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いとおしき……

作者: 大和麻也

 入院が長引いたこともあり、僕の学習はクラスメイトたちから借りるノートが頼りになっていた。数人の友人たちが数日に一回やって来ては、何日ぶんかのノートを数冊貸してくれる。

 元々持病を抱えていて入院も初めてではない。しかし中間テストの二日目が終わったところで倒れてしまったがために期末テストへの対策はまるでできておらず、中途半端となった中間の成績も考えると、次の期末で失敗するわけにはいかなかった。

 とはいえまとまった量の記述を写さねばならず、なおかつ不規則に発作に襲われるせいで少しずつ読み切れなくなったノートが積まれていく。さらに不安を煽るのは、コース制になってから難易度の上がった科目たちで、自分の友人には同じコースでかつそれらの科目に精通している人物は多くないことだ。彼らがノートを貸してくれることはありがたいのだが、正直板書をそのまま写真の如くノートに書き込んだだけのそれでは安心できない。年配の教科担任たちが作るテストはそれほど甘くない。

 病欠だから期末くらい失敗しても心配はいらない、と僕の不安を取り除こうという言葉も聞かれたが、病室の窓から木々の葉が黄色く色づく様を見て過ごす僕の気分を本当に前向きにすることはなかった。

 朝のニュースで気象予報士の女性が十二月並みの寒さを伝え、今年初めてコートをまとった日だった。友人が持ってきたノートが普段と違っていることに気が付いた。友人のものはあまり使い込まれておらずかえって綺麗な表紙と、味気ない板書の書き写しの羅列とで機械的に読むまでのものだった。ところが、きょうのものは橙色の表紙に科目の名前だけ素っ気なく記され、その割に中身は授業内容のメモやマーカーなどの装飾に富んでいて、受けてもいない授業を思わせる。まっすぐに整列し、それでかつ生気を感じる文字たちが並んでいた。

 柔らかい質感のそれは、女子のものであると簡単に想像できた。

「お前、こんなに綺麗な字を書けたか?」

 冷やかすと、友人は笑った。

「そりゃ野上(のがみ)のノートだぜ。さすが小さいころ書道教室に通っていただけあるよな」

 野上という名前はよく覚えていた。クラスは違えどコースが同じで、隣の席だ。いいや、それ以上に彼女を目立たせていたのは、コース内で一番の成績を収めていることだった。曲者揃いの老師たちがあれこれと罠を仕掛けたテストから、易々と高得点を奪っていた。

 曰く、僕がノートを返しきれなくなるなど又聞きと転写とだけに頼った勉強に限界を覚えていることを友人も承知しており、自分たちも手元にノートがなかったら困るから、断られても仕方がないと思いつつ野上に頼み込んでくれたのだという。すると、思いがけないことに野上は快諾したらしい。

「頭のいい野上の書いたノートなら成績アップも間違いない、良かったな。……ついでに、野上と話せて俺も嬉しいぜ。相当美人だけど、意外とチャンスがなくてあんまり話せなかったんだ」

「そうか? 野上とはよく話したけど。去年は同じクラスだったし」

「ああ、はいはい」

 友人はいやらしく笑うと、手を振りつつ病室を去って行った。

 その足音が聞こえなくなってすぐに、オレンジ色の表紙を開いた。しばらく一心に読みこんで初めて、野上がどういう少女なのかがわかった気がした。

 ノートは彼女なりのルールでまとめられていた。重要な単語だけ赤い色になっていて、その下か横かに二、三行の説明がつけられているのだ。しかも教員たちの無駄話も重要なものは端のほうに小さくメモされている。表を書くときには定規を使っているようだ。黒板に描かれる理解に難い図画もわかりやすく描き直した。テストであることがわかった内容には星印で区別してある。

 話についていけていないときも間々あるらしく、慌ただしい消しゴムの跡や斜めに張られた修正テープが散見される。漢字をうっかり間違えたままにしているところがある。前の試験対策に徹夜してコーヒーでもひっかけたのか、ページの端に薄茶色が染みている。鎧をまとった人間が戦っていたり、会議をしているふうな数人が言い争ったりしているような些細な落書きがまた可愛らしい。ナポレオンの名前の脇には小さく吹き出しがつけられて「つよい! でも最後はしょぼい」

 何よりも、その美しい文字たちが大好きだった。読んでいるうちに文字ひとつひとつの癖も憶えてしまったほどだ。彼女をそのまま表すような柔らかい丸みが、優しいはらいが、踊るような跳ねが、ペンが躓く線の揺れが、一画めの誤りを無理やり書き潰した汚れが、――すべていとおしくてたまらない。

