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分話版 第一話 1-4




ペット・ショップの展示ケージの様な透明ケースの中に、様々な種類の…アレックスロイドやフェアリーメイデン達が七体ほど投入されている。

多くは基本学習と教育研修を済んだ上でメーカーや卸から派遣されてきたエリートOLの“妖精”たちで、そんな彼女らはどうすれば自分の機種に魅力を感じてもらえるか、を熟知している為、店頭のお客様たちに向かっての愛嬌の出し方というのが大変に上手なのである。…ー思わず“おもちかえりぃ!”したくなる程に、




「…ぐっ、」




こらえろ、堪えるんだ、静まれ! 俺の利き腕…ーッ! なんてパントマイムを本気でやってたりもしているのだが。


さて、そんな訳だから…今日も今日とて、私鉄・聖蹟聖ヶ丘駅前のゆめがおか商店街南口側の中程一角に立つ、アレックスシステム関連商品専門店“チェシャ猫の木”の店頭は、老若男女…子供やティーン、ちょっとマニア系な傾奇者がやや多め…などで、その賑わいを呈している。そして、その人垣の中に鶴来浩介もいた。



夕暮れ時で人の往来がにわかに活気づく時分である。

今世紀に入って初めて日本の預かった、ALEX特需と呼ばれて久しい時代であったが、それでも長期的に及んだ不況の残滓を、まだこの国は脱し切れていない。

しかし比較的、世間でいう所の高級住宅地とされる、ここ、聖蹟聖ヶ丘は、所得や生活状況に余裕がある者が大勢を占めていた。

初春の頃の様装に身を包んだ人々の賑わいは、皆それぞれの家族の事だとか、楽しいことだとかの…ハレの感情の思いで、その全てがなされていたといってもいい。



そしてこのチェシャ猫の木の軒先は、ALEXのフェアリーメイデン達のことを、家族や大切な存在と思って過ごしている人々のたまり場でもあった。





「ぐぇへへぇっ…~~この新作のハーディッシュ・バニー、モノをぶち込みたくなるくれぇに谷間の爆乳をギュウギュウに締め付ける胸元のカット、身体のレザー、パンキッシュな武装と網タイツとの絶対領域、…分かったセンスのコスデザじゃあねぇかァ…ッ…ー! ねぇユーノ君?」



「みてみて! この新しいMSGの、“ガトリング・ガンポッド”、超イケてね!?」「マヂマヂ! ぁたしこれ買ぅ! “NEW・FA用汎用フルアームズ・カスタム武器セット”! これでぅちの†澪音†を超武装ミサイルマシマシageageアゲハにしてやってさ!」「まぢー!? ちょーイケてるじゃんひとみー!」「あけみもセンスばつぐん(へんかんできない)だっての! ギャハハハハハハ!」



「おぉお、わしの、わしの萌えキュンメイドは、アゾンの、AZONのネコミミ萌えキュンメイド・セットは、わしのみぃ子のための、予約は…」「じぃさんや、それは先月ここで引き替えたばかりでしょう?(本当はこっそりわたしのかわいいかわいいちぃ子のお誕生日会のおべべにしたのだがね)」



「あのー、あのディーラーさんの三角木馬と鞭責めロウソク責めのセットって、たしかありましたよねぇ?」



「お、俺の! 姉貴の! ピッチピッチのホット・パンツの! 真っ赤っかのォ! 押主!」






…ーそれが一般的に微笑ましいものかどうかは別として。





ちなみに、今の会話はそれぞれ、



①黄色い校帽からちょこんと飛び出たツインテールの可愛らしい小学三年生のちいさな女児


②近所のお嬢様女子校の花も華やぐ女子高生なかよし二人組


③都営聖ヶ丘団地に住まう定年退職してから十年が経つ老夫婦のおじいちゃんとおばあちゃん


④おっとりとした外見の雛菊のような可憐さの女子大学生


⑤近所の国立大学の体育会部活に所属する留年二年生のガチムチマッチョ(女)




…ーの順である。




そう、今週はニューモードの新作アイテムの発売発表日が密集した。

ネットはもちろん、ドール専門誌やホビー系各雑誌でいち早く情報をキャッチした彼ら彼女らが、このチェシャ猫の木に集うたいせつな日であったのだ。





…ー人知れず、浩介はこのチェシャ猫の木の事を、隔離病棟、と呼んでいた。いにしえの伝統に則ったまでだ。意味は伏せてもいない。





「…はぁ、」




ため息だって出ちゃう。だって、男の子だもん、…ーかはともかくとして、









財産管理人の弁護士から、今月の生活費として渡される金子は、果たして後五日ほど待たなくてはならなかった。



やさしいおじさんであったが、だからこそ、時には厳しい言葉で浩介を激励してくれてもいる。



そんな彼が心配しているのは、あの時のあのまま、浩介がもえかすの無気力人間になってしまう事…ーこないだ、本人から断りを入れた上で話された事だった。




だから、少し多めにお金は渡されているのだ。それこそ、ふつうのプラモデル程度やALEXシステムのパーツ程度ならば余裕で複数買いできる程の額を。




それでも…ー





(…たりない)





新品のフェアリーメイデンを買うためには、心細い額ではあった。




フェアリーメイデン。この人工の妖精達は、ひとつが一昔前の安パソコン程度には価格の値が張るのである。




だから、チャイカを予約したときだって、辛抱と苦労を重ねた。

アルカイダではないが、マッケンジーの友達の友達のその友達が口入れした怪しいバイト━━至極全うに、何体化のALEXプラモを仕上げを丁寧に作って郵送しただけだが、どうにも購入者がそのスジの人の好き者だったのが原因だった━━にも手を出して、それで最終的には警察署の刑事さんに保護者…志津菜の親父さんとお袋さんに頭を下げて貰って、それで直後に半泣きの悠里の鉄拳を貰ったりもした。



これがとどめであったが、相当に日常の生活を切り詰めていたので、それで悠里には感づかれていたのかも知れない。





…とにかく、逃したチャンスというのは得てして大きな魚であった。





「はぁっ、」





あのアマ、警察からの補導を(親が)対応してくれたこちらの弱みにつけ込んで…ーかはわからないが、この件に関する被害届は出せていない。

それでいて、“弁済は、自分の身体でっ////////”などとほざいてくれやがったが意味がわからんかったし、そうならぶつ切りのバラバラ肉にして肉屋に売ってやろうか、と脅すと、尋常じゃなく、おびえられた。どうもジェイソンとかフレディだとかそういうのが苦手らしい事を、幼馴染歴十四年目にして初めて知ったのだったが…まぁ、ともかく、







帰りに、駅前のケーキ屋でショートケーキを買おう。



コージーコーナー、悠里の好物だ。それを二ピースほど、




…それくらいの余裕はまぁある。









ショーケースの中の妖精たちが、表情のない浩介の顔を、見送った。









     * * *










だから、自宅の玄関の扉の前に置かれたその小包を見たとき、最初はなんの事か分からなかった。





「? …ーへ、」





なんだろう、宛名は確かに自分の者で、宛先もこの家の住所だった。


だけど、それ以上に、呆然としてしまう文章がその伝票には記されていた。




なので、例えば今時、不在時の荷物対応でこんなやり方はない、だとか、宅急便の配達担当の名前が、ここの数となりの配達エリアの者で、この番地の担当のものではないことだとかに…ー浩介は気がつけなかった。




西側の特別機密を盗み出したソ連のスパイの様な用心深さで、浩介は素早く家の中に小包を運び込んだ。






なぜなら、その小包には…ー









…ー死んだ両親の名前で送り主の欄が記入されていたのだから。







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