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導け、女神様!

作者: いちご豆乳

「―――そなたの道に光あらん」


 跪く金髪の青年に、女神リーデレッドは祝福を授け、ふっと空気へと解け行く。それと同時に神殿内を照らしていた淡い光が消え去り、ろうそくの炎のみが辺りを映し出した。青年はゆっくりとした動作で立ち上がりつつ先ほど受けた神託を思い返す。


――魔窟にてかの城の守護者を倒し、孤島への路を開くべし。

  聖なる樹木の守り人、神に愛されし手を持つ者の助力のもと箱舟を作れ。

  汝、それを用いて孤島の城へと行かん。


 魔窟というのはこのミドルタウの北西に位置する、マッドヘッズ山のことであろう。あの山は麓のところから手ごわい魔物がいて、探索が進んでないとどこかの町できいたことがある。そしてその山頂からは不思議な光の波が目撃されていると聞いたことがある。きっと、そこに守護者がいるに違いない。

 青年は一人でにうなうずき、神殿の外へと足を進めた。彼の向かう先は、宿で安らかに眠っているであろうパーティーメンバーのもとである。今受けた神託を忘れる前に白魔導師に告げ、すぐさま山へ向か

うつもりであった。

 神殿からそれほど遠くない位置にある宿へとすぐに戻り、


 「よし、魔窟へいこう!」


 おはようの挨拶もなしにメンバーを叩き起こし、笑顔で出発を促す金髪の青年は、世界の希望。

 ただ王都を見てみたいと始まった少年の旅。始まりの町では、ダンジョンにて行方不明になった研究者を助け、小休憩でよった町では悪徳商人から町を解放した。道に迷ってたどり着いたエルフの里では、炎に包まれる里を水の精霊の力を使い助け、エルフからの永遠なる隣人の名誉を授かる。やっとのことでたどり着いた王都では、誘拐されかけた少女を助けたら王女で城へと謁見するはめになった。道端で足をくじいた老婆を助け、裏路地で迷子になった幼女を助け、迷子の猫を保護もした。

 ゆっくり、様々な人と関わりあっていった旅は、一年半となった。本来なら一年と少しでつく道のりである。

 その間に少年は青年となり、世界は魔王の侵略で荒れすさむ途中であった。

 彼は、数多の試練を乗り越えたとされ、王都にある中央神殿にて女神リーデレッドに祝福を授けられた。

 彼は、魔王に挑む勇者である。

 そして彼は―――――――女神リーデレッドの胃痛の最もたる原因でもある。









「女神様、大変です!勇者がマッドヘッズへとむかいました。いまのレベルですと全滅です!」


 下界への神託を行い、一息をついた彼女の部屋へと舞い込んできた一報。悲鳴とたがわぬ報告に、ふかふかな椅子に預けていた身を起こし、女神リーデレッドは頭を抱えた。


「なんでマッドヘッズに向かうのかしら……行くべきところは孤島に最も近い海岸にある海の魔窟でしょう」


 マッドヘッズは魔王城に向かうよりも危険な場所なのだ。たとえ魔王を倒せても乗り込める場所ではない。お膳立て|≪フラグ立て≫は完璧なはずなのにことごとくルートを外れてくる勇者に、後どれくらい頭を悩ませればいいのだろうか……遠い目となった彼女を


「いかかがされましょうか?」


 報告を運んできた天使が現実へと引き戻す。


「近くの物知りな老婆をどうにかして、勇者と接触させるように、運命を配置しなおさないと……」


 マッドヘッズ山に近い場所にいる者なら、山に魔窟なんて名称ではないことがわかるはずだ。ついでに本当の魔窟である場所を教えられればなお良い。

勇者は事前に魔窟の情報を手に入れているはずなのに、困ったものであった。


「大変です。物知りな老婆はいません。ただ、物知りな幼子ならいます!4、50年後に老婆としての配置となりますが……」


「そのころには世界が滅亡しています。老婆にこだわりはないから、その子をどうにかして勇者と接触させましょう。いつも通り、細かな設定は頼みます。ただ、勇者にマッドヘッズ山をあきらめ、ただしい場所へと導くように」


「了解いたしました!」


 一礼をして消え去っていく天使を見届けると、リーデレッドは再び椅子へと身を預ける。

 勇者は、ルートを無視するのも得意だが、異性とのいらぬルートを作るもの得意なのだ。旅に時間がかかったのも半分とはさすがに言わないが、それでも異性がらみのルート改築で時間が食われた。幼子なら大丈夫だとは思うが……これ以上寄り道に時間はかけてほしくない。魔王が神界へと近づきすぎているのだ。

 この百年の間で魔王はただ魔物を統べるモノではなく、もっとも神に近しい生き物となってしまった。あのドラゴンを抜いてだ。このままでは魔王は魔神へとなる。神の称号を手にしたモノは、無から生を創ることができる。魔神が好き勝手に魔物を創っては、世界の生き物の均衡が崩れ去るだろう。それでは困るのだ。

 世界のためにいくつもの運命を読み取り、均衡を保つように最善のルートを勇者に示す。これが女神リーデレッドの仕事だった。



「勇者が船を手に入れた嬉しさのあまり、すぐさま魔王のもとへ乗り込もうとしています!まだちゃんと結界を解いていません!」


 無事に幼子から情報を聞き出した勇者が、正規のルートに入って幾日か経った頃。ゆったりと他の仕事を行っていたリーデレッドのもとへ、再び天使が悲鳴を上げて現れた。

 果てして、何回全滅という言葉を耳にしたことだろうか。

 果たして、何度下界へと降りたち、勇者を導いてきたであろうか。

 度重なる下界訪問やルート構築への悩み、使命へのプレッシャー。それらについにリーデレッドは屈した。


「あんのだめゆうしゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ」

「女神様が下界の穢れに毒されてしまった……」


 おいたわしいと涙ぐむ天使の傍ら、女神は一人勇者の名前を叫び罵詈雑言を吐き続けた。

 女神が勇者を魔王の元へと導くのには、まだ時間がかかりそうである。

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