1-9
日曜日の朝。
それは一週間の中で最も輝いている時間。
毎週七時二十五分に起床し、心躍らせながらテレビの前に座る。日頃だらけまくりで昼過ぎ起床もざらな俺だが、日曜の朝だけは早起きを欠かしたことがない。
冷蔵庫からお茶を取り出し、コップ一杯を一気飲みしてからもう一度注ぎ、七時半の番組に備える。
カイアストは八時からだが、その前に『解決戦隊 オンブズマン』という戦隊シリーズがやっているのだ。ネーミングからしてわかるように、もはやギャグ路線を突き進んで、どこに行くのかわからないような作品である。
人々の生活を脅かす悪の組織、プロシミンと戦うオンブズマン。
地球の平和を守るというよりも、次々と殺到する苦情を処理するために奔走する、妙にスケールの小さいヒーローたち。
馬鹿ばかりな悪の組織とアホ揃いのヒーロー勢の織りなすギャグ全開のストーリーや、政治的にもかなーりアレなネタのオンパレードに、見ているこっちが冷や冷やする。
なによりもスーツもださけりゃロボもださい。
しかも、えげつないおもちゃ戦略により登場しているロボも既に八体。ならせめて売れそうなデザインにしろよと思ったが、いざ番組が始まってみると、そのだささがなんともいえない味を出している。
そんな作品だからか、俺はカイアストのように熱中することも出来ず、とりあえず毎週流し見している程度だ。
まぁ、面白いっちゃ面白いのだが、なにより無事に最終回が迎えられるのかが心配である。
「……いやぁ、今週もギリギリなネタだったな」
差別だ差別だと連呼する側が差別を助長させているというテーマを扱うのはいいが、もっとオブラートに包まないと、本物の方々に苦情を言われてリアルにオンブズマンに助けてもらわないとならない事態になりそうだ。
一体誰と戦っているのだろうか制作側は……。
そしてついに、カイアストの時間がやってくる。
待ちに待った一週間。次回予告では要の画家としての一面を見せるような感じだったが、一体どうなることやら。
画面右上の時刻が八時を指し、物語が始まる。
何週間ぶりかに登場する要のアトリエ。どうやらここ最近姿を見せない要を心配して、由美子さんが様子を見に来たらしい。そしてアトリエで倒れている要を見つけた。
慌てて駆け寄る由美子さん。かろうじて意識がある要。
最後の力を振り絞って、要は由美子さんにこう告げた。
めし……と。
「アホだ。まぁ、無職だしな……。金持ってないもんな……」
人々を襲う怪人エニグマと戦うヒーローも、金欠状態での空腹には勝てないよな。
悲しいな……。
そしてオープニングとCMの後は一変して、由美子さんから餌をもらっている場面から始まった。どうやらエニグマとの戦いのせいで、僅かばかりの収入源であった似顔絵屋をろくに開けていないらしい。
途方に暮れる要だったが、この際思い切って恭一郎に怪人退治のギャラをもらえないか交渉することに。必死の説得の結果、要は晴れて警察のお預かりとなり当面の生活の保障を手に入れた。
警察に保護されるヒーローというのは、なかなかにシュールな光景である。そして上機嫌な要にエニグマの出現の報が届き、勇んで戦いに挑む。
……が、敵の足の速さは凄まじく、手に入れたばかりのアイゼルネスフォームとの相性の悪さもあって取り逃がしてしまう。
その後要はおもむろにスケッチブックを取り出すと、先程のエニグマの絵を描き始めた。どうやら、今までに戦ったエニグマの絵を描き続けているらしい。アトリエに連れて行かれた恭一郎が見たものは、荒々しいタッチで描かれた怪人たちの油彩画だった。
一話で登場したキュクロプス怪人や、要が敗北を喫したスキュラ怪人……。
数ある絵の中でスキュラ怪人だけが描き途中というのは、意味深でとても面白い。
恭一郎が何故こんなことをするのかと聞くと、要は自分のしてきたこと忘れないようにするためと答える。この絵を見ていると怪人を倒した時の感触が嫌でも思い出されると……。
「かっけぇ……」
漢だ。俺もいつかこんな漢になってみたい。
戦わなくてはならない状況に陥って、自分の力に怯えながらも必死に決意して、さらに倒してしまった相手のことまで考えるなんて、そう出来ることではない。
フィクションであることは十分わかっているが、それでもなお憧れてしまう。
それがヒーローってものだろう。
「……ふぅ、面白かった」
二クール目に入ってから、さらに面白さに磨きがかかったカイアストに期待は尽きない。
このまま中弛みせずに最終回を迎えてほしいが、さすがにそこまで望むのは酷のような気もする。夏休み、特にお盆の辺りは番外編的なことをして、一話くらい見逃しても支障のないようにしなければならない。
制作のペースが厳しいと最悪総集編ということになる可能性もある。
その辺がどうなるか、期待と不安が入り混じるところだ。
「さて……。もう一度見るか」
今回はアクションシーンが少なかったから、どこか物足りない感じがする。ドラマ的要素も必要だが、やはりアクションがなければ始まらない。
カイアストのスーツアクターである成岩コウジのアクションは、変身前の俳優の動きに合わせた感じがして、アクションに一振りのスパイスがきいている。
ただ……歳のせいか、ちょっとアレな時もあるから注意。