 彼女がペンを握りせかせかと手を動かしている姿を想像した。いままですぐ隣にいたのにまったく気に留めていなかった。彼女の癖を真似て字を書いてみた。すらすらと手が動いて驚かされたが、結局似ても似つかない自分の字形にがっかりした。彼女が何を書き間違えて修正したのか理由を考えた。間抜けだと思ったり、仕方のない間違いだと弁明を付け加えたりした。

 ノートを返すのが惜しかった。また友人がやって来て野上のノートを回収しようというとき、つい、とうに終えている書き写しがまだ終わっていないと嘘を吐いてしまった。彼は自分が貸すノートを見ればわかるというので渋々野上のノートを渡した。

 彼から新たに借りたノートから写さなくてはならない部分はほんの少しであった。しかしそれでも野上のものと比較してしまい、寂しい思いをする。慰めに野上の字を書くこともあったが、やはり似ておらず、彼女の字の模倣でしかないことがいっとう物足りなさを掻き立てた。

 野上のノートを三回ほど借りた。その間野上に会ったわけではないが、野上のノートを見ることが楽しみでたまらなかった。友人たちは僕のその様子を見て、しばしば野上が恋しいのかとからかう。けれども僕はわざわざ顔を赤くして否定するようなことはしない。

 その三回目のノートを返すときには、もう入院も残り一週間というころになっていた。友人はノートを渡す代わりに、レポート用紙の束を渡してきた。野上がまとめたものだという。

「期末も近くなってきただろう? 二週間前だったか? それで、野上も自分のノートをテスト勉強に使いたいから、今回のテスト範囲を全部そのレポート用紙に整理したんだとよ。ここ二日くらいノートと並行してそれに授業内容を書いてたんだぜ? はあ、栗山(くりやま)も幸せな男だ」

 しかし僕は、その心のこもった紙の束をぱらぱらとめくっただけで、それはあのノートと比べてあまり快く思えないものと感じていた――



 退院を果たし再び当校できたのは、ついに期末テスト前の最後の登校日であった。

 周囲の心配の声をありがたく受け取りながら受けた授業は、一切集中できなかった。どんなに自制しようとしても、ちらちらと野上のほうに目が行ってしまう。それに気が付いたのか、後ろに座る友人から幾度か椅子の脚を蹴られた。それでもどうしても、いままで僕が病室で開いていた彼女のノートが、現在どのような姿でいるのかが気になって仕方がなかった。そして、彼女の手の動きに見惚れていた。

 その日の最後の授業が終わり、多くの生徒が帰宅した静かな教室で、彼女が声をかけてきた。いまさらになってまじまじと顔を見たら、ああ、と心の中で声が漏れた。

「栗山くん、わたしのまとめは役に立ちそう?」

「……うん、きっと」

「なら、テスト範囲でわからないことがあったら訊いて」

 彼女の言葉に甘えない選択肢はなかった。授業で用いたプリントやノート、そして彼女が作った僕専用のノートを机に広げ、彼女と向かい合った。僕がよくわからない単語について訊ねると、彼女は手を伸ばしてその単語と関連のある記述を指差しながら僕に教えてくれた。

 彼女の丁寧な説明も、実のところほとんど頭に入っていなかった。個人指導の最中に起こる些細な出来事のたびに胸が高鳴ってしまうのだ。

 解説に熱が入るにつれて、彼女が意味の解らない身振り手振りを始めたとき。しばしば顔が近づき、はっとしてのけぞった彼女が恥らいながら肩を竦めるとき。机の下でふたりの脚が交差したり、撫で合ったりするとき。うっかり解説を間違えてあたふたする彼女が冷静さを取り戻し、くすりと笑うとき。

 そして何より、彼女の美しい指先が不意に僕の手の甲に触れるとき。

 僕は時に嘘を吐いた。しっかり理解しているところでも、わざと「わからない」と解説を求めるのだ。それらはすべて難解なものにした。とても概念的な部分や、時系列の整理を要する部分だ。そうすると、彼女がわかりやすく伝えようと、図や短い単語たちを並べる。難しいところだから仕方がない、と疲れた様子の彼女が白紙の上にペンを走らせ描くそれらは、やや乱雑な線の集合になる。僕はそれが見たかったのだ。

 うっとりと時間を過ごすうち、日はとっぷりと暮れてしまい、下校時間まであとわずかとなった。彼女は驚いたように立ち上がり、せっせと帰宅の準備を始める。僕も名残惜しさを感じつつノートを閉じ鞄に押し込んでいると、一足先にスクールバッグに荷物をまとめコートを羽織った彼女がすっと僕の横に立ち、肩にそっと右手を置いた。

