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英雄願望とキセキの種  作者: 土谷兼
第一章
9/27

1-8

 部屋中に散らばったアレやソレを片付け、カーペットを一通りコロコロして、洗濯物をクローゼットに押し込み、これでよしと玄関を開けると、途端に二人がニヤニヤした笑みを向けてきた。

 無性にドアを閉めて鍵をかけたくなる。


「それじゃ、またね」

「はい。またお話しましょう」

 葦原さんは笑顔で自分の部屋へと消え、つみれはスッキリした面持ちで俺の部屋に上がり込む。



「……さて、怪しいのはあの辺かな」

「なにをなさるおつもりで?」

「決まってますよ。先程隠したものを探し出すんです」

「酷い」

 それじゃあ、片付けた意味がないじゃないか。あまりにも惨い仕打ちですよ、つみれさん。


「私、見つけるの得意ですから」

「まさか……おまえが伝説のエロ本ハンターつみれっ!」

「なんですかそれ。えっと、うちの弟は大体この辺りに……」

 俺が止める間もなく、つみれは脇目も触れずにベッドと本棚の隙間に手を差し入れる。

 バレバレだった。さすがエロ本ハンター。



「おっ、このいかにもゴテゴテした表紙の雑誌は……」

「くっ!」

「……うわぁ」

 つみれが取り出した雑誌は、俺が隠したばかりの『テレビちゃん 五月号』だった。カイアストが堂々と表紙を飾っている。

 とても恥ずかしい。


「先輩……幼児向け雑誌はちょっと……」

「でも、それが最先端の情報誌なんだよね。ネタバレっぷりが半端ないけど」

「付録を作った形跡がありますよ?」

「暇だったのでつい……」

「………」


 つみれの冷ややかな視線が心に突き刺さる。

 エロ本の方が遥かにマシだったというような表情が、特撮に対しての理解のなさをまざまざと映し出している。

 悲しい。悲しすぎるよ。



「……先輩、いくら探してもエロ本が見つからないんですが」

「なら、諦めるといいよ」

 つみれは積み上げたテレビちゃん他特撮雑誌を叩きながら俺を睨み付ける。

 馬鹿め。今の時代、そういうのはパソコンのな……いや、やめておこう。


「……ぬぅ、仕方ない。見なかったことにして夕飯を作りましょうか」

「そうだね。それがいいよ」

 つみれが台所でゴソゴソとしている間、覗くなと言われたので暇潰しにテレビちゃんを読み返す。

 やはり、放送より一ヶ月以上前からアイゼルネスフォームを紹介しているのは、さすがにやりすぎだと思う。もはやネタバレを通り越してテロだよ。

 あと、促販CMで本編より早くおもちゃを出すのはどうにかならないのか。せめてもう十分くらい我慢してほしい。


「……ん?」

 台所から漂ってくるバターの香り。

 見ると、つみれがかつてない程真剣な目をして鍋と対峙している。今のところは焦げた臭いもなく、まともな料理が出てきそうな気もするが……あのつみれのことだから何が起きるかはわからない。


「ふぅ……」

「お、出来たのか?」

「あとはオーブンで焼くだけです。もう少し待っててください」

「オーブンねぇ……」

 食材といい、鍋とオーブンといい、なにやら思い当たる節がありすぎる。とりあえず料理が出てくるまで黙っておくが。


「おー。回ってる。うわ、熱そぉ」

 つみれのアホな様子を眺めながら待つこと十分。チンッという軽快な音が聞こえ、つみれが料理を運んでくる。

「やはり、グラタン……」

「どーですか、先輩。私だって料理くらい出来るんですよ」

「おまえ、これ家庭科の授業で作ったろ。俺もちょうど二年くらい前に作ったよ」


「うぐっ……」

「おまえなぁ、ろくなレパートリーないことがバレバレなんだよ」

「うかつだった。まさか何年もグラタンを作り続けてたなんて……。ってことは、あの先生もたいしてレパートリーないんじゃ……?」

「おまえと一緒にすんな」

「ううっ……」



 アホだ。アホすぎる。

 だが、黒焦げ料理やトンデモ料理よりかはつみれらしい気がする。まともなものが出てきただけでも評価してあげるべきだろうか。

「ってか、グラタン皿とかどうしたの?」

「家から持ってきました」

「初めから飯作る気で来たのか。ご苦労なこった」

「それより、冷めないうちに食べてくださいよ」

「あぁ……そうだな」


 意を決してグラタンを口に運ぶ。

 アツアツだけどダマが残っているホワイトソース。ちょっと茹ですぎ感のあるマカロニ。一個一個が妙にでかいブロッコリー……。

 ……うーん。



「どうですか?」

「お世辞込みの感想と正直な感想、どっちがいい?」

「……じゃあ、お世辞込みで」

「うんまっ。ほっぺたが落ちそうっ」

「うっわ、わざとらしいっ」


 俺のお世辞はお気に召さなかったようで、不満そうな目を向けてくる。

 でも、仕方ないよ。誉めようがないんだもの。

「正直な感想はどうなんですか?」

「……スーパーとかに売ってる冷凍グラタンを偏差値五十くらいとすると、これは五十四ってところかな。なにもかもが微妙」

「でも、まぁギリギリ進学校って感じですね」

「田舎のな」

「………」



 結論。まさに、つみれ味。

 この中途半端なところがなんともいえず、非常につみれらしい。

「あ、このサラダは美味いよ。マヨネーズとの相性が抜群だね」

「全然嬉しくありません」

「……ですよね」

 レタスとトマトとツナを盛りつけたものを褒められてもね。そりゃ、嬉しくないよね。


「そういや、おまえ電車はいいのか? そろそろ終電が出るぞ」

「んっ! そりゃまずいですよっ!」

 現在、時刻は八時を回ったところ。

 うちの地元は十時過ぎに着く電車が最後なので、次に花柳駅を出る電車に乗らないと帰れなくなるのだ。つみれとはいえ、さすがに女の子を外泊させるわけにはいかないので、ちゃんと帰ってもらわないと困る。


「あふっ……あひゅっ……」

「いや、諦めろよ」

 つみれは自分の分のグラタンを必死に掻き込み、クピクピとお茶を飲み干す。

 そうしているうちにも、刻々と時間は過ぎていく。


「ごちそうさまっ。あ、皿は近いうちにまた取りに来ますので。あと、ホワイトソースが余りに余ってますので好きに使ってください」

「えー。ってか、また来るのかよ」

「嫌なんですか?」

「まぁ、いいけどさ。ほら、自転車で送ってやるから、さっさと支度しろ」

「やったぁ」


 つみれが慌てているうちに食べかけのグラタンにラップをして冷蔵庫にしまう。ちらっと鍋を覗いてみると、かなりのホワイトソースが余っていた。

 どうすんだこれ。しばらくグラタン生活か?

「支度出来ましたっ」

「んじゃ、行くか」



 なんだか今日は色々あって疲れたな。明日は朝早いし、こいつを送ったらさっさと寝るとしよう。

 そういえば、徹夜していたしね……。


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