用いられたと聞く。



体感的には、十五秒が九秒に圧縮されているような感覚だ。

その冴え渡る思考で、熟考する…ー




(なにができる)





…ー武器がない!?







チクショウ、なにもかも勝手が違う!








質や機能を問わなければ五千円台から購入が可能なスマートグラスにおいて、一応ニュー・カタログの最新版とはなっているが同世代の物に比べれば圧倒的に割高な、三万八千円もしたこの東芝製LMー80を選んだかといえば…-




なんというか、意地、のようなものであった。









陶器の皿を…ー






ぱりぃん!







…ー叩きつけた!









ガシィン! ガシィン!!






ファイヴグレーターは今、


おもちゃの各部品のブロックごとに組み込まれた量子保有量操縦疑似マグネッサー・システムによって、特撮番組劇中のCGそのものの形態変化を成し遂げようとしている最中であった。






「ばーちゃん!」



「おれ! いま! ビーターゲームを!」



「ビィトだかビーファイターだかソレスタルビーイングだか知らないが! お帰り!」








祖母によって連れ帰らされていく光景は、少年(仮)の被っていた帽子が脱げ落ちて、その…ー





「女の子…だと、」





端正で愛らしい顔と、艶やかな焦げ茶色のセミロング・ヘアが、露わになった瞬間だった。










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