「これだけやれば大丈夫だよ」

 彼女の微笑。白く透き通った肌の手。

 僕は問うた。

「どうして僕にこんな親切に?」

 彼女は唇を嚙んだ。手は肩に添えられたまま。

「だって、放っておけないじゃない。その……病気で休んだ栗山くんに何の手助けもせずに、進級できなくなったら不憫だし」

「僕は友達に充分助けてもらっていたよ。野上がわざわざここまでしてくれることには感謝しているけれどさ、自分の勉強に集中していたって、僕は悪いように思わなかった」

「ええと……あの、同じコースで、進路もきっと似てるでしょ? あ、ひょっとすると、来年はまたクラスメイトかもしれない。一緒に勉強できる仲間が欲しいでしょ?」

 その手が軽く握られた。

「もう、理由なんてどうだっていいでしょ、栗山くん?」

 ほとんど無意識に、僕は彼女の手に自分の手を重ねていた。冬の空気にさらされたそれは、指先が冷え、少しばかり乾燥している。それでも、傷や瘤のひとつもない彼女の手からは、僕を心地よくさせる優しさが伝わってくる。体温とは違う温もりを感じる。

 僕の憧れは、見つめているだけでは耐え難くなっていたようだ。もう一方の手も伸びて、彼女の手を絡め取るように捕えた。

「ちょっと、何してるのさ……」

 彼女は拒まなかった。僕の両の手は彼女を撫でまわし、離そうとしない。頬ずりや口づけだってしたいくらいだった。沈黙のうちに至上の悦びを味わい尽くそうとした。

「ねえ、もう行こう」

 時間を気にした彼女が、その右手を引いて振り払うように僕の両手を解いた。そのときの彼女の表情は僕に何かを訴えているようだったが、何も心に響いてこない。その複雑さは、あのレポート用紙の束に見た文字たちに抱いた感情に似ていた。

 チャイムが鳴った。それはいつも無機質で残酷なものだ。黙りこくった男女は急いで校舎を出た。

 校門を出て少し歩いたところには自販機がぽつりと置かれている。

「何か奢るよ。きょうのお礼に」

 僕のほうから声をかけると、縮こまっていた彼女はぱっと表情を晴らした。

「ホントに? なら、お言葉に甘えちゃおうかな」

 その声は、病室で聞いたことがあるような気がした。

 彼女は、寒いから温かいココアを飲みたいと言った。五百円玉を入れ、自分が欲しいと思ったコーヒーと一緒にココアを買った。取り出し口からそれらを取り出すと、手袋の上からもじんわりと熱が伝わってくる。

 彼女が缶を受け取ろうと手を伸ばした。手袋はしていない。

「野上、手袋はしていないのか? 今年の冬は特に寒いのに」

「この前自転車に乗ってて転んだとき、破けちゃったんだ。テストが終わったら買いに行こうかな」

 ふふ、と無邪気な笑顔に、僕の背中が寒気ではない不気味なものに撫でられ身震いした。

 僕は缶コーヒーを小脇に抱え、ココアの蓋を開けてから彼女に渡した。

「あ、ありがとう。力がないから開けるのが苦手だったんだ」

 そう言って、熱いスチール缶を包んだ。白々としていた指先がにわかにうっすら赤く色づいた。



 無事に期末テストを終えたものの、テスト休みの期間、僕はまた病院に入った。

 さすがに病み上がりの身体で例年以上の寒さの中を学校へと通い、ましてや夜更かしをしてでも全力を以てテストに挑んだことが障ったようだった。身体を壊す代償に、幸い今学期の成績は充分なものになりそうだ。

 今度の入院は数日だけで済みそうだった。大袈裟にも個室に入ることになったが、一晩眠ればかなりすっきりしていた。家で過ごすのとさして変わらない、少し退屈でとても穏やかな時間が過ぎる。

 それでも心配性な見舞い客がやってきた。

「栗山くん、大丈夫?」

 控えめなノックとともに入ってきたのは、野上だった。彼女がこうして僕を病院まで訪ねてくるのは初めてのことだから、きっと僕の友人たちから聞きつけて来たのだろう。

「僕は全然平気。それより野上こそどうした、息が上がっているじゃないか」

「自転車に乗って来たからね。それだけだよ」

 彼女は病床の傍の丸椅子に腰かけた。深呼吸しながら、膝の上に両手を重ねる。その手はかじかんでいるようだった。

 落ち着いた頃に世間話を始める。

「手袋は? 買いに行っていないのか?」

「え? ああ、うん。明日行くつもりだった」

「なら、ちょうど良かった」

 紙袋を取り出し、彼女に手渡す。驚いた彼女が開けていいかと尋ねるので、もちろんそれを許可する。ごそごそと彼女が取り出したのは、橙色の手袋だ。

「いままでノートを貸してくれたお礼」

「え、いいの? ありがとう!」

 彼女は早速手にはめるなどして喜んだ。

「あったかい」

 毛糸をまとった両手を頬に当ててそう呟いたときが、プレゼントした僕にとって最高の瞬間であった。

「そうだ、これは返したほうがいい?」

 彼女お手製のテスト対策の束を足の上に広げてみせた。

「いいよ、持ってて。それは栗山くんにあげたの」

 手袋を外しながら彼女は笑った。でも、僕はこれが欲しいわけではない。

「なあ、どうせ同じ内容が書いてあるなら、野上のノートが欲しいな。譲ってくれないか? このレポート用紙は返すから」

 彼女にとっては妙な提案で、当然、困惑する。

「でも、ところどころ修正液とかで汚れてるし、恥ずかしいことも書いてあるし……」

「僕は気にしないよ。むしろ、野上の手元に勉強しやすいほうが残るんだから、いいじゃないか」

 語調にやや力が入る。野上は気圧されがちに、まあ、いいよ、とおずおず頷いた。鞄からノートを取り出し、レポート用紙と交換した。どうしていまノートを持っているのかと尋ねると、僕の入院を知った彼女が急いで出かけるために学校の鞄を手にしたため、たまたま持っていたのだという。

 そう返事をしながら、彼女は薄ら頬を染めて俯いていた。まもなく彼女は自分の顔が覗き込まれていることに気が付くと、さっと立ち上がって誤魔化すように言った。

「ね、ねえ、紅茶をいただいてもいいかな? そこにティーバッグと魔法瓶があるよね。栗山くんのぶんも淹れるから」

 僕の返答を待たずして、彼女はお茶の準備を始める。僕が淹れるからいいよ、――そう言いたかったのに。手首に筋を浮かべて重い魔法瓶を持ち上げ、湯気を浴びながらカップに注ぐ。僕の右手がノートを握る力が強くなり、ぺこりと表紙の曲がる小さな音がした。

 彼女がお湯を注いでいるあいだ、僕は何かに急き立てられていた。

 焦りのあまり喉の奥が緊張して、肝心の言葉がなかなか出せない。

 あろうことか、ようやく言葉が出てきたのは紅茶を淹れ終えた彼女がカップを持って振り返ろうというときだった。


「いいから、止せよ!」


 その瞬間、びくりとした彼女が椅子に足を引っかけ、手を滑らせた。

 ティーカップが湯気を振り払って宙を舞い、熱湯が飛び出す。

 ふたつのカップのうちひとつはベッドへ落ち、もうひとつは床へ落ちて割れた。

 彼女の短い悲鳴と陶器の割れる音が病室に響く。

 紅茶は尻餅を突いた彼女と、彼女のノートと僕の膝に降りかかった。

 その惨状を目にした刹那、僕は腹の底から叫んでいた。

 彼女はよろめきながら何とか立ち上がると、手近にあったタオルを右手に包むようにして握り、僕の身体から紅茶を拭きとろうとした。

 ごめんね、ごめんね――熱かったよね……。

 ぼろぼろと涙を流し震える声で謝りながら、懸命にタオルで擦る。

 タオルを握る手は、熱い湯がかかって火傷をしたのか、異常なほどに赤い。

 タオルの内側は、カップの破片を触って怪我をしたのか、血で汚れていた。

 あ、ああ、と声を震わせることしかできない。

 僕のことはいいから早く手を冷やして傷の手当てをしろ、心の中では喉が潰れるほどに叫んでいた。

 そのあいだも僕は、ぐしょぐしょになった彼女のノートを、火傷した両手でひん曲がるほどに強く握りしめていた。



 入院は長引いて、復帰は三学期になってしまった。

 冬休み中、一度だけ野上が見舞いに来た。しかし僕は、包帯で覆われた彼女の両手を見た途端に涙が溢れて正気を失い、ほとんど無意識のうちに大声で暴言を吐いて追い払ってしまっていた。病院にいるあいだ、茶色く滲んでぼろぼろになった橙色の表紙を常に抱きしめていて、なぜかそうせずにはいられなかった。

 一月の最初の登校日、僕は廊下で談笑する彼女のそばを横切った。彼女は手を後ろに組んでいた。振り返ると、火傷と裂傷の跡が惨たらしく残っているのが見えた。

 もう、彼女に対して特別な感情は抱けなくなっていた。

 以来、授業中ぼうっとして彼女の筆跡を真似た落書きをしていることがある。しかしふとそれを見ると、文字たちにまるで生気がないことがどうしようもなく許せなくなり、湧きあがる激しい怒りに任せて自分の手にシャープペンシルを突き立ててしまう。

 そのせいで、僕の両手には生傷が絶えない。

 我に返ったとき傷があればもちろん治療する。とはいえ、手当てしても元のようには戻らず、歪な姿になってしまう。周囲はそれに恐怖する。友人たちや大人たちは、せめて手を使わないときだけでも手袋をして隠したほうがいいと言うのだが、そんな気にはなれない。むしろその手を沸騰する湯や凍てつく雪の中に突っ込んでやりたいと思っている。

 いま唯一自らの手に乱暴したい衝動を鎮められるのは、もはやあのノートを開くときだけである。